イヤホン延命記:XBA-H3 ← MUC-M12SB2 ← KS120 ← NW-A107 | A Flood of Music

イヤホン延命記:XBA-H3 ← MUC-M12SB2 ← KS120 ← NW-A107

 

はじめに:そもそも『XBA-H3』って?

 本記事の核であるSonyのプロダクト『XBA-H3』について改めてきちんと紹介しようとしたところ、9年前から使っているのにも拘らず「これって一体何なんだ?」と呼称に迷う事態に陥ってしまったため、まずはこの想定外の戸惑いをそのままお届けして延命記に先駆ける留意事項とします。ニッチで込み入った話ゆえの捉え違い等あるかもしれません。

 

 

 先の疑問に対する当座の回答ならすぐに提示できます。上掲ページに書いてある通り、ソニー曰くの『XBA-H3』は「密閉型インナーイヤーレシーバー」です。とはいえこの言い回しはソニー特有だと認識しており、一般的には「イヤホン」に分類される形状だと思うので(例えばAmazonでは「カナル型イヤホン」です)、記事タイトルではわかりやすさを優先しました。バイト数制限で「イヤーレシーバー」と書き切れなかったのと、頭字語にして「ER」ないし「IER」では伝わらないだろうと判断したのもあります。

 

 

 しかし「インナーイヤーレシーバー(IER)」には聞き馴染みがなくとも、音楽を生業としている方やオーディオマニアであれば、近しい言葉として「インイヤーモニター(IEM)」が浮かぶでしょう。『XBA-H3』の翌年に発売された『XBA-A3』もソニーストアでの表記は同じく「密閉型インナーイヤーレシーバー」ですが、下掲のインタビューでは「イヤーモニター」としてその優秀さが語られています。厳密には異なるプロダクトの話だけれど『XBAシリーズ』には違いありませんし、僕の所感としても『XBA-H3』は単なる「イヤホン」ではなく「イヤモニ」らしい専門性を有しているとの理解です(「モニター」らしさに言及した他者のレビューも後程紹介します)。

 

 

 ここまでは全て「イヤー」云々の話でしたがもう一度冒頭の『XBA-H3』のリンクカードをご覧いただくと、そこに踊る「ヘッドホン」の文字が更にややこしさを助長します。メタ的に(サイトマップ的と言うべき?)この「ヘッドホン」はストア上のカテゴリ名に過ぎず、オーディオ製品の一覧に「イヤホン」という言い回しを採用していない;つまり「ヘッドホン」に集約しているだけなのかもしれません。仕様上の表記もどっち付かずで、「ヘッドホン部」の注釈に「レシーバーのある製品はレシーバー部を含みます」と書いてあり煙に巻かれた感じです。

 

 

 ここで根本的に『「ヘッドホン」と「イヤホン」の違いとは?』の深みにハマり、上掲Wikipediaの概説で「両者の連続性を区分するならテクニカルになる(意訳)」と前置きされたうえで技術上の定義および分類を具に見ていくと、扱いが一筋縄ではいかないことがよくわかります。目下『XBA-H3』の表現に悩んでいるのも然り、先掲のインタビューに紹介されている『IER-M9』を含む『IERシリーズ』は見た目が「イヤホン」で、記事中では「ステージイヤーモニター」(ステージ向けの「インイヤーモニター」と解釈)とされていますが、商品ページの説明では「ステレオヘッドホン」で、それでいてシリーズ名の「IER」とは「インナーイヤーレシーバー」の略なのではと推測でき複雑極まりないです。

 

 以上、『XBA-H3』をどう説明したらいいのか問題でした。結論としては公式曰くの「密閉型インナーイヤーレシーバー」が順当だと意識しつつ、同じ『XBAシリーズ』で一年後発のモデルをプロのPAエンジニアが「ステージイヤーモニター」と形容していることに鑑みて、前年のそれとて「インイヤーモニター」らしい性能の高さを誇っているとの理解を本心に据え、とはいえ対外的には「イヤホン」と言うのが無難だろうと結びます。以降では基本的にそのまま製品名を書くので呼び方にそこまで注意を払う必要はありませんが、包括的にふれる場面では「イヤホン」で通しました。

 

 

思い出話:変則的に愛用した『XBA-H3』

 僕が『XBA-H3』を購入したのは2014年6月のことです。当時からその性能の良さに惚れ込んでいた事実は下掲の記事でも確認できます。その際には「インナーイヤー型ヘッドフォン」と折衷的に書いたせいで一般に意味不明な表記となっており、9年前の自分は一段と曖昧な捉え方をしていたんだなと反省です。リスニング用途としてだけではなく於DTMの調整にも使用していた記述があり、プロのそれと比べるのは烏滸がましくとも自分なりにイヤモニとしての可能性を見出していたと補足します。

 

 

