坂の途中の家
角田光代
2019/09/19
★ひとことまとめ★
感情移入しすぎて、苦しくなります。(誉め言葉です。)
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
最愛の娘を殺した母親は、私かもしれない。
刑事裁判の補充裁判員になった里沙子は、
子どもを殺した母親をめぐる証言にふれるうち、
いつしか彼女の境遇にみずからを重ねていくのだった--。
社会を震撼させた乳幼児の虐待死事件と
〈家族〉であることの光と闇に迫る心理サスペンス
感情移入度100パーセント、
『八日目の蝉』『紙の月』につづく、
著者の新たな代表作が、いよいよ文庫化!
【感想】
1週間旅行に行って浮かれまくっていましたが、また本を読む生活に戻りました
友人の結婚式×2もありゆっくり時間が取れず、書くのが少し遅くなってしまった。
この作品は…内容紹介にもあるように、感情移入しすぎてしまって、作品に引きずられるようなそんな感覚のある作品でした。
旅行に持って行ったけれど、読まなくて正解だったかもしれない。
主人公の理沙子は専業主婦で、まもなく3歳になる娘の文香と夫の陽一郎と暮らしている。そんな、所謂普通の主婦である理沙子のもとに刑事事件の裁判員候補者に選ばれたという郵便が届く。
まさか自分が選ばれないだろうと思っていた理沙子だったが、補充裁判員(裁判員が急病などで欠席の際、代わりに裁判員を務める。そのため誰も欠席しなかったとしても毎日審理を聞く必要がある。)として選ばれてしまう。
理沙子たちが担当する事件は、30代の主婦・安藤水穂が、水のたまった浴槽に8ヶ月の長女を落とし、死亡させたという事件だった。水穂の供述や、夫、そして夫の母親、水穂の友人、夫の友人、水穂の母親などの供述を聞いていくうちに、年齢や家族構成などが似ていることもあり、水穂と自分を重ねていくようになる。
はじめのうちは理沙子は水穂に対し、
女性には”おかあさんのもと”のようなものがあり、子どもを産んだとたんそれが育つはずなのに、耐えきれずに子どもを殺してしまうなんて、彼女には”おかあさんのもと”が入っていなかったのか?と感じる。
しかし、彼女の裁判が進んでいくうちに、理沙子は自分でも忘れていたような、産後からいままでの記憶を思い出すようになる。
周りから言われたこと、義母から言われたこと、夫から言われたこと…自分が文香に感じた気持ち…
読んでいて、子育てって本当に大変なんだろうなあ…という感想が真っ先に浮かんできたのと、結婚ってパートナー選びが本当に重要なんだなと。。
母親の気持ちって、誰にも理解してもらえないよね。人間自分以外のことなんてわからないんだから、当たり前っちゃ当たり前なんだけれど。
妊娠中から出産までで女性は体の変化があるし、産後だってそうだし、生まれたら生まれたで育児で自分のことは後回しで、眠れないとか。それで家事がおろそかになって「どうして一日家にいるのに掃除もできないのか?」とか言われたらぶん殴りたくなるよね。そこに理解をしてくれる旦那さんかどうかで、だいぶ心の楽さが違うよね。
というか、理解ある人っていうのも大事だけれど、萎縮せずに言いたいことが言える相手か、きちんとこちらの話を聞いてくれて、向き合う気持ちを持っている人かってところが重要だよね。
水穂の場合はどっちの言い分が正しいのか、どちらも正しくないのかわからないけれど、相手が怒ったりすることが怖くて、萎縮して本当に言いたいことが言えない関係はいずれ破綻するよね。
特に、理沙子の場合、自分の感情だったりを整理したり落ち着けるためにお酒を飲めば「アルコール依存症」みたいに言われて、娘がどうにも泣き止まないから路上に放置して遠くから様子を伺っていたのに「置き去りにした」と言われ、かまうと泣くので放っておけば「隣近所にしつけの度を超えてると思われる」と言われ…
うるせえ、じゃあ全部おまえがやってみろと言いたくなるけれど、そんなことは実際は言えない。
しかも、裁判員裁判で、裁判員は何人もいるわけだから、当たり前だけど自分と意見の違う人だっている。自分の感じた気持ちが他の人には全然理解されないという苦しみもあって…自分は”普通”じゃないんじゃないかと思ったり…。
読んでいてどんどん重い気持ちになっていくんだよね…理沙子の大変さもわかるし、水穂の状況もわかるし、陽一郎のトゲのある言い方というか、相手を絶妙に傷つける言葉とか、義母の言葉とか…読めば読むほど母親は孤独なんだなということがわかる。。。世のお母さんの大変さが非常に伝わってきた…。
理沙子と陽一郎のやりとりをみて感じたけれど、自分が不安だからって人を蔑んだり棘のある言い方をして相手を傷つける人間はだめだね。
傍からみたら特におかしくもないし、いい彼じゃんって言われるけれど、実際は巧妙に傷つけてくる人間っているけれど、そういうのって周りにどう伝えても絶対理解されないんだよね。
理沙子も言っているけれど、”意味不明な悪意”とか”きみは人並み以下だ”とかを、直接的ではなくてあたかも表面上は優しさみたいに見せて言ってくるんだよね~。
じゃあ具体的にどういうこと?って聞かれると例にしづらいんだけど。理沙子の言う、”違和感”ってのが一番近いんだよね。
なんでこの人は、そんなこと言うんだろう?なんのために言っているのだろう?でも、直接的に傷付ける言葉ではないから、何かの言い間違いかな?とか、ちょっと機嫌でも悪かったのかな?とか。
嫌味なのか、冗談なのか、本心なのかわからなくなってくるんだよな…。
ひとつわかるのは、そういう人間とは人生をともに歩んでは行けない…歩んでいけたとしても、とてもストレスが溜まると覚悟しておかないといけない…
裁判員って難しいね。自分と重ね合わせすぎると主観的に見すぎてしまうし、だからといってじゃあ客観的にとはどういうことなのかとも思うし。それぞれ供述だって誇張している場合だってあるし、双方で食い違う場合だってあるし、何が事実かなんてその場にいないとわからないし。なんなら、その場にいたとしたって、当人以外は当人がどう感じたかなんてわからないし…。
いろいろと考えさせられる作品でした。解説でも書かれていたけれど、角田さんの作品ってどうしても自分と重ね合わせちゃうんだよな~すごく感情移入してしまう。ありありと情景も想像できてしまうし、そういう意味ですごく身近なんだよね。
角田さんは「くまちゃん」が一番好きかな~失恋したときに読んで随分気持ちが落ち着いた記憶。
まだ頂いた本読めてないものがあるので旅行等々で読めていなかったぶんガシガシ読みます