黒百合
多島斗志之
2022/01/09
★ひとことまとめ★
きっとあなたも騙されます。
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
「六甲山に小さな別荘があるんだ。きみと同い年のひとり息子がいるので、きっといい遊び相手になる。一彦という名前だ」父の古い友人である浅木さんに招かれた私は、別荘に到着した翌日、一彦とともに向かったヒョウタン池でひとりの少女に出会う。夏休みの宿題、ハイキング、次第に育まれる淡い恋、そして死。1952年夏、六甲の避暑地でかけがえのない時間を過ごす少年たちを瑞々しい筆致で描き、文芸とミステリの融合を果たした傑作長編。才人が到達した瞠目の地平!
【あらすじ & 感想】
こちらも昨年お客様にいただいた本です。
結論から言うと、まんまと騙されました笑
しかも、ただどんでん返しを狙った書き方ではなくて、伏線がきちんと各所にあるんですよね。なので、本当にまんまと騙された感じです。
複数人の視点及び時代で話が進みますが、メインの時代は1952年で主人公は14歳の寺元進。
東京に住む進は、父の古くからの仕事仲間であり友人の浅木謙太郎に招待され、夏休みの間浅木さんが所有する別荘で過ごすこととなった。
別荘は大阪の六甲山にあり、到着の翌日進は謙太郎の息子・一彦とともに別荘周辺の散歩へ出かけた。
六甲山には池がたくさんあり、二人はそのうちの一つであるヒョウタン池で遊ぶことにした。池の植物の蕾に石を当てるゲームをしていた二人は、付近にいた少女から注意を受けた。
少女は名を倉沢香といい、二人と同じ14歳。六甲山周辺では知らないものはいない、有名な別荘に住んでいるとのことだった。
彼らは夏休みの間中、六甲山を探索したり香の別荘で過ごしたりして絆を深めていき、二人は香に惹かれていった。
ここまでだとただのひと夏の青春の物語のようですが、注目すべきは倉沢家の面々と、進と一彦の父親が出張先のベルリンで出会った謎の女性・真千子です。
倉沢家と謎の女性・真千子、そして浅木家。最後まで読むと彼らの因縁がわかります。
真千子の謎がわかると、作品のなかにいろいろと張り巡らされた伏線…というかヒントに気がつきます。
八月のあひびきの詩の「悪縁のふかき恐怖もすすり泣けり」の部分や、
香の叔母の日登美がラジオの「君の名は」を聞いていたこと、
香が怪我したのが右足だったこと、
悪の華の「いそいそとまた舞い戻る泥濘道」の部分など…
以下、自分の頭の中の整理も兼ねた相関図ともろネタバレの話をするので、ネタバレが嫌な方はここで終了するのをおすすめします。
(良い作品なので、私としては是非ご自分で作品を読んで実感してほしい…!!)
物語に関係する重要人物たちの相関図をざっと書きましたが、こんな感じ?
一彦の母=黒ユリのお千、進の父と一彦の父がベルリンで出会った女性(真千子)、日登美の恋人、そして貴久男と貴代司を殺した犯人。
進は香に「押しが弱い」と言われていますが、
進の父も小芝翁から「女性に対して不器用」と言われたように、父に似たんだな〜と感じました笑
真千子は謙太郎と結婚したし、香も一彦選ぶし…。。。この相関図でも寺元家は部外者感ありますね…。
ですが、部外者で浅木家について詳しくなかった進が語り手だったからからこそ、どんでん返しの展開にできたのかな〜とも思います。
一彦の母の過去や義足についての情報が早くに出ていれば正体に気付けたと思いますが、
夏休みに別荘にお邪魔させてもらっている分際で、友人のお母さんにプライベートなこと根掘り葉掘り聞けないですよね。。。
私の中で、車掌さん=男性というイメージが強かったため、まさか日登美の恋人が女性だとは1mmも思いませんでした
(戦時中だし、女性車掌っていないのかと思っていた)
貴久男が日登美との交際について詰め寄る場面でも、貴久男は初対面なはずのにずいぶん馴れ馴れしい上に乱暴だなと思いましたが、
きっと探偵か何かを使って素性を調べ、妹を思う心からあのような態度になったんだろうと受け取りました
けれど実際は、かつて自分がひどい振り方をしたので、その復讐で倉沢家に近づいていると勘違いし焦っていたんでしょうね…。
八月のあひびきの詩の「悪縁のふかき恐怖もすすり泣けり」の部分、自分を手ひどく振った男の妹が、まさか自分に好意を寄せるなんて…と真千子は感じたことでしょう
そもそも最初から貴久男があんな不誠実な振り方をしなければ、倉沢家がこんな不幸に見舞われることもなかったのにね…。
倉沢家の別荘は、近所でも知らない人はいないほど有名な家。ということは、真千子ももちろん日登美がそこにいることは知っていたんですかね?
息子たちが倉沢家の娘と仲良くしていると知ったときには驚いたんじゃないかなと思います。
ちなみに、関係があるかはわかりませんが、
黒百合の花言葉は「恋、愛」「呪い、復讐」です。
駆け落ちまでして一緒になりたかった恋人に裏切られ、自らの手で殺めてしまった真千子。
決して復讐など考えていなかったと思いますが、結果としては復讐に近い形になってしまった…。
真千子は亡くなるまでどのような気持ちで過ごしたのか、結婚はしたけれど謙太郎や一彦に対する愛情はあったのだろうかなど、色々考えてしまいましたね
墓まで持っていく秘密とはよく言いますが、真千子はまさにそれをやり遂げたのだなと感じました。
所々に散りばめられている伏線に対して、
あ〜、なるほどね〜と思える読後感でした