 それから数年と経ち有線イヤホンの宿命としてコード/ケーブル部分が壊れたのが…正確にはいつだったか思い出せません。しかし2018年の5月にワイヤレスイヤホンを注文した履歴があり、この時に初めて音楽鑑賞用としてBluetoothイヤホンに手を出したと記憶しているため、直前の4月頃に『XBA-H3』のコードが死んで「残念だけど好い機会だから無線も試そう!」となったのだろうと過去をトレースしてみます。さて、『XBA-H3』をお持ちの方はここでツッコミたい気持ちが芽生えたかもしれませんが、程無くしてセルフでするので暫しお待ちください。

 

 ここからの数年はワイヤレスイヤホンに浮気します。従前からずっとイヤホンは有線派で無線は「音質の観点からどうなの?」と選択肢から除外し続けていたけれど、上記の注文で購入したSoundPEATSのそれが3,000円台にしては悪くなくて、「中国製というか深圳は侮れないな」と感心しました。サウンドピーツのは左右がコードで繋がっていて背面のマグネットでネックレスのように保持できるタイプだったので(ネックバンド型とは異なる)、完全ワイヤレスのも欲しいと考え現在ではAnkerの『Soundcore Liberty Air 2 Pro』にお世話になっています。アンカーは超大容量モバイルバッテリーに旅行時のみならず大規模停電時に助けられたのもあって信頼しており、その品質の良さはイヤホンを通じても変わりませんでした。Eufyブランドの家電も中々に実用的です。

 

 

 閑話休題。有線イヤホンはどうしても断線で役目を終えがちなため、決して安くはない価格帯にある『XBA-H3』の次を考えた時にこれ未満では性能に物足りなさを感じるであろうし、かと言って同等か上位では再びの散財と数年内の寿命を意識せざるを得ない点がネックとなって、「無線にも良質なのがあると知れたし有線にこだわらなくてもいいか」との気持ちが次第に大きくなっていきます。そんな折です。自宅の片付け中に『XBA-H3』の外箱を発見しました。一応中身を確認しようと開封すると… 「えっ、何この真っ新なコード!?」と予想外の代物が出てきて困惑します。使用感ゼロの見てくれが壊れたコードの戻し入れを否定し、その両端にあるはずのイヤホン本体がない状態なのを認めた瞬間、「これ予備だ!!」と狂喜に至りました。

 

 

 というわけでお恥ずかしながら2021年までの7年間、僕は『XBA-H3』が所謂「リケーブルイヤホン」だったことを知らなかったのです(アホか!)。当時からこの言い回しが市民権を得ていたかはともかく、冒頭にリンクした商品ページにはしっかり「用途によって使い分けられる着脱式コード」と書いてありました。2018年にお釈迦になったのは標準コードで、スマートフォン用リモコン・マイク付きコードは未使用のまま残っていたわけです。元よりDAP以外での使用を想定していなかったため、スマホ用の表記に惑わされて端から「これは使わないコードか」と意識外へ遣ってしまったのだと言い訳しておきます。ただ、予備の存在には買値を実質半額に感じさせるマジックがあるので、7年越しでお得感を味わえたのは僥倖です。

 

 期せずして『XBA-H3』に出戻ってみると、本体部分のエージングが底上げとなっているお蔭もあるのでしょうが、「やっぱり有線がベスト!」との初心に還ることができました。かと言って無線もそう悪くないことは学習済みなので、今後はワイヤレスイヤホンと併用して(相対的に有線の使用頻度を減らすことで)長持ちさせようと決意しました。しかしいくら未使用とはいえ箱の中で7年間眠っていた状態でもコードに負荷がかかっていたからか、或いはリモコン・マイク付きという構造の違いのせいか二本目は一本目よりも短い期間でダメになってしまい、今度こそ本当に次を考えなくてはいけなくなったのがつい先般のことです。

 

 

復活:リケーブルで進化する『XBA-H3』

 「はじめに」のところでも都度主張している通り、『XBA-H3』は10年前のプロダクトながら非常に秀逸なイヤホンで、都合6年近くメイン使いした経験からも嘘偽りなくそう思えます。他者の感覚では例えば下掲の価格.comでも概ね高評価ですし、発売年+数年のみならず2022年までコンスタントに詳細な使用感がアップされ続けていることも、その褪せない魅力を裏付けるひとつの側面でしょう。レビュータブのみならずクチコミタブにも愛好者が集っており、いちユーザーとして読むだけでも楽しいです。

 

 

 メディアのレビューとしては下掲のAV Watchの記事が優秀で、他の『XBA-Hシリーズ』との差異や別機種との比較もあって参考になります。別けても『XBA-H3』に「モニター」の視座から言及しているのが素晴らしく、完璧に近いバランスで音像を隅々まで把握するのに適したイヤホンであると共感頻りです。先掲のインタビュー内容にも再度ふれまして、『XBAシリーズ』がプロのPAエンジニアからイヤモニ用途に耐え得る評価を得ているのも高性能を証明する一助となります。廣川光一さんに『XBA-A3』を提案した「あるアーティスト」が誰なのかも気になるところです。

