死にがいを求めて生きているの
朝井リョウ
2019/04/17
★ひとことまとめ★
特に平成生まれの、私たち世代の人に読んでほしいです。激推し。
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
誰とも比べなくていい。
そう囁かれたはずの世界は
こんなにも苦しい――
「お前は、価値のある人間なの?」
朝井リョウが放つ、〝平成〟を生きる若者たちが背負った自滅と祈りの物語
植物状態のまま病院で眠る智也と、献身的に見守る雄介。
二人の間に横たわる〝歪な真実〟とは?
毎日の繰り返しに倦んだ看護士、クラスで浮かないよう立ち回る転校生、注目を浴びようともがく大学生、時代に取り残された中年ディレクター。
交わるはずのない点と点が、智也と雄介をなぞる線になるとき、 目隠しをされた〝平成〟という時代の闇が露わになる。
今を生きる人すべてが向き合わざるを得ない、自滅と祈りの物語。
【感想】
王様のブランチを見ていたときに、螺旋プロジェクトについて取り上げられており、どうしても平成が終わる前に読んでおきたいと思った本です。
本持ってる人、本屋さんで見た人はわかると思うけれど、持ち歩いて読むのは難しいと思ったので、電子書籍で購入
いろいろストーリーに踏み込んで書いているので、ネタバレしたくない方はそっ閉じをおすすめします。
まず螺旋プロジェクトについて。
以下、BOCのサイトより螺旋プロジェクトの概要を引用。
螺旋プロジェクトとは、「小説BOC」1~10号に渡って連載された、8作家による壮大な文芸競作企画。
以下の3つのルールに従って、
古代から未来までの日本で起こる「海族」と「山族」の闘いを描く。
- ルール1
- ┗「海族」と「山族」、2つの種族の対立構造を描く
- ルール2
- ┗全ての作品に同じ「隠れキャラクター」を登場させる
- ルール3
- ┗任意で登場させられる共通アイテムが複数ある
- 私は、螺旋プロジェクトのうち「平成」パートを担当する朝井リョウさんのこの作品しか読んでいないため、ルール2・3については未確認なんですが、この作品を読んだからこそ、他の作家さんの作品も読んで、ルールを確認したいと思いました。
- どうしても、どうしても平成のうちに読み終えたくて、他の本を読むのをストップさせて、一気に読みました。
- まず一言で感想をまとめると、非常に良かった。何がよかったうんぬんかんぬんは後ほど書きますが、私と同じ、平成生まれの人に特に読んでほしい。
- 同じ平成生まれで、年齢も近い朝井リョウさんだからこそ、ここまで共感できる作品を作り上げることができたんだろうと思う。
- 本当に、本当に、「平成」パートを担当したのが朝井リョウさんで良かった、この作品を読むことができてよかったと思うような作品でした。
- ということで、作品のあらすじ、感想を書いていきます。
- 1992年生まれの南水智也、堀北雄介。
- 2014年、智也が植物状態になり入院しているところからお話は始まります。
- 目覚めない智也を毎日献身的に見舞う雄介。
- そんな2人の、小学生から大学生まで、生まれてから約22年間に渡る関係性が、小学校~大学までの2人の身近な存在(友達等)を通して徐々に明らかになっていきます。
- どの年代でも、「平成」の特徴が色濃く描かれています。そのなかでも特に、心情が。
- 小学生時代の友人、前田一洋の言葉を借りると
- 雄介は「良くも悪くもまず名前を覚えておいたほうがいい子、できれば敵にはしないほうがいい子」
- 智也は「そのどちらにも当てはまらない子」
- 傍から見てタイプの違う2人が、なぜ長年に渡り友情関係が築けているのか。また、それは本当に「友情」なのか。
- このあたりは、螺旋プロジェクトのルールである海族・山族が関わってきます。
- 山族であろう雄介と、海族であろう智也。
- 生まれからして、決して交わることのできない2人。
- 勉強ができて、運動神経が良くて、勝負事に熱くなる雄介。中学では様々な人間からの好意を浴び続けた。
- しかし、高校に上がり、それまでのやり方が通用せず、周りから浮き始める。
- 大学に上がると、したこともないジンパ(ジンギスカンパーティ)復活の活動にのめり込んだり、寮の存続運動にのめり込む。
- 何もないところに無理やり対立を生んで、やっと、存在を感じられる。自分の存在を消したくない一心で、対立する相手をこしらえ続ける。
- 比べる存在がいないと、自分の存在価値がわからないんだよね。
- そんな、雄介が暴走しないよう、彼を観察し続ける智也。海山伝説に関わる教授を父に持つ智也は、その伝説を真っ向から否定するために、伝説について研究し、じっと待ち続ける智也。
- けれど、雄介や父親の考えを否定しつつも、では自分の生きがいとか?雄介と同じように、自分も否定する存在があるからこそ生きて来れたのではないかと考え始める。
- 2人や、2人を取り巻く周りの人間の心情は、胸をえぐられるように感じました…
- 「時間割の通りに歩いていればよかったあのころは、自動的に運ばれているならば運ばれているでよかった高校三年生のあのころは、まだ、ゴールがあった。遥か彼方ではあったけれど、その回転には高校卒業という名の終わりがあった。だけど今は違う。
- 自動的に運ばれていった先に、何があるのかわからない。」
- 「思わない? 毎日同じことの繰り返しだなって。自分も世界も、何にも変わらないなって」
