今日の一曲!Mili「奶水」
今回の「今日の一曲!」は、Miliの「奶水」(2017)です。YouTubeでの公開日を理由に2017年の楽曲としましたが、アルバムとしては3rd『Millennium Mother』(2018)の収録曲になります。
当ブログ上でMiliを単独で取り立てるのは、同盤収録曲「Mushrooms」のレビュー以来二度目です。同記事の中には個人的なお気に入りナンバーのリストアップがあり、その中に今回紹介する「奶水」も含まれていたのですが、当時はアルバムの中で「どちらかと言えば好き」ぐらいの認識でした。詳細はリンク先をご覧いただくとして、目当てだった「Mirror Mirror」と、スルメ的に好きになった「Lemonade」及び「Mushrooms」が、同盤に於ける僕のフェイバリット・トップスリーで落ち着くかと思いきや、今年になってから「Extension of You」と「奶水」の追い上げが著しく、二択で迷った結果、後者にフォーカスすることに決定した次第です。
曲名から察せるかもしれませんが、本曲は中国語で歌唱されています。括弧内の通り、「奶水」とはミルクの意です。歌詞の上では、"共飲同一瓶/同一瓶奶水"という形で登場し、日本語の訳詞は、"同じ瓶から/同じミルクを飲む"となっています。それに続くのが、"啃一個奶嘴"(="同じ乳を噛む")であるところから、「奶」が「乳房」を表すことがわかり、プラス「水」で即ち「母乳」だと得心がいきました。一連のフレーズは曲の中盤に登場し、音遣いと歌声が最も優しく響いてくるパートでもありますが、歌詞内容を思えば納得の、母性に満ちたアレンジではないでしょうか。後の"愛太多太多"(="愛がいっぱいいっぱい")も、中国語ならではの字面と音韻のチャーミングさが、一層の愛を感じさせるものとなっていてユニークです。
しかし、このシーンは曲中では未来のビジョンを描いているように映ります。なぜなら、冒頭の一節が"我們在羊水中漫歩"(="僕たちは羊水の中に歩く")だからで、主に描かれているのは胎内の出来事だと解するほうが据りがいいからです。"僕たち"ゆえに複数人、イラストを考慮すれば二人を身籠っている状態なのだと思いますが、歌詞を具に見ていくと、事はそう単純ではなさそうだとわかってきます。以降、訳詞は部分的な引用にとどめるので、全体が気になる方は上掲動画の字幕機能を活用してください。
"交錯/我們的肋骨/併合/完美的拼圖/拉鎖/密封上皮膚/我們煉成一個"は、前半までの内容であれば、胎児は「双子」なのかな程度に読み解ける内容です。問題は後半で、"僕たちは一つに絞り込んだ"を比喩でないとするならば、双子の片割れは消失したことになりますよね。結びにも"拼圖"までを共通部分として、以降に"上鎖/無人能侵入/我生出你/你生出我"と続く歌詞が出てきますが、"僕は君を産んだ/君は僕を産んだ"という意味深長なオチは、生まれた個体数が一であることを示しているように思えます。
この理解は割と王道のようで、ネット上で確認出来た他の方の解釈ないし考察にも、「結合双生児(シャム双生児)」「バニシング・ツイン」「キメラ」などのワードが挙げられていました。先達ては話の組み立て上で端折りましたが、表題の「奶水」を含む箇所はもう一つあり、"月上弦/像奶水一様甘甜"で象徴的に扱われている"上弦の月"も、異称に「片割れ月」があるくらいなので、前出の3つの中では「バニシシング・ツイン」説が個人的に最もしっくりきます。ただ、Wikipediaで「双生児」のページを眺めているだけでも、それに纏わる特有の現象や問題の多さに驚かされ、安易に使うべき表現ではないかもしれませんが、生命の神秘に思いを馳せてしまいました。どういった十月十日の旅路にせよ、命の尊さは普遍であって欲しいため、外界を"世界其實充滿悲慈"と認識しているのは、前向きな展望と言えるのではないでしょうか。
音楽的な面では、謎言語で畳み掛けられる2:10~2:25の格好良さに痺れました。というか、このセクションの存在こそが俄に評価が爆上がりした要因だと分析しています。元々何処がサビだとかを規定しにくい楽曲ですが、強いて言えば"我看不到"からのラインにピークへと至るポテンシャルを感じたので、「この後にもう一段階盛り上がりがあれば完璧」との期待を、一度目(0:37~)で焦らした後に、二度目(2:10~)でしっかりと応えてくれる楽想が好みです。特に"Tesh collon dou Mamonde mi/fulle Her"のフロウの良さがイヤガズムに繋がっていて、舌の回りに感心しました。
伴奏のピアノに関して言えば、2:41~のそれが最も好みで、序盤の同じ部分(0:46~)よりも、鍵盤を叩く強弱に複雑な感情が上乗せされているようで、聴き比べの楽しみがあるとサジェストしてみます。
