お泊まり恋愛詩 -35ページ目

お泊まり恋愛詩

恋愛詩を集めたブログです。彼氏視点です。

かなりえっちな内容のものも少なくないですが、年齢制限せずにすむよう、端正で遠回しな表現に収めています。また、旧作に手を加えている作品が多いので、現在進行形のものはほとんどありません。更新休止中です。


ちょっとした不満


声よりも涙が先だった
ビニールが熔け落ちるのを見ているようだった

 あんなにもしなやかな子が
 こんなにも簡単に熔け落ちてゆくんだ

驚きを僕は静かに飲み込んだ

 わたしがどれだけがんばっているか、
 ぜんぜんわかってくれてないよ、と言ったきり
 あとは言葉になっていない

いつもより塩味の強い涙が
僕の胸に力一杯こすりつけられた
鋭くて必死な力だった
いつものやわらかさが思い出せないくらいの
強張った堅さ
僕は彼女がいつも
どれだけ上手に力を抜いていたのかに気づいた

束ねたロープをほどきながら
これからの展望を話しているつもりで
ちょっとした不満を口にしたのは僕だった
最近 停滞している気がしたから
あせっていたのだ

 言い訳をしてもいけないし
 なだめてもいけない
 もちろん
 放っておくのは一番いけない

その晩のたくらみを全部あきらめて
僕はしっかりと彼女を抱き寄せていた
朝までそうするつもりだったし
実際そうすることになった


ポケット


奥を大きく裂いてある君の左ポケットは
他のものを入れるのにはふさわしくない
ぎゅうぎゅう詰めの電車の中で
こんなふうに寄り添いながら
ぎゅっと抱きしめただけで感じてしまう君を
指先で確かめるための入り口だから

本当は君自身だってポケットなんだ
君をあふれさせるために
僕は何もかもを注ぎ込みたい気持ちになっている
気持ちも声も知識も遺伝子も

君の全部が僕の視線のための入り口で
君の頭脳が僕の知識のための入り口で
君の耳が僕の声のための入り口で
君の口が僕の舌のための入り口で
君のやわらかい器官が僕のかたい器官のための入り口で

新宿駅に向かってひた走りつつ
電車は揺れ続ける
くずおれそうな君を後ろから支えつつ
僕は君のポケットの中を探検する
ビスケットが増えてゆく歌なんかよりずっととめどないね
こっちのポケットの方が百倍大好きだ


ぽんぽん


井の頭公園の鴨を見ながらおしゃべりでもしようか
でも 君はさっきからそわそわしている
夏のスカートだから
下に何もはいていないのが分かりやすいね
いつもなら欄干に肘をついて鴨を見るのに
今日は手を少し添えるだけだ
きっと 腰を突き出したかっこに抵抗があるんだね

急に
  ね 行こ
と とても真剣な表情で言われて
僕は少し気押されてしまった
君は僕の手を引いて、うつむき加減で早足に歩く
真剣さの理由は何となく分かったけれど
君のあせりっぷりが可愛いので
任せておくことにした

やがて
僕をひっぱってゆく汗ばんだ手をほぐして
代わりに肩を抱いて歩幅をあわせる
顔をのぞき込んでみると
君はべそをかく2歩くらい手前にいて
呼吸がちょっと乱れている
ボート乗り場を過ぎると坂になっているから危ないよ
この調子じゃ つまずきかねない

どこまでも早足で歩いてゆきそうな君を制して
僕は道を逸れた そして
少し人目を避けたベンチが空いているのを見つけて
腰を下ろすように促した
うつむいたままの君の顔をこちらに起こさせて
  どうしたの
と尋ねる
君は
  友達が
  友達がね
  友達に見られたかも
と何度か言い直して しょげて視線を下ろした
そうかも知れない だって 井の頭公園だから

本当はおしおきに値するけど
今回だけは優しくしてあげよう
僕は笑いかけて
ぽんぽんとつむじをたたく
手のひらにしっとりと汗の感触があって
夏の髪のにおいがする

  でも いずれ決着をつけなきゃね
  友達に軽蔑されないことよりも
  僕の言いつけを大事にして欲しい