今日の日記は水谷豊。

 

僕は水谷さんとサザンのことになると話が止まらなくなっちゃうから、なるべく簡潔にと自戒しなければいけない。

 

夏休み中、重い本を読むのが面倒で、久しぶりに内田康夫の浅見光彦シリーズを読むことにした。内田作品はそんなにハズレがないし、社会派とか旅情ミステリーなどと言われるだけあって、事件の背景に当地の文化や歴史・風俗などが出てきて、ちょっとした旅行気分を味わえるのがいい。

 

読書と音楽鑑賞に於いて、僕はこのところ、「面白くなければ即刻打ち切る」…という方針で臨んでいる。どうしてかというと、そろそろ自分の「残された時間」を意識するようになったからである。「そんなこと言っている人は長生きするんだよ」と妻は笑うが、しかし、いつまで、ちゃんと活字を追ったり、音の世界に耽ったりすることができるだろう。定年まであと数年だし、最近、身体的な衰えも感じる。

 

だから、浅見シリーズも面白くなかったら途中で止めようと思って気軽に読み始めた。次の「面白い本」が、僕に読まれるためにすでに列に並んでいるかもしれないのだ。

 

ということで、1冊目は『教室の亡霊』。(以下、すべて108円です)

 

 

群馬が舞台で、学校教育関係が事件の背景にある。だいぶ古い話題だから時代を感じてしまう部分もあるが、まあ、なんとなく面白かった。僕だったら、もっと突っ込んで教育界の闇を暴いてやるんだけれど…というのはウソ(笑)。実際、教員の闇ってあんなもんじゃないよね。

 

次は、『ユタが愛した探偵』。

 

 

正直、プロローグで「もういいや」と思ってしまった。申し訳ない。ウチナー2世の僕としては、「沖縄」の登場人物に陰影がありすぎると感じたのだ。有体にいえば「暗い」のだ(こんなヒステリーな女、ウチナーにはいないさー)。

 

でも、浅見光彦が登場するシーンあたりから、一挙に作品の世界に惹き込まれた。僕の中では浅見光彦は、いつでも水谷豊なのである。読んでいて、「あれ?」と思うシーンがいっぱいあった。うまく説明できないが、作者は、無意識のうちのNTVで放送された水谷豊の「浅見光彦ミステリー」(火曜サスペンス劇場)での演技に「引っ張られて」いたのではあるまいか。なお、ここに挙げた両作品とも、水谷作品の放映後、何年もしてから(他の役者さんが演じるようになってから)執筆されたものである。

 

内田センセ本人に尋ねることはもう叶わなくなってしまった。生前、内田氏は「水谷光彦」を酷評していた。僕が軽井沢のクラブハウスでお会いした時も、センセは「あれは水谷とNTVの反則」とおっしゃって、だいぶ不機嫌だった記憶がある。

 

果たして……?

 

その証拠に、といっては何だが、今回読んだ2冊の光彦のイメージを、中村俊介や沢村一樹、辰巳拓郎、榎木孝明で映像化してみろ、と言われても僕には不可能だ。水谷さんのあの軽妙さとちょっとした「変人」ぶりがなければ、セリフ回しにさえ違和感が伴ってしまう。光彦は、けっこうひどいことをさらっと言ったりする。かと思うと、『ユタ』でのホテルの場面のように、ヒロインとの触れ合いをさらっとやってのけ、そして何事もなかったかのように時を過ごしたりする。本人は「若い女性には免疫がない」と言っているのにも関わらず、だ。

 

他の俳優だと、非現実的に映る。そう、リアリティがないのだ。沢村ならまだいいが、中村だったら、少女漫画みたいだ。「あるわけないじゃん、こんなこと」…と、すっかり冷めちゃう。チャンネルを変えちゃう。

 

少なくとも、僕は水谷さんの奇抜な演技のお蔭で、この2冊を楽しく読み進めることができた。『ユタ』のプロローグで感じた違和感も払拭された。

 

逆の見方をすれば、水谷豊の側が、すっかりオリジナルの浅見光彦を演じきっていた、ということもできる。内田作品の活字を追いながら、脳内では水谷豊をイメージして読み進めている人は、実はけっこう多いのかもしれない。

 

水谷豊は、『熱中時代』で北野広大という新米教師を演じたが、ある番組で、次のようなスタンスで演じた、ということを話していた。

 

「こんな先生、いるわけないけれど、いてもおかしくないよね」と思われるような役作りをしている……と。

 

浅見光彦においても同様のことが言えるのではないだろうか。

 

…と書いてきて、よく調べたら、内田康夫先生は榎木孝明を光彦の理想としていたことがわかった。なーんだ。

 

「(榎木孝明は)映画『天河…』で会ったとき、浅見光彦その人だと思ったし、そのイメージは今でも変わらない。僕の中では、もっとも浅見光彦に近い俳優さん」

(『浅見光彦 the Complete』 2006,ダヴィンチ特別編集)

 

…だそうである。

 

その人その人で、理想の光彦像は違うということで…納得しようと思う。失礼しました。

 

今晩、「水谷光彦」のDVD観ようっと。