今日の一曲!Mili「Mushrooms」
「今日の一曲!」はMiliの「Mushrooms」(2017)です。YouTubeでの公開日を理由に去年の楽曲としましたが、アルバムとしては3rd『Millennium Mother』(2018)の収録曲となります。
Miliの単独記事を立てるのは今回が初ですが、実は過去にもお気に入りのMVを紹介する記事の中で、同アルバム収録曲の「Mirror Mirror」を取り上げていて、映像の素晴らしさを絶賛しています。同記事はMVを特集したものとは言え、「その音楽自体も好き」であることを大前提として書いたものなので、アーティストレベルで高く評価しているとご理解ください。
…と、偉そうな書き出しになりましたが、実はファンになったのは今年の春からという、ニワカ丸出しであることをまず断っておきます。当時観ていたアニメの枠内で放送されていたTV Spotで良さげな雰囲気を感じ、YouTubeでいくつか音源を聴いてみたらそれが確信に変わり、ちょうど新譜も出ることだし過去作も含めて揃えてみるかと思い立ったというのが出逢いの経緯です。
そしていざ音源で聴いてみても、とりわけこの3rdは完成度が非常に高くて驚きました。目当ては先に曲名を挙げた「Mirror Mirror」だったのですが、繰り返し聴くうちに「Lemonade」と「Mushrooms」の魅力に取りつかれるようになり、特に後者は初聴時にそこまで印象に残らなかったところからの大躍進だったので、今回紹介するフェイバリット・ナンバーとしてチョイスしました。
同作では他にも、「Camelia」「Vitamins」「奶水」「world.search(you);」「Extension of You」「Every Other Ghost」「Fossil」「Rubber Human」あたりの楽曲も好みです。加えて「With a Billion Worldfull of <3」には、DÉ DÉ MOUSEがフィーチャーされていて驚きました。…ということは、仮にCMでMiliの存在を知らなかったとしても、いつかは本作に手を出していた可能性が高いですね。また、より過去の曲では、2nd『Miracle Milk』収録の「Red Dahlia」「Ga1ahad and Scientific Witchery」「RTRT」「world.execute(me);」や、1st『Mag Mell』収録の「Chocological」「Fable」「Maroma Samsa」などがツボで、ボーカル曲とインストナンバーのいずれもハイセンスだと思います。
歴は浅いながらもファンなんだということを示すために曲名を列挙してみましたが、自信を持ってアーティスト紹介を出来るほどに出自やバックグラウンドについて明るいわけではないため、そちらは公式HPのBIOGRAPHYやWikipediaの記述をご覧くださいと丸投げして、本題である「Mushrooms」の紹介へと移らせてください。
美麗なイラストと共に英中日の三ヶ国語字幕対応で公式に音源がフル尺でアップされているあたり、目指している場所がワールドワイド、且つインターネット時代のアーティストの在り方に配慮していることが窺えて好感が持てるので、その恩恵に与らせていただいて動画を埋め込みます。
本曲最大の魅力はメロディ構成の自在さではないでしょうか。所謂「A-B-サビ形式」のJ-POP的な展開ではないのは勿論のこと、「ヴァース-コーラス形式」でシンプルに説明出来る類のものでもなく、次々と新しいメロディが登場しては消えていくという、緊張の連続で成り立っていると表現したい複雑なナンバーで、戯曲や組曲に宿るような物語性を感じさせます。おそらく詞先で作ったのではないかと考えているのですが、実際のところはわかりません。
一応サビと言えるセクション("All the mushrooms"~)は存在しますが、その他のメロディのまとまりは基本的に一度出てきたら二度と出てこないため(「変則○○」と表現しようと思えば出来る部分もありますが)、この言わば「儚さ」みたいなものが、初聴時には耳を滑り落ちてしまう要因となっていました。しかし繰り返し聴いて展開を把握することで、美しい旋律の連続であることに気付き、カオスの中に一本の筋道を見つけたような感覚に陥り、そこからはもう楽曲の虜です。
補足:名前こそ出しませんが、本曲のように目まぐるしい展開を持った曲を寧ろ専門としているような、ストーリー性のある楽曲を得意とするアーティストは、近年ではそう珍しい存在ではないとの認識でいます。偏見もあることは承知で主張しますが、その手の音楽は「旋律同士のつながりに意味を見出しにくい」点が難儀だと思っていて、たとえばある曲Aとある曲Bのメロディを並べた時に、Aのあの部分をBのこの部分に挿げ替えても成立するよなと思えてしまう、換言すれば「つなぎが強引ゆえにどうとでもなる作曲スタイル」が、僕は本来あまり好きではありません。
