前回の話



パート先のレジ締め作業。

悠斗くんが、軽い口調で声をかけてきた。


「ミキさん、これ一緒にやりませんか?」


「あ、うん。じゃあ私、伝票まとめるね」


「じゃあ、俺こっちやります」


隣同士で作業するのは、意外と初めてだったかもしれない。


ふとしたタイミングで手がすれ違ったり、

悠斗くんの柔らかいシャンプーの匂いがふわりと漂ったり。


それだけで、なんとなく胸がざわつく。


「ミキさん、これ、どうしたらいいんですか?」


「ん?ああ、それは……ここにまとめれば大丈夫だよ」


そう答えながらも、

自分でも気づかないうちに、少しだけ表情が柔らかくなっていたかもしれない。


悠斗くんは、嬉しそうに「なるほど」と笑った。


ただそれだけのことなのに、

変なふうに、心があたたかくなった。


――若い子って、素直だな。


それ以上でも、それ以下でもない。

そう、自分に言い聞かせるように、私は作業に戻った。


作業が一段落したあと、

悠斗くんがふいに声をかけてきた。


「そうだ、ミキさん。俺、就職決まったんです」


「本当に?すごいね、おめでとう」


「ありがとうございます。場所は関西になりましたけど」


「あら……そうなんだ」


本当なら、ただ素直に喜んであげるべきなのに。


胸の奥に、なぜか小さな穴があくような感覚があった。


「それで、あの……もしよかったら、ですけど」


悠斗くんは、少しだけ照れたように目をそらして言った。


「今度、飲みに行きませんか? 就職祝いも兼ねて」


――飲みに?


誘われた理由を頭で探している自分が、可笑しかった。


就職祝い。それだけのはず。

なのに、なぜか胸の奥が、ほんの少しだけ、温かくなる。


「……うん。いいよ」


気づけば、そんなふうに答えていた。



今も思い続けて 第3話に続くー



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