今日の一曲!Pyxis「恋せよみんな、ハイ!」 | A Flood of Music

今日の一曲!Pyxis「恋せよみんな、ハイ!」

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:2019年のアニソンを振り返る】の第二十三弾です。【追記ここまで】

 

 

 今回の「今日の一曲!」は、Pyxisの「恋せよみんな、ハイ!」(2019)です。TVアニメ『ノブナガ先生の幼な妻』OP曲。

 

 

 

 『ノブ妻』は双葉社のコミックスを原作とするアニメを3本まとめた「ふたばにめ!」枠にて放送されていた作品です。僕は制作会社がセブンで且つお色気が多めとなると、地上波放送に適さないシーンをどうマスキングしてくるかの演出面にいちばんの関心を寄せてしまいます。笑 本作の場合は局部にキャラクターアイコン、所謂「謎の光」を応用させた(?)ハレーション的な体躯の発光、同社お得意の「○○劇場」への差し替えと、実にらしい自主規制が行われていたとの印象です。ちなみにセブンによる独特な規制の手腕に注目するようになったきっかけは『魔装学園H×H』(制作協力)で、多彩なセーフティエフェクトに感心したことを覚えています。

 

 

 前述した「○○劇場」のフォーマットを生んだ作品『おくさまが生徒会長!』について、2007年夏~2015年夏は僕の二次元趣味ブランク期に当たるためアニメは観たことがないものの、原作は電子書籍で6巻まで所持しているので機会があれば鑑賞したいです(この文脈では「規制版を」という意味)。話変わりまして、同枠内の別作品『超可動ガール1/6』も電子で2巻までは持っています。というのも、僕は原作者のÖYSTERさんのファンで特に『光の大社員』と『男爵校長』が好きなので、オイスター劇場みたいなタイトルでまとめてショートアニメになったら嬉しいなぁと思っていただけに、初アニメ化が『超可動~』になったのは意外でした。なお、先程から中途半端な所持巻数を書いているのは別に当該作品が嫌いになったわけではなくて、いつからか「書籍は紙派」に出戻った結果のペンディング状態です。再び話変わりまして、同枠内の『女子かう生』はアニメで初めてふれた作品でしたが、視聴前はタイトルの「かう」が平仮名になっている理由を内容が買い食いモノだからと予想し、漢字でないのは「女子買生」だとなんだか犯罪臭がするからだと根拠まで持っていたのに、まさかのサイレント作品で驚かされました。平仮名なのは昔同じく双葉社からストレートに『女子高生』と題された漫画が刊行されていたからですかね?副題に「GIRL'S-HIGH」が付いたアニメはまさに高校生の頃に観ていました。

 

 『ノブ妻』の内容にふれていない上に余談のほうが長くなる脱線ぶりはご容赦いただくとして、ここ最近の更新分はヘビーなアニメ語りが多かったので敢えてライトに済ませて音楽レビューへ入ります。

 

 

 

 歌い手の紹介から始めますと、Pyxis(ピクシス)は声優の豊田萌絵さんと伊藤美来さんからなるユニットです。所属事務所スタイルキューブ発の別ユニット、StylipS(スタイリップス)に後発で加入した2人であるとも説明出来ます。ただ、本作より前にPyxisが主題歌を担当したアニメは何れも観たことがなく、StylipSの活動期は先掲した僕のブランク期と重なるため、ユニットとしての魅力に関しては特に語れる部分を持ち合わせていません。

 

 その代わりと言ってはなんですが、本曲の制作クレジットは【作詞:畑亜貴|作編曲:Tom-H@ck】の豪華さで、両名共過去に当ブログで幾度か言及している存在だけに、アニソンファンとしては外せない一曲だと捉えています。というわけで、まずは畑さんによる歌詞の素晴らしさから説いていくとしましょう。通時的にツボを列挙していくスタイルでお送りします。

 

 

 まずAメロの台詞パートというかリズミカルな言葉繰りが冴え渡っているセクションについてですが、促音を多めに入れて跳ね感を演出するのは当然の技法として、対照的に地を這うような韻律が配されているところが非常に技巧的です。例えば"おっとぐっとえいこらやっと"と軽やかに紡がれる一節から、一拍置いて"まえにまえに"更に一拍置いて"まえに行かなきゃ"と必死に継がれるところは、聞こえ度(ソノリティ)ないし調音の観点から発音に係るコストが対比されていると分析します。

 

 シラブル・モーラがどうだの調音部位・方法がどうだのを語り出すと専門的になるので、感覚的に啖呵売っぽい緩急が付けられていると形容したいです。この点は地口が含まれている"あっとタメゴロえいこらやっと"(cf. 「アッと驚く為五郎」)で一段と顕著になり、今度は間を置かずに"ずいっとズキズキ茶壷なときめき"と畳み掛けられて流麗に推移します。感覚的と言いつつ予備知識の要る書き方になっているため言い換えて、ラップ用語でフロウが好いと表せば音楽レビュー的にまだ親切でしょうか。なお、便宜上歌詞の功績にしていますが、Tom-H@ckさんによるポップなリズム感と、豊田さんと伊藤さん双方の舌の回りが合わさってこその産物でもあります。