普段から複雑な展開の曲を支持するようなレビューを書いているので、矛盾しているように映ったかもしれませんが、僕が好むのは「基本と応用による複雑性」であって、「応用に応用を重ねた複雑性」はともすれば「基本を忘れている」と受け取られかねない、非常に危ういものだと捉えています。このあたりのバランス感覚が複雑な楽曲を好むかどうかの分水嶺となるわけですが、本曲はその按排が実に絶妙であったため、先述の「カオスの中に一本の筋道を見つけた」という言葉につながるのです。この場に相応しく言い直すならば、「応用の中から基本を見出した」感覚でしょうか。
このような楽曲の特性上、全体として評価したほうが正道であるような気はするのですが、どのセクションを切り取っても絵になるほどに計算高い楽想となっているので、以降は楽曲を細かく分解してツボを語ることにします。
僕が特に好んでいるのは中盤のセクション;"And I thought that this is"から"Freed my screams"までで、とりわけ"The mushrooms spoke"からのスタンザは、何もかもが完璧で何度聴いても惚れ惚れしてしまうぐらいです。
第一スタンザ("And I"~)は、歌詞にある"the triumph"に陶酔していた過去の自身を顧みるような勇壮な旋律になっていて、冷静にしかし確実に昂っていたことが察せる、言葉に寄り添った表情豊かなメロディラインだと思います。後半(I've blamed~)からはキックが復帰して俄にビートが勢い付きますが、ここからは歌詞内容が後悔や懺悔へと傾き始めるので、今度は省みるという字を当てたほうが適切になる点も技巧的です。
このまま逸るビートで展開していくのかと思いきや、キュートな趣を携えた第二スタンザ("You gently"~)が挿入されて意表を突いてきます。ここはボーカルのmomocashewによる滑らかな英語のフロウが美しく、特に"peeled open the wings"の部分には、幼子のような純粋さを錯覚したほどです。日本語詞から引用すれば、"屈辱の顔を隠す翼を 君が剥がしてくれた"となるので、この歌唱はある種の天使性の表現でしょうかね。そしてこれを受ける言葉は、"I was so ashamed"。"恥"を知ったゆえか、賑やかだったオケは鳴りをひそめて内省的なものへとシフトします。
そして懺悔の第三スタンザ("The mushrooms spoke"~)へ。先に絶賛したセクションですが、ここでもやはりmomocashewのフルーエンシーが素晴らしく、とてつもないほどの'eargasm'を覚えます。たとえば"feeling/sorry for myself"の消え入りそうな感じや、"Trampled, used, and dumped/Got no pride to push them down"の韻律の良さなどは、この旋律にはこの言葉しかないと思えるほどに完璧だと絶賛したいですし、"suffering/As I go"や"have I/Have I"の部分に顕著な、行を跨いて次の音へとなだれ込むシームレスさも大好物です。単語単位では"hierarchy"の発音がめちゃくちゃツボで、ドイツ語の発音に近い「ヒエラルキー」に馴染んでしまっている日本人としては、英語の響きのほうはより新鮮に聴こえます。主に発音を褒める形になってしまいましたが、要はこのセクションはメロディが美し過ぎると言いたいのです。
続く第四スタンザ("I gave"~)は、本曲の中で最もキャッチーな部分だと思うので、ここはストレートな格好良さを称賛します。作り込みの深い第三スタンザの直後なので、ここでこの手の陽性のメロディが出てくることが一層意外に感じられ、対比がとても上手だなと言うほかありません。第二スタンザの冒頭で「このまま逸るビートで展開していくのかと思いきや」と書きましたが、曲調の共通性からして第四は第一から続いていると解釈しているので(第二と第三は回想録的に挿入されたと理解)、これは各セクションが有機的に絡み合っていていることの証左であると主張します。これは先述の「基本と応用」の話にも関係することで、ひいては本曲を気に入った動機とも言えるものです。
ここまでにも部分的には歌詞内容にふれてきましたが、始めから終わりまでをきちんと読み解こうと思ったら、ここから更に小説の書評に相当するほどの文章が続くことになると思うので、それほどまでに解釈のしがいがある歌詞を有しているということだけを伝えるにとどめます。
軽く調べたところ、Miliは歌詞に考察班が出てくるタイプのアーティストのようなので、ネットを漁ればコアなリスナーによる解釈を読むことが出来るでしょう。他の曲との関連性やイラストに描かれていることまで考慮しなければならないので、僕は未だ下手なことを書けないなと自重した次第です。
