博士の愛した数式
小川洋子
2022/03/12
★ひとことまとめ★
憶えていられるのは、80分間だけ。
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
僕の記憶は80分しかもたない。
80分しか記憶が続かない数学者と、家政婦とその息子はしだいに心を通わせ――第1回本屋大賞に輝いた、あまりに切なく暖かい奇跡の物語。
[ぼくの記憶は80分しかもたない]博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた──記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい"家政婦。博士は“初対面"の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。
【あらすじ & 感想】
3回目のワクチンを打ったら2回目よりもキツくてしばらくダウンしてました。
発熱、熱が下がっても頭痛が酷く常に頭がズキズキしてました
いまもまだすこし脇の下が痛いですが、日常生活は問題なく過ごせるようにはなりました
3回目接種後は要注意ですね
ワクチン前に読み終わった作品です。
とても有名な作品で、映画化もされてますが読んだこともなく映画も見ていませんでした
なんとなく、記憶がなくなっちゃう病気を持ってる人のお話かな?ってことだけは知っていました
あとは作品名から、博士とその助手の話?とかイメージしてましたがそれは全然違いました
ざっくりとまとめると、
家政婦である私と、派遣先の博士との交流のお話です。
博士は、過去に交通事故にあった際に脳に障害を負ってしまい、それ以来新たな記憶を蓄積することができなくなってしまった。
事故以前の記憶は保てているが、事故以降の記憶は80分間しか保てず、80分を過ぎると記憶が消えていってしまう。
博士の服には、大切なことが書かれたメモがクリップでいくつも留められており、80分を過ぎて記憶が無くなってしまったとしても、メモを見て理解する、という仕組みになっている。
博士は事故以前は数学の勉強をしており、大学の研究所で働いていた。数学に魅了され、素数を愛した博士の人とのコミュニケーション方法は、数字を用いるというものだった。
「君の電話番号は何番かね」
「君の靴のサイズはいくつかね」
幾人もの家政婦が、この奇妙なコミュニケーションに音を上げて辞めていき、私は博士のもとで働く10人目の家政婦となった。
はじめのうちは躊躇しつつも、博士から教えられる数学の知識に触れていくうちに、自身も数字へ魅了されていく私。
いつしか、子供思いの博士からの提案により、私の息子も加わるようになった。
頭をなでたとき、頭のてっぺんが平らだったことから、息子には「ルート」というあだ名がつけられた。
博士は、学校帰りの息子に問題の解き方を教えたり、数学の楽しさを教え、息子からは野球についての知識を教えられた。
博士の記憶は80分間しか持たないが、私と息子の2人は博士とともに決して忘れない大切な時間を過ごす…
普段サスペンスやミステリーばかり読んでいる私は、物語を読むにつれて徐々に発される登場人物の死の予感や、登場人物の憎しみ妬み嫉みを探してしまうのですが、この作品にはそんな物騒なものはほとんど出てきません。
出てくるのは、気配だけ。
物語の中では、ゆっくりと丁寧に時間が過ぎていき、いつまでもこのままの関係が続いていくように思えます。
けれど、緩やかではあるものの、確実に博士の病状は悪化していきます。
確信は持てないけれど、嫌な気配がわずかに、そして確実に近づいてくる。
妬み嫉みの気配は、義姉から感じられました。
当初は、嫌々ながらも仕方なく、義弟である博士の金銭的面倒を見ているという印象でしたが、その印象は物語を読み進めるにつれて変わっていきました。
義姉が本当に愛していたのは…と考えてしまい、義姉の結婚の経緯や博士との関係について詮索したくもなりましたが、そこが触れられていないのもこの作品のいいところかなと思います。
「義弟は、あなたを覚えることは一生できません。けれど、私のことは、一生忘れません」
この一言は、義姉にとって切り札ですよね。
これを言われたら、誰も言い返すことは出来ない。
博士が事故に会い記憶を留めておけなくなったことで、介護という形だけれど、博士のそばには一生いられる…。
義姉も義姉で、不憫に思いました。
事故当時の自分の姿は記憶に残っていても、年老いた姿を博士は認識できるのだろうか。
新しい思い出は作ることが出来ず、話せるのは事故以前の思い出だけ……。
義姉は一度は私を解雇したものの、最終的に私やルートを博士のお友達として認めてくれてよかった。
3人で過ごした楽しかった記憶は、博士はもう憶えていないけれど、私やルートはずっと憶えている。
博士と過ごした時間、博士から教えてもらったことは、私やルートの将来に大きな影響を与えた。
そして、最後の最後のシーン、
ルートが教員試験に合格して、数学の先生になることを報告したときの博士の様子にうるっときちゃいました
一緒に問題を解きあった日々はもう憶えてはいないだろうけれど、同じ道を志してくれたと知って、嬉しかっただろうな
穏やかな気持ちになれる、良いお話でした