兄のもう1つの不幸、解雇されそうという事実。


それについても聞きました。


義姉の説明を要約すると、次の通り。


兄の会社では、疾病のための休職が1年半。
うつ病の兄もその期間を過ぎてしまったので、復職訓練を開始した。
ところが、訓練を受けても新しいことが全く身につかず。
分からない点を質問するような覇気もない。
そして、終了チェックも当然ながら、不合格。
よって、本人の業務遂行能力が足りないという理由で、解雇に相当する。
正式には、10月末に最終判断をした上で、11月一杯で解雇の方向。


この人がやる気を出さないからダメなんだから。
 本人が変わらないとダメなんだから。
 もう、私では、どうもできない
。」


義姉もそういって、また兄を攻め立てる。


義姉と話をしている会社の担当は、兄を昔から良く知る同僚の茂木さんという人。
なるほどこの話は、見事に会社側の論理で組み立てられてる。
そんな気がする。



でも。

義姉に更に詳しく聞くと、能力不足による解雇で「会社都合」だという。

えっ?」


旦那が聞き返す。


クビには違わないけど、それなら、退職金も出るし、失業保険もでるはずだね。」


要は、最大限に穏便に済まそうとしているようなのです。


旦那は、言いました。


僕は労務担当ではないから詳しく分からないが、労災であれば、そんなに簡単に解雇できない気がする。

 もし解雇にしても、条件は悪くない気がする。どういうことか、ちょっと調べてみる。」


これは、私たちの宿題としました。

実家で、父の四十九日の後。


兄、母を交え、私と旦那が兄の状況を確認。

四十九日には欠席した義姉。

母に「来てもらえないか」と電話してもらいました。
義姉は「都合が合えば行く」とのことでした。
午後に再確認すると、来ることとなりました


義姉は自転車で来たようです。
ブレーキの音、ドアを引く音。
母が迎えると、無言で入ってきました。
硬い表情。
私たちに目を合わせず。
旦那の右隣に座りました。


兄嫁は離婚届を持たせて、兄を追い出した。
その家族である私と旦那から呼び出されたのだから、穏やかなはずがない。
身構えているのが、ありありと分かる。


今、どういう事情なのか、お義母さんに聞いていたところです。」

旦那が口火を切りました。

正美さん(兄嫁の名)、大変でしたね。」

旦那が義姉にやさしい言葉をかけたのが、私には少し意外でした。


確かに。
実際、義姉の家庭は、大変だったに違いない。
兄はうつ病。
会社を解雇されそう。
そして、判断力も低下した兄は、詐欺に引っかかった模様。

愛想を尽かし、追い出したくなるのも、ある意味、無理もない。


これまで一人で抱えるのは大変でしたね。」

旦那が繰り返す。


義姉は相変わらず硬い表情だが、口元が少しだけ緩む。
一方的に攻められると思ったら、そうでもないと安心したのだろう。


持ってきたバッグをあける。
カードの明細を印刷したもの。
それが束になったものをかばんから出し
机の上に叩きつけるように置きました。


そして、言葉が一気に出てきました。


この人は、こんなことをやっていたんです。
 おじいちゃんが病気の間も。
 死んでしまった日にも。
 こんなことをやっていたんです
。」


チラッと見ただけでも、同じような英語の会社名を記した明細が並んでいる。
明らかにカード明細をプリントした紙の束。

出会い系サイトらしき請求書。


旦那がそれを手にとって見る。

1つの請求が90ドル程度。1枚に20件程度。それが5~10枚程度。
同じ日付に何件もならんでいる。
確かに、義父の亡くなった8月の日の利用分の請求も。


いくらくらいあるんですか?」


旦那が聞く。


わからないけど、30万くらいじゃないですか。」


と兄嫁。

さらに大きな声になって、続ける。


うつ病になって、全く何もやる気を出さないんです。
 会社もクビになるって言うし。
 本人が変わらないとしょうがない。
 
一日中パソコンをしてるから、散歩でも行けばって行ってもしないし。
 私が食事を作らなければ自分でやるかと思い、何も作らなかったんです。
 パソコンの言うことは信じても、私の言うことは信じない。
 もう、やってられない
。」


兄嫁は、そこまで一気にまくし立てました。


食事を作らなかったという事実は、知りませんでした。
きっと、こちらがそれを攻めると思って、先に予防線をはったのでしょう。
そのつもりで論理的に準備をしてきた言葉のように感じました。


一方で、兄の家庭での様子がこれまで以上に分かりました。


兄は家庭内で孤立。
食事も作ってもらえないので、食卓にも向かわない。
パソコンのみに向かう毎日。
その画面では、兄を誘惑する出会い系サイト

「誘惑」といっても、色気ではなく、お金


パソコンが先か、家庭内孤立が先か。
ニワトリが先か卵が先か。
それは、わからない。

実家での、兄、母を交えた状況の確認。


兄は、次々と不幸に直面している。


仕事の激務がたたって、うつ病に。
治療が長引き、夫婦関係も不穏に。

家庭での居場所なく、パソコンにのめり込み、詐欺に会う。
騙されて出会い系サイトにアクセスした分が、借金になった。
とうとう家を追い出された。
そして、仕事もどうやら、解雇になりそう。
この状況に兄嫁も耐え切れず、兄に愛想を尽かした。


そういう感じ。


でも、最初のドミノを倒したのは、うつ病...。
20年も一生懸命働いてきた結果、こうなってしまった。


それを、家族、いや、兄嫁が、こうも簡単に見放してしまうのか。

そんなはずはない。
兄嫁は、この状況に戸惑っているだけかもしれない。

一度、話を聞いてみよう...。



母に、兄嫁に電話してもらい、母宅に来てもらうように言ってもらいました。


私たち夫婦は、四十九日が終わったこの日は実家に泊まる予定。


明けて翌日、兄嫁は、昼過ぎにもう一度電話。

午後なら空いているので、来るとのこと。

いよいよ、兄嫁との対面となりました。