 

 

 さて、塗装こそ所々剥げていますが『XBA-H3』本体の機能には何ら不具合はなく、加えて同梱の予備コードに交換しただけではリケーブルイヤホンの醍醐味を堪能したとは言えないため、次の選択は「新しいケーブルに交換する」になりました。「XBA-H3 リケーブル」で検索すると様々なメーカーから対応可能な商品が出ているとわかり値段もピンキリです。安いものが必ずしも悪いわけでないことはワイヤレスイヤホン選びを通して知っていましたし、同様の理由でどこ製だから性能が良くないなどと一概に言えるものでもないので能々考えました。

 

 しかしネット通販に於ける商品名や仕様欄にありがちな対応モデル名の羅列がどの程度信頼できるかには不安が残り、他社製品でさえそうなのに例えばソニーの純正品である『MUC-M12SM2』に関しても、アマゾンでは『XBAシリーズ』に対応するとして『XBA-H3』を含む9種が挙げられているけれど、ソニーストアでは4種に止まり『XBA-H3』は含まれていません。アマゾンのほうがより実用的な表記になっているのかもしれませんが、やはり公式の情報を頼ったほうがリスクが少なく安心との結論に至ったので、購入するのは『MUC-M12SB2』一択となりました。

 

 

 上掲ページの対応モデルにきちんと『XBA-H3』が載っているのを確認した後に、自分にとっては意外な文言が目に飛び込んできます。それは「新発売」です。10年前のイヤホンに対応するものなのでてっきり旧い製品かと誤解していたのですが、今年の5月に出たばかりと知ってカバー範囲の広さに驚かされました。ある意味これが本記事執筆の意義だと自覚していて、10年前のイヤホンを今更褒め称えるだけが目的ではなく、新製品の紹介を兼ねていることを遅蒔きに明かしておきます。ともかく2013年発売のイヤホン本体に2023年発売のケーブルを付けられるのはとてもそそられるアップグレード要素で、いざ換装した瞬間には脳内のDIOが「なじむ 実に!なじむぞ」と高笑いしました。笑

 

 

 KIMBER KABLE社の協力を得た本ケーブルがいかに高品質かは先掲のストアページで説かれているほか、ソニーショップテックスタッフのブログでも補足的な情報を得ることができます。以降の話の組み立て上ここで頭に留め置いていただきたい用語は、「8芯ブレイド構造」および「Φ4.4mmバランス接続」です。簡単に説明しますと「ブレイド構造」はキンバーケーブル独自の特殊な編み方(英:braid)のことで、芯の数がそのまま「n芯」の値に反映されています。これによってシールドに依存することなく外部ノイズからの影響を排し、且つワイヤー同士の干渉による悪影響を受けにくくなるため、最適化されたオーディオ信号の通り道が確保されるというのが売りです。

 

 

 「Φ4.4」はプラグ部分のサイズのことで、これには[ソニー規格]なる語弊を孕んだ俗称があるくらいなので(JEITAが規格化したものを最初に採用したのがソニーという流れ)、直径の異なる6.3mm[標準]・3.5mm[ミニ]・2.5mm[ミニミニ/超ミニ]に馴染み深い人のほうが多いかもしれませんね。「バランス接続」はアンバランス接続に対する概念で、ざっくりLRの電気信号が混ざるか混ざらないかで区別されると言えます。混ざらないバランス接続のほうがノイズ軽減や音質向上に繋がると考えるのが一般的です。Φ4.4ならではの「5極」も特徴的なつくりで、ピンアサインは先端から【L+, L-, R+, R-, GND】となっています。「バランス接続にはLRの+-で十分なのになぜGNDが?」との疑問は皆抱くようで、真っ先に思い浮かぶであろう「アンバランス接続も可能?」も想定として正しく、その他の使用法や展望そして規格化の背景や意義を知りたい方は上掲記事をご覧ください。

 

 

誤算:『MUC-M12SB2』の真価が…

 さも「プラグ周りのことはわかってますよ~」的な文章を連ねた後で恐縮ですが、僕は取り立ててオーオタというわけではないため上記の内容は全て付焼刃です。事前にこれらの知識があれば小見出しの「誤算」もなかったのになぁという自戒が延いては誰かへのTipsになればとの意図がここまでに、ここからは同じようなミスを犯した方や似たような使用環境の方が嘆かずに済むためのTipsを伝えていきます。勿体付けている「誤算」とはその実大袈裟なものではなく、僕が普段使いしているDAP『NW-A107』(この記事の冒頭にプチレビューあり)のジャックはΦ3.5にしか対応しておらずΦ4.4が挿さらないといった凡ミスです。例えば同時期に発売されたものなら『NW-ZX500シリーズ』は両サイズに対応しています。