しかしこの一点だけはふれておいたほうがいい気がしたので最後に言及しますと、これだけ精緻な楽曲でありながら、クロージングは「マッシュ」の連呼というコミカルさで、その崩し方も含めてやはりハイセンスだなと感心しました。このパートは歌詞カードの表記も面白く、"=======D"でキノコを表現するチャレンジ精神にも感服の至りです。
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Miliの単独記事を立てるのは今回が初ですが、実は過去にもお気に入りのMVを紹介する記事の中で、同アルバム収録曲の「Mirror Mirror」を取り上げていて、映像の素晴らしさを絶賛しています。同記事はMVを特集したものとは言え、「その音楽自体も好き」であることを大前提として書いたものなので、アーティストレベルで高く評価しているとご理解ください。
…と、偉そうな書き出しになりましたが、実はファンになったのは今年の春からという、ニワカ丸出しであることをまず断っておきます。当時観ていたアニメの枠内で放送されていたTV Spotで良さげな雰囲気を感じ、YouTubeでいくつか音源を聴いてみたらそれが確信に変わり、ちょうど新譜も出ることだし過去作も含めて揃えてみるかと思い立ったというのが出逢いの経緯です。
そしていざ音源で聴いてみても、とりわけこの3rdは完成度が非常に高くて驚きました。目当ては先に曲名を挙げた「Mirror Mirror」だったのですが、繰り返し聴くうちに「Lemonade」と「Mushrooms」の魅力に取りつかれるようになり、特に後者は初聴時にそこまで印象に残らなかったところからの大躍進だったので、今回紹介するフェイバリット・ナンバーとしてチョイスしました。
同作では他にも、「Camelia」「Vitamins」「奶水」「world.search(you);」「Extension of You」「Every Other Ghost」「Fossil」「Rubber Human」あたりの楽曲も好みです。加えて「With a Billion Worldfull of <3」には、DÉ DÉ MOUSEがフィーチャーされていて驚きました。…ということは、仮にCMでMiliの存在を知らなかったとしても、いつかは本作に手を出していた可能性が高いですね。また、より過去の曲では、2nd『Miracle Milk』収録の「Red Dahlia」「Ga1ahad and Scientific Witchery」「RTRT」「world.execute(me);」や、1st『Mag Mell』収録の「Chocological」「Fable」「Maroma Samsa」などがツボで、ボーカル曲とインストナンバーのいずれもハイセンスだと思います。
歴は浅いながらもファンなんだということを示すために曲名を列挙してみましたが、自信を持ってアーティスト紹介を出来るほどに出自やバックグラウンドについて明るいわけではないため、そちらは公式HPのBIOGRAPHYやWikipediaの記述をご覧くださいと丸投げして、本題である「Mushrooms」の紹介へと移らせてください。
美麗なイラストと共に英中日の三ヶ国語字幕対応で公式に音源がフル尺でアップされているあたり、目指している場所がワールドワイド、且つインターネット時代のアーティストの在り方に配慮していることが窺えて好感が持てるので、その恩恵に与らせていただいて動画を埋め込みます。
本曲最大の魅力はメロディ構成の自在さではないでしょうか。所謂「A-B-サビ形式」のJ-POP的な展開ではないのは勿論のこと、「ヴァース-コーラス形式」でシンプルに説明出来る類のものでもなく、次々と新しいメロディが登場しては消えていくという、緊張の連続で成り立っていると表現したい複雑なナンバーで、戯曲や組曲に宿るような物語性を感じさせます。おそらく詞先で作ったのではないかと考えているのですが、実際のところはわかりません。
一応サビと言えるセクション("All the mushrooms"~)は存在しますが、その他のメロディのまとまりは基本的に一度出てきたら二度と出てこないため(「変則○○」と表現しようと思えば出来る部分もありますが)、この言わば「儚さ」みたいなものが、初聴時には耳を滑り落ちてしまう要因となっていました。しかし繰り返し聴いて展開を把握することで、美しい旋律の連続であることに気付き、カオスの中に一本の筋道を見つけたような感覚に陥り、そこからはもう楽曲の虜です。
