[リミット] | 物書きの大脳辺縁系~ライター・白土勉のブログ

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【大脳辺縁系】脳の中で、感情や記憶、本能行動を司る中枢となる部分。
 サラリーマンから転身した脚本家、白土勉の感情(日々思うことや気になるニュース)や記憶(今までの仕事や経験談)、本能行動(執筆に関するあれこれ)などを書こうと思います。

現在取り組んでいる仕事の参考の為、昨夜、録画してあったある映画を観ました。

「[リミット]」です。

私は、映画の話をする時にネタバレさせたくないので、ざっくりとした紹介だけ。

真っ暗な画面。男の呻きが聞こえる。やがてライターの炎が点き、男が棺桶の中
に入れられたまま、埋められてしまったことが分かる。口に嵌められた猿轡を
外して、手探りで辺りを探ると、見慣れぬライターと携帯電話があり……。

詳細は、こちらをご覧下さい。 ⇒ 映画「[リミット]」公式サイト

原題が「BURIED」。直訳すると「埋められて」といったところでしょうか。

作品の批評は色々な方が既にレビューとして書いていらっしゃるので、私は普段
物語を作る仕事をしている人間の立場から、簡単な感想を述べたいと思います。

舞台は一つで、登場人物は一人だけ(声の出演は別です)。これは物語を作る者
からすると、とても高いハードルだと言えます。殆どの映画は、場所を変え、人物
を何人も出すことで変化を生み出しているという部分がありますが、この作品は端
からそれを放棄している訳です。こうすることで、観客はあたかも自分自身が地中
に埋められているような臨場感を味わえます。けれど、作り手としては非常に困難
なことにチャレンジしてる訳であり、スタッフは様々な仕掛けを施し、更に撮影方法
を工夫することで、その高いハードルを見事にクリアしているのです。

彼は何故、埋められたのか? 彼はどのようにそこからの脱出を試みるのか?

この二点を大きな柱として、物語は進んでいきます。感じ方は人それぞれなので、
決めつけはしませんが、私は全く中だるみを感じませんでした。むしろ、ぐいぐい
と引き込まれたと言ってもいいでしょう。このように、全体を通し観客が追い続ける
興味の対象(=その結果を是非とも知りたいと思う事柄)を明確にしていることが、
この作品の完成度を上げていると言ってもいいと思います。

特に、後者の問いかけに沿って物語が進められていくという、非常にシンプルな
構成が、この映画の力強さに繋がっていると思います。彼の行動は全て、この
「生き延びたい」という極めてシンプルな(そして誰でも共感できる)動機によって
生み出されており、観客が共感できるからこそ主人公の行く末が気になるのです。

物語を作る際、主人公が何故、その行動を取ろうとするのか(=動機)は非常に
重要なのですが、これに観客が共感、或いは納得できないままに、観客を置き
去りにして進んでしまう物語も多々あります。その点で、この作品はとても成功
していると言っていいでしょう。

この映画でもう一つハードルを高く掲げている点は、冒頭から主人公を絶体絶命
の危機に陥らせている点でしょう。通常、このジャンルの映画では冒頭で主人公
は平穏な日々を過ごしていますが、何かが起き、次第に巻き込まれていき……と、
どんどん危険に晒されるように進んでいきます。

ですが、本作の場合、最初から主人公は危機の真っ只中で死に直面しているの
です。この作品を一言で表すならば、「全編に死の臭いが充満している作品」だと
言えるでしょう。冒頭から主人公が死と隣り合わせの中、一歩間違えば即、死亡
というシチュエーションが全編を貫いているからです。

主人公が究極の危機に陥っているこのシチュエーションで、一体どのように物語
を盛り上げるのかと興味津々に観たのですが、結果として、とても上手く物語が
展開されていました。だからこそ、最後まで飽きずに観られたのだと思います。

このような設定で物語を作れることは、創作者として、とても勉強になりました。
映画やテレビの現場で低予算化が進む昨今ですので、こういう特殊な(けれど、
いかにもありそうな)のシチュエーションのアイデアを生み出して勝負する作品は、
日本でも望まれている筈であり、私はそこに大いなる可能性を感じます。

サスペンス・スリラーが好きな方にはお勧めです。又、シナリオライターや小説
家など、物語を作る仕事に携わっている方や、目指している方も必見でしょう。
但し、90分の間、息苦しさから逃れられないのは覚悟して下さい。加えて、閉所
恐怖症の方は、決して観ない方がいいでしょう。

この作品に絡め、「死生観」についての話も書きたいと思っておりましたが、長く
なってしまいましたので、またの機会にしたいと思います。

「[リミット]」
監督 ロドリゴ・コルテス
出演 ライアン・レイノルズ


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