「○○株式会社の高橋です。本日はお時間いただきありがとうございます」
深く一礼しながら、名刺を差し出す。
この動作にはすっかり慣れているはずなのに、なぜか今日は妙に緊張していた。
「こちらこそ。お話を伺わさせて頂きますね」
そう言って名刺を受け取った男性は、静かに微笑んだ。
穏やかな声。優しげな目元。
私より6歳も下の40歳と聞いていたが、実際に会うと想像よりも、ずっと大人な雰囲気の人だった。
(この人が、新しく担当することになったお客さん)
資料を開き、商品の説明を始める。
男性ーー藤井直樹さんは、終始誠実に話を聞いてくれて、時折的確な質問も投げかけてくる。
こういう人となら、ビジネスの話もしやすい。そう思ったーー
「高橋さんは、お仕事長いんですか?」
ふとしたタイミングで投げかけられた質問に、一瞬言葉を詰まらせた。
「…ええ、もう十年以上になりますね」
「そうなんですね。話し方がすごく落ち着いていて、信頼できる感じがします」
そんなことを言われたのは初めてではないのに、なぜかこの時は、心の奥に波紋が広がるような感覚を覚えた。
(?なに?、この気持ち)
ほんの少し、視線を逸らす。
営業として、相手に良い印象を持たれるのは当然だ。
でも、これはーー今までの仕事の感覚じゃない。
これまでに感じたことのない、その違和感が確信に変わるのは、もう少し後のことだった。

