伝言
六歳だった僕が電話を受けた、 「ママにかわります」と言って。
ベランダに行けば、洗濯物が白くゆれていて、
キッチンでは、水道の栓から水滴が落ちていて。
弟は眠りかけていて。
六歳だった僕は探しに出かけた、 「ママにかわります」と言ったので。
団地の暗い階段を三階ぶん降りて、
斜めに傾いた下り坂を横切って。
きょとんとしたままの弟を連れて。
大声で泣きながら。 ほったらかしにされた電話は、 そのころには、
とっくに切れていて。
そうして、いまにいたる。 ちょっとした言葉を取り次ぐために、
あるいは、小さな約束の責任を取るために、
また出かけてゆく。
いまは大声で泣くことはしないけれども。 |