- 「絶対こうなる、と、未来に起こるはずの変化を力強く唱えられるような、そんな変化を引き寄せられる自分の力を信じていられるような、そんな日々をもう一度、自分で手に入れたかった。」(智也入院中:白井友里子パート)
- 「年齢を重ねていく中で、求心力となりうる要素は、変わっていく。自分が持ち合わせていた要素が有効な時代はもう終わったならば、自分の中身を更新していかなくてはならない。変わらない。それは、幼い、という言葉に言い換えられる。」
- 「彼は元気にしているのだろうか。自分の中身をきちんと更新し、大学という舞台でも輝いているのだろうか」
- 「当時は自分を見下していただろうクラスメイトから、いいねがあった。自分を無視していた人たちが、視線を向けてくるようになった。見返してやりたい。そんな気持ちの萌芽が顔を出した」
- 「お前は今、どれだけ注目されてるの?社会のために何かしてるの?価値のある人間なの?何もせずのうのうと自分だけのためにずうずうしく生きてんの?」
- 「『生きがい』頭上から、智也の声が降ってくる。『それって、なきゃいけないの?』」
- (大学1-3年:安藤与志樹パート)
- 「自分の中にもいるんですよ、堀北雄介が。いつも何かと戦ってるように見せかけて、本当は別のものから逃げ続けてるこの感じ、わかりますもん」
- 「何かを成し遂げた人。に、なりたかった、もう一度、自分も。」
- 「自分から何も言わなくても、いま自分が何をしているのか認識されるような人で在り続けたかった。」
- 「俺は、死ぬまでの時間に役割が欲しいだけなんだよ。死ぬまでの時間を、生きていていい時間にしたいだけなんだ。」
- 「なにか報告することがなきゃ生きてちゃダメなのかよ。じゃあ無理やりにでも何か報告できるようなこと創りだしますよって話だよこっちからしたら」
- 「自分が何かしらの形で当事者だったらいいのにって、そしたら今までみたいに無理やり生きがいなんて探さなくていいのにって思ったんだ」(大学4年:弓削晃久パート)
- 上記を読んでわかるように、
- 登場人物たち、特に雄介はずっと、
- 「生きがい」というよりはむしろ「死にがい」を一生懸命探し続け、なければ創りつづけていたんですね。
- そして最終的に、長い眠りから醒めない親友を支え続ける、「献身的な友人」という、新しい生きがいを見つけてしまう…。
- 最後まで読んでいくと、はじめの智也の入院中のパートでの雄介が薄ら寒く感じられます。
- 作中でも語られていたように、平成は、組体操や、順位づけ、勝ち負けなどどんどんいろんなことが見直され、なくなりました。
- いままでは見知らぬ誰かが行ってくれた順位づけを、自分自身で行わないといけなくなってしまって。
- 結果的に、自分自身で、「自分はあの人に比べて劣っている」と言い聞かせる哀しみが続くことになってしまった苦しみを、雄介や智也・彼らを取り巻く周りの人間を通して読者の心にガンガン響かせてきます。
- どんなに逃れたくても、人と比べること、人々との繋がりからは逃れることができない。制度や仕組みが変ったとしても、その苦しみは決してなくならない。
- 平成に生まれ、平成を生きた人であれば、誰しもがきっとこの本に書かれている内容や心情と同じ気持ちを抱いたことがあると思う。
- 映画化もした「何者」とも似ているんだけれど、自分たちが平成を生きて感じてきたことを、作品を通して代弁してくれている。。。
- 自分が思い、悩み、苦しんできた気持ちが、そのまま書かれているから、読んでいて辛い部分も多くて。
- 2人を取り巻く周りの人間が、2人と関わりながら自らの生き方に自問自答したり、雄介と同じ部分を自分の中にも感じたように、私の中にも雄介や智也と同じ感情があって…
- 生きがい、働きがい、やりがい、〇〇がい を持っていなければダメなんだと世間から言われている「ような気がして」
- 「あなたの生きがいは?」「今の仕事の働きがいは?」そういうことを言われるたびに、それに即座に回答することのできない自分は、即答できる誰かと比べてダメな人間だ、と言われているような気がしていました。
- 志を持って取り組むことが正義であり、
- ただなんとなく取り組んでいることはまるで悪のような。
- でも結局は、そんなことで誰も自分を責めてはいないんだよね。
- そういう考え方が良いことだと、取り上げてる本とか、テレビとかももちろんあるけれど。
- それでも、自分の生き方・考え方を蔑んでるのはほかの誰でもない自分で。
- どんな自分でもいいんだと、生きがいがなくったって、生きていていいんだよと。
- ただそのままの自分を認めることが大事だったと、早く自分に教えてあげたかった。
- そうすれば、苦しんで思い悩むこともなかったかもしれない。
- でも、そうやって思い悩むことも人生においては重要なのかもしれないね。
- 誰からその「そのままでいい」「ただ生きているだけでいい」と教えられたとしても、
- 自分で経験しなければわからなかったと思う。
- 過去は過去で、いまからでも遅くないから、これからはどんな自分でもいいんだよと、自分のことを許して認めながら生きていこうと改めて思いました。
- あ~ほんと一言では語りきれないし、作中の文章を抜粋したくらいでは、この本を読んだあとの気持ちは伝わらないと思うので、ぜひ読んで欲しいです。
- ハードカバーは結構分厚くて読むの躊躇すると思うけれど、それでも読んで欲しい。
- そのくらい私は心にぐっときた
- とても、とても、とっっっっってもおすすめ。
- やっぱり朝井リョウさん大好きだ〜
- 大好きである。。。
- 他の螺旋プロジェクトも読んでみたいなっ!