 

 

 Bメロの"秘めど忍ぶれど顔に出ます"~は、これだけでは百人一首(40番)からの引用と取るか微妙なものの、2番の同位置"絶えなば絶えねは"~が明確に89番からの引用である点と、畑さん作詞の別曲にも40番が引用されている点から、やはりどちらも巧く教養が取り入れられた歌詞だと評価したいです。特に後者は否定の仕方が上手で、"絶えなば絶えねは まだ早い スキ スキ スキって伝えなくちゃ/玉の緒だいじに愛の詩 えっさ えっさ ほいっさ 浮かれましょう!"で、忍ぶどころか積極的にアピールしていく姿勢を示しているところに、飛鳥・奈良時代から鎌倉時代までの抑制的な美意識(百人一首由来の解釈)および戦国時代の政略結婚的な価値観(作中設定由来の解釈)から離れて、現代的な恋愛観に染まったヒロイン達の変遷が窺えます。

 

 サビでとりわけ好きなフレーズは表題を含む、"友よ民よ 恋せよみんな、ハイ!/踊れや踊れ ユメ見て踊れ 乙女、侍、魂、犬、猫!?"です。"犬、猫"を「ワン、ニャン」と読ませるセンスは流石で、文字通り「猫も杓子も」な趣が醸されているフリーダムな羅列に心地好さを覚えます。2番の"婆に爺になれど 恋せよ、ハイ!/踊れや踊れ ハナ咲け踊れ/小姓、くノ一、足軽、鴉、兎!?"(「カー、ピョン」)も同様です。

 

 

 

 次に作編曲面を語りますが、細かい部分よりも先にイメージの話をしましょう。何ら他意はないと前置きした上で、本曲を聴いて上掲の楽曲「回レ!雪月花」(2013)を頭に浮かべた方が一定数いると予想します。同曲は非常に人気が高く、アニメ語りの際にふれた個人的なブランク期に放送されていた作品の主題歌にもかかわらず、僕が知っていて且つお気に入りになっているくらいには有名です。『機巧少女は傷つかない』は未鑑賞なので、おそらくヒゲドライバーさんのワークスを漁っている過程で出会ったのだろうと顧みます。補足情報として、c/wの「夢見サンライズ」も良曲です。

 

 サウンドや旋律が「和」を志向しているところと、サビに「回転」に係るフレーズの連呼が来るところが主たる共通項で、ノリの良さではよりアップテンポな「回レ!~」に軍配が上がりますが、止め時を逸するような中毒性を誇っているのは両曲に通ずる美点でしょう。「回レ!~」はお囃子の如きビートメイキングと早口言葉並に立板に水の歌唱で仰けからアッパーに展開し、Bメロで少しクールダウンして全力を出すためのタメを作った後に、満を持して"回レ"の一点突破が潔いサビが登場する際立ったアグレッシブさが耳に残ります。終始この突き進みっぱなしのグルーヴで行くのかと思いきや、止めるところはきちんと止めるメリハリの利いたCメロ("花で一つ"~)の存在が新たなノリを生み、同曲を更に踊れるものに仕立てているとの分析です。

 

 

 一方の「恋せよ~」はサビから始まる割には立ち上がりが徐で、どっしりとしたギターおよびベースのリフも実にスロースターターに感じます。それを受けるAメロも主旋律だけを追っているとあまり激しさを感じないものの、バックのピアノは闊達自在に暴れ回れっており、これがサビへの布石になっているとの理解です。Bメロをタメに使っているのは本曲も同様というか王道の編曲ですが、今度はピアノが大人しい代わりに、くぐもった音像でブレイクビーツ然としたドラムスがその熱量を引き継いでいます。このようにアレンジの何処かにアッパーな要素が潜ませてあるおかげで、サビでの盛り上がりが唐突ではなく自然な積み重ねの果てにあるものと素直に受け取れるのでしょう。

 

 あとは細かいツボで、サビのビート構築に於ける最大の功労者は、オノマトペで「ブモッ」と表したい奇妙に歪んだ音であると主張します。"なれば ナレバ 戻れない/ならば ナラバ 戻らない"、"くるりん くるりん くるりん ぱーっ/くるりん くるりん くるりん ぱーっ"、"乙女、侍、魂、犬、猫!?"、"輪になればハッピーエンド"の裏で聴こえるやつのことです。加えて、ラスサビの"踊るんだーっ"に続くギターが俄にエモいのと、"スキですスキです止まらん...(ちゅっ)"でスパッと終わるのも、共にアニソンらしくて良いと思います。

 

 

 

 

 以上、Pyxis「恋せよみんな、ハイ!」のレビュー・感想でした。アニメ語りのパートも音楽レビューのパートも、アニヲタ遍歴にブランクがある人間ならではの歯抜けな部分を敢えて晒すことでユニークな視座に立てれば幸いと考え、雑多な内容を盛り込んでみましたがどのように映ったでしょうか。声優ユニットによる楽曲を取り立てているため、本来であれば声優さんの歌声や声質も考慮したレビューに仕上げるべきだったことは重々承知しており、それが目当てで本記事を訪れた方には物足りない中身だったかもしれませんね。