なんと「この前の続きを読みたい」というコアな読者の方がなんと2名もいらっしゃいましたヽ(*'0'*)ツ
調子に乗って続き・・・
そもそも、これ釣り雑誌に投稿してボツだったやつなんですけど
金網の向こう側2
上に行く?と聞くと「うーん」とはっきりしない。
やっぱり怖いんだ。
「ここにはいそうだな」
カンチが見つめる金網の中は青い水を湛えて、いかにもというように見える。周りは金網だから中に入っていれば熊が来ても大丈夫そうだ。
「でも、見つかったら怒られねえ?」
「こんなとこ誰も来ねえよ」とカンチは金網を上りはじめた。一人で上流に行くのも怖いので私も金網を乗り越えた。2人ともイワナなんて釣ったこと無いから、岸壁で海の魚を釣るような気分で、コンクリートのヘリに腰を下ろして釣る気でいたのだ。
それぞれ竿にテグスを結んで針を付ける
「カンチ、オモリ付ける?」
「付けるよ」「じゃ、オレは付けないことにする」
さあ、釣ろうと思ったら餌がない。「カンチ、エサはどうする?」
「その辺でなんか探そう」2人でさっき上った金網を戻った。カンチは何をやっても上手いから、すぐにバッタを捕まえて金網の中へ戻ろうとする。「ずるいよ、オレのも探してよ」というと
「解ったよ。あっ、いた。」と草の中に手を突っ込むと「ほら」と握り拳を出してよこした。「どうも」と受け取ると手の中でもぞもぞと何かが動いている。バッタかな。指を少し開くとエビの背中のようなモノが見えた(まさか)もう少し開くと長い足が見える。これは完全にヤツだ。ギャーと叫んで手の中のモノを放り出した。
私は特段嫌いなモノも無いし、怖いモノも無い。ヤツを除けば・・・
ヤツとはカマドウマのことだ。ヌメッとした背中、長い後ろ足と異様に長い触角を見ると全身に鳥肌が立つ。なぜだか解らないが生理的にダメだ。この世で一番嫌いだ。それをまさか手で持ってしまうなんて。カンチは私がヤツを大嫌いなことを知っているからわざと持たせてよこしたのだ。腹を抱えてげらげら笑っている。ひーひー笑いながら金網を越えると一人でさっさと釣りはじめた。
「クッソー」と罵りながらその辺の草を蹴飛ばして茶色いイナゴのようなバッタを捕まえた。バッタなら触ってもどうということはない。
カンチは四方をコンクリートで囲まれたプールのような場所にバッタを流している。私はその上流にある小さな滝が落ち込んで青い小さな滝壺のような場所にエサを投げた。
オモリがないからエサは沈まない。青く深い滝壺の水面をバッタがもがきながら流れていく。これまで水面にエサがある釣りなんて経験したことがないけど、たしか、タケシはオモリが無くても大丈夫って言ってた。
とにかく沈めなくては食わないだろうと思ったので、滝の上に投げて水が落ちるのと一緒に沈めてやった。でも白い泡が消えるあたりにバッタがポコンと浮かんできて必死にもがいている。なんにも起こらないので恥ずかしいぐらいだ。
カンチ、釣れる?
「釣れねえ」
引いた?
「引かねえ」
本当にイワナなんて居るのかな
「知らねえ」
海で釣ってた方が良かったんじゃねーの
「そうかも」
しばらくバッタを投げ続けたが何にも起こらないし、ぴくりとも引かない。
カンチ、居ないんじゃねーの。
「そこには居そうだけどな。場所変わる?」じゃあ変わろうと場所を交換した。
さっきまでカンチが釣っていた場所は底が砂地で物陰がひとつもない。どこまでも見通すことができるし、見渡す限り魚の影も形もない。カンチは「おー、ここはすごい、ぜったいいるよ」とさっきまで私がいた場所ではしゃいでいる。
今日もカンチだけ釣っちゃうのか。インベーダーゲームで名古屋打ちを最初に成功させたのも、ヨーヨーで犬の散歩を最初に成功させたのも、女子に告白されたのも、いつもカンチだ。私はいつも羨ましげに眺めてるだけだ。
でも、他に釣るところもないので、そこでやることにした。
沈めるためにコンクリートの上流部分にバッタを投げる。コンクリートの上流と下流とでは20センチぐらいの段差があり、水は段差分だけ小さな落ち込みとなっていた。バッタは流れに乗って底の方に吸い込まれていくが、それすら丸見えなのだから、釣れない事実を突きつけられているようなものだ。
同じ釣れないにしても海だったらエサも見えないので「もしかしたら」という期待もあるが、エサが丸見えで周りに一尾の魚もいないのだから期待のしようもない。
水の流れと共に底に沈んだバッタの脇にぼやっとした黒い影が見えた。「なんだろう。どこからきたんだろう」バッタが浮かんで来ると黒い影は落ち込みのコンクリートへ向かって行って見えなくなった
魚かな?