おいしいごはんが食べられますように
高瀬隼子
2022/09/13
★ひとことまとめ★
か弱い、猛者。
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
第167回芥川賞受賞!
「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」
心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説。
職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。
ままならない微妙な人間関係を「食べること」を通して描く傑作。
【感想】
芥川賞受賞作品ということで、気になって図書館で予約していた本です
タイトルだけで何となく「ほんわかした料理系の小説」だと思っていたのですが、全然違った…
登場人物全員どこか気持ち悪いというか不気味というか…。拗らせ系です。
あるラベルパッケージ製作会社で働く3人の男女の人間関係が主に描かれた作品です。
食べることは好きではなく生命維持のため・おいしいものを食べるために生活を選ぶのが嫌いな二谷。
実家暮らし・繊細・丁寧な暮らし・仕事の都合よりも自分の気分や体調を優先・食を大切にし会社にケーキやマドレーヌを作って持ってくる、芦川さん。
芦川さんの1年後輩・芦川さんの尻ぬぐい係・気になっている二谷とは良き飲み仲間・芦川さんが嫌いな、押尾さん。
二谷と押尾さんはそれぞれの視点からのパートがあるのですが、芦川さんについては2人から見た客観的な芦川さんしか登場しません。
食べることが嫌いで食に丁寧に生きる人のことも嫌いで、芦川さんの手作りスイーツは握りつぶしてごみ箱に捨てる、なのに芦川さんと付き合って結婚まで考えている二谷。
飲みの席では主に芦川さんの愚痴を言い、ごみ箱に捨てられた芦川さん手作りスイーツをご丁寧に芦川さんの机に置くという”いじわる”をする押尾さん。
可愛らしくて弱くて守ってあげなければいけないという空気をナチュラルに出せて、どんな状況でも仕事より自分のご機嫌が優先、セクハラ上司が口をつけたペットボトルでも気にせず笑顔で飲み、セクハラ上司が落ち込んでいれば抱きしめて慰める芦川さん。
書いてるだけで苦笑してしまう…。
読書レビューで芦川さんのことを「繊細ヤクザ」と書いている方がいましたが、まさにその通り…。
繊細で、かわいそう、弱いから守ってあげないといけない。けれど、「だから守ってね」なんて本人は一言も言っていない。
周りに、守ってあげないと、と自発的に動かせる力が芦川さんには備わっている。そこが一番厄介です
押尾さんのように尻ぬぐいする人間は、反発すればか弱きものをいじめる加害者扱いされてしまう。
芦川さんが「そんなことないです、いいんです」と言えば言うほど芦川さんの被害者っぽさも増していく…。
食べることが嫌いで芦川さんの手作りスイーツをゴミ箱に捨てているけど、芦川さんと付き合い続けて結婚も考えてる二谷いやだな~。。。自分の彼がそうだったら嫌だわ。。。
けど、落ち込んでいる上司を慰めるために抱きしめる芦川さんも気持ち悪いわ。。。
そう考えるとおかしな人同士でお似合いなのかもしれない。。。
もっとほっこりしたお料理のお話かと思ったら、食に対して両極端な人たちのお話だった…
さくさくさくっと読めますが、読了後はなんとも言えない感情になります。。。