補足:名前こそ出しませんが、本曲のように目まぐるしい展開を持った曲を寧ろ専門としているような、ストーリー性のある楽曲を得意とするアーティストは、近年ではそう珍しい存在ではないとの認識でいます。偏見もあることは承知で主張しますが、その手の音楽は「旋律同士のつながりに意味を見出しにくい」点が難儀だと思っていて、たとえばある曲Aとある曲Bのメロディを並べた時に、Aのあの部分をBのこの部分に挿げ替えても成立するよなと思えてしまう、換言すれば「つなぎが強引ゆえにどうとでもなる作曲スタイル」が、僕は本来あまり好きではありません。
普段から複雑な展開の曲を支持するようなレビューを書いているので、矛盾しているように映ったかもしれませんが、僕が好むのは「基本と応用による複雑性」であって、「応用に応用を重ねた複雑性」はともすれば「基本を忘れている」と受け取られかねない、非常に危ういものだと捉えています。このあたりのバランス感覚が複雑な楽曲を好むかどうかの分水嶺となるわけですが、本曲はその按排が実に絶妙であったため、先述の「カオスの中に一本の筋道を見つけた」という言葉につながるのです。この場に相応しく言い直すならば、「応用の中から基本を見出した」感覚でしょうか。
このような楽曲の特性上、全体として評価したほうが正道であるような気はするのですが、どのセクションを切り取っても絵になるほどに計算高い楽想となっているので、以降は楽曲を細かく分解してツボを語ることにします。
僕が特に好んでいるのは中盤のセクション;"And I thought that this is"から"Freed my screams"までで、とりわけ"The mushrooms spoke"からのスタンザは、何もかもが完璧で何度聴いても惚れ惚れしてしまうぐらいです。
第一スタンザ("And I"~)は、歌詞にある"the triumph"に陶酔していた過去の自身を顧みるような勇壮な旋律になっていて、冷静にしかし確実に昂っていたことが察せる、言葉に寄り添った表情豊かなメロディラインだと思います。後半(I've blamed~)からはキックが復帰して俄にビートが勢い付きますが、ここからは歌詞内容が後悔や懺悔へと傾き始めるので、今度は省みるという字を当てたほうが適切になる点も技巧的です。
このまま逸るビートで展開していくのかと思いきや、キュートな趣を携えた第二スタンザ("You gently"~)が挿入されて意表を突いてきます。ここはボーカルのmomocashewによる滑らかな英語のフロウが美しく、特に"peeled open the wings"の部分には、幼子のような純粋さを錯覚したほどです。日本語詞から引用すれば、"屈辱の顔を隠す翼を 君が剥がしてくれた"となるので、この歌唱はある種の天使性の表現でしょうかね。そしてこれを受ける言葉は、"I was so ashamed"。"恥"を知ったゆえか、賑やかだったオケは鳴りをひそめて内省的なものへとシフトします。
そして懺悔の第三スタンザ("The mushrooms spoke"~)へ。先に絶賛したセクションですが、ここでもやはりmomocashewのフルーエンシーが素晴らしく、とてつもないほどの'eargasm'を覚えます。たとえば"feeling/sorry for myself"の消え入りそうな感じや、"Trampled, used, and dumped/Got no pride to push them down"の韻律の良さなどは、この旋律にはこの言葉しかないと思えるほどに完璧だと絶賛したいですし、"suffering/As I go"や"have I/Have I"の部分に顕著な、行を跨いて次の音へとなだれ込むシームレスさも大好物です。単語単位では"hierarchy"の発音がめちゃくちゃツボで、ドイツ語の発音に近い「ヒエラルキー」に馴染んでしまっている日本人としては、英語の響きのほうはより新鮮に聴こえます。主に発音を褒める形になってしまいましたが、要はこのセクションはメロディが美し過ぎると言いたいのです。
続く第四スタンザ("I gave"~)は、本曲の中で最もキャッチーな部分だと思うので、ここはストレートな格好良さを称賛します。作り込みの深い第三スタンザの直後なので、ここでこの手の陽性のメロディが出てくることが一層意外に感じられ、対比がとても上手だなと言うほかありません。第二スタンザの冒頭で「このまま逸るビートで展開していくのかと思いきや」と書きましたが、曲調の共通性からして第四は第一から続いていると解釈しているので(第二と第三は回想録的に挿入されたと理解)、これは各セクションが有機的に絡み合っていていることの証左であると主張します。これは先述の「基本と応用」の話にも関係することで、ひいては本曲を気に入った動機とも言えるものです。
ここまでにも部分的には歌詞内容にふれてきましたが、始めから終わりまでをきちんと読み解こうと思ったら、ここから更に小説の書評に相当するほどの文章が続くことになると思うので、それほどまでに解釈のしがいがある歌詞を有しているということだけを伝えるにとどめます。
軽く調べたところ、Miliは