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当ブログ上でMiliを単独で取り立てるのは、同盤収録曲「Mushrooms」のレビュー以来二度目です。同記事の中には個人的なお気に入りナンバーのリストアップがあり、その中に今回紹介する「奶水」も含まれていたのですが、当時はアルバムの中で「どちらかと言えば好き」ぐらいの認識でした。詳細はリンク先をご覧いただくとして、目当てだった「Mirror Mirror」と、スルメ的に好きになった「Lemonade」及び「Mushrooms」が、同盤に於ける僕のフェイバリット・トップスリーで落ち着くかと思いきや、今年になってから「Extension of You」と「奶水」の追い上げが著しく、二択で迷った結果、後者にフォーカスすることに決定した次第です。
曲名から察せるかもしれませんが、本曲は中国語で歌唱されています。括弧内の通り、「奶水」とはミルクの意です。歌詞の上では、"共飲同一瓶/同一瓶奶水"という形で登場し、日本語の訳詞は、"同じ瓶から/同じミルクを飲む"となっています。それに続くのが、"啃一個奶嘴"(="同じ乳を噛む")であるところから、「奶」が「乳房」を表すことがわかり、プラス「水」で即ち「母乳」だと得心がいきました。一連のフレーズは曲の中盤に登場し、音遣いと歌声が最も優しく響いてくるパートでもありますが、歌詞内容を思えば納得の、母性に満ちたアレンジではないでしょうか。後の"愛太多太多"(="愛がいっぱいいっぱい")も、中国語ならではの字面と音韻のチャーミングさが、一層の愛を感じさせるものとなっていてユニークです。
しかし、このシーンは曲中では未来のビジョンを描いているように映ります。なぜなら、冒頭の一節が"我們在羊水中漫歩"(="僕たちは羊水の中に歩く")だからで、主に描かれているのは胎内の出来事だと解するほうが据りがいいからです。"僕たち"ゆえに複数人、イラストを考慮すれば二人を身籠っている状態なのだと思いますが、歌詞を具に見ていくと、事はそう単純ではなさそうだとわかってきます。以降、訳詞は部分的な引用にとどめるので、全体が気になる方は上掲動画の字幕機能を活用してください。
"交錯/我們的肋骨/併合/完美的拼圖/拉鎖/密封上皮膚/我們煉成一個"は、前半までの内容であれば、胎児は「双子」なのかな程度に読み解ける内容です。問題は後半で、"僕たちは一つに絞り込んだ"を比喩でないとするならば、双子の片割れは消失したことになりますよね。結びにも"拼圖"までを共通部分として、以降に"上鎖/無人能侵入/我生出你/你生出我"と続く歌詞が出てきますが、"僕は君を産んだ/君は僕を産んだ"という意味深長なオチは、生まれた個体数が一であることを示しているように思えます。
この理解は割と王道のようで、ネット上で確認出来た他の方の解釈ないし考察にも、「結合双生児(シャム双生児)」「バニシング・ツイン」「キメラ」などのワードが挙げられていました。先達ては話の組み立て上で端折りましたが、表題の「奶水」を含む箇所はもう一つあり、"月上弦/像奶水一様甘甜"で象徴的に扱われている"上弦の月"も、異称に「片割れ月」があるくらいなので、前出の3つの中では「バニシシング・ツイン」説が個人的に最もしっくりきます。ただ、Wikipediaで「双生児」のページを眺めているだけでも、それに纏わる特有の現象や問題の多さに驚かされ、安易に使うべき表現ではないかもしれませんが、生命の神秘に思いを馳せてしまいました。どういった十月十日の旅路にせよ、命の尊さは普遍であって欲しいため、外界を"世界其實充滿悲慈"と認識しているのは、前向きな展望と言えるのではないでしょうか。
音楽的な面では、謎言語で畳み掛けられる2:10~2:25の格好良さに痺れました。というか、このセクションの存在こそが俄に評価が爆上がりした要因だと分析しています。元々何処がサビだとかを規定しにくい楽曲ですが、強いて言えば"我看不到"からのラインにピークへと至るポテンシャルを感じたので、「この後にもう一段階盛り上がりがあれば完璧」との期待を、一度目(0:37~)で焦らした後に、二度目(2:10~)でしっかりと応えてくれる楽想が好みです。特に"Tesh collon dou Mamonde mi/fulle Her"のフロウの良さがイヤガズムに繋がっていて、舌の回りに感心しました。
伴奏のピアノに関して言えば、2:41~のそれが最も好みで、序盤の同じ部分(0:46~)よりも、鍵盤を叩く強弱に複雑な感情が上乗せされているようで、聴き比べの楽しみがあるとサジェストしてみます。