 

 いざ使おうとしてサイズ違いがわかった瞬間も「まだあわてるような時間じゃない」と仙道ばりに冷静で、イヤホンケーブルに限らず大抵のコード様のものには変換器があるはずと直ちにネットを漁りました。『MUC-M12SB2』と『NW-A107』を繋ぐためには、5極のメスと3極のオスでペアになっていなければなりません。検索すれば変換ケーブル自体はごろごろ出てくるものの、Φ4.4が特殊だからか或いはバランス接続をアンバランス接続にするニーズはその逆に比べると当然ながら少ないせいか途端に選択肢が少なくなります。僕の探し方が拙かったのかもしれませんが今般の条件に合う商品が確実に手に入りそうだと思えたのは、メーカー名なのかブランド名なのか販売代理店名なのかよくわからない中国製のokcscだけでした。ここはΦとオスメスの組み合わせが豊富で様々な状況を想定している点で好感触です。下掲の『KS120』がまさに自分の求めていた代物でした(注:商品名の矢印は罠なのでオスメスで判断してください)。

 

 

 他の組み合わせのレビューもまとめて表示されておりそれらを見るに、やはり主なニーズがバランス接続化にあるのは瞭然です。しかし中には僕と同じような使用状況の方もいて、Φ4.4バランスケーブル装着済みのイヤホンを旧いDAP等に挿す目的で購入したという立脚地はとりわけ参考になります。『KS120』による音質の劣化も向上も感じなかったとの所感が変換に於ける優秀さの証左だと思えましたし、この「余計な影響を与えない」つくりはキンバーケーブル社の哲学にマッチしていて『MUC-M12SB2』との相性にも期待が持てました。構造も8芯単結晶銅導体の編み込みでブレイドを彷彿させますしね。ノイズに関する言及は別のオーケーシーエスシー製品『Lin08』のレビューにもあるけれど、自分の環境では静寂時も再生時も特にノイズは感じられませんでした。後者にはDAP経由なら問題ないとの知見があり、自分も同じなのでこれを支持します。余談ですが説明欄の日本語力は全体的に及第点と言えるのに「質感も上品感じる!」だけ怪レい日本语全開で、しかし絶妙な疾走感と可愛さがあるため僕もどこかで使いたいです。笑

 

 

未来の話:延命叶いて本命を期す

 漸く記事タイトルの【XBA-H3 ← MUC-M12SB2 ← KS120 ← NW-A107】のラインが完成し、主目的の「イヤホン本体とDAPをそのままにした延命」は無事に果たせました。アンバランス接続化しているのでアップグレードとは言わないけれど、2013年の標準コードよりは2023年のケーブルのほうが良質なのは間違いないでしょうし、変換ケーブルによる影響は極力排せていると他者の感覚も借りつつ主張できるので(Φ4.4対応の機器を持っていないため自分では確認や比較ができない)、イヤホン本体のエージングを引き継げている点も相俟って従前より高品質のオーディオ体験になっていることは疑いようがありません。『XBA-H3』単体でも相当に細やかな音像把握が可能であったのは幾度も述べた通りながら、『MUC-M12SB2』への換装で意識上に明確に顕れるサウンドの数が増えて驚きました。その滋味をそのまま『KS120』が運んできてくれるので耳が幸福です。

 

 

 とはいえ『MUC-M12SB2』の本領はバランス接続でこそ発揮されるのは言わずもがな、加えて『XBA-H3』はバランスで化けるとの絶賛レビューも目にしており、例によってディドロ効果でΦ4.4対応のDAPを買いたい誘惑に駆られています(序でにポータブルアンプの世界にも興味が沸く)。『WM1シリーズ』にはちょっと手が出ないため、可能性があるのは『ZXシリーズ』ですね。しかし『NW-A107』(=最新モデルではない『Aシリーズ』)にだって弄れる機能はまだあり、鑑賞するジャンルに依って話は変わるのを前提としつつも、【イコライザーはエキサイティング, DSEE Ultimateとバイナルプロセッサーはオン, DCフェーズリニアライザーはオフ】にすると、全般的にバイタルに響いて【XBA-H3 ← MUC-M12SB2 ← KS120】の淀みなさを勢い良く感じられる気がします。EQは使わずDSEEとVPとDCPL全部盛りで立体的な豊かさを追求する場合も勿論素敵で、耳への負担を考慮して普段はこの状態です。

 

 

おわりに:これからも長く愛用したい『XBA-H3』

 毎度のことながら記事あたりの文字数制限までもう幾許もなく、書きたいことは書ききったため特にまとめのセクションは設けずに〆とします。小見出しの願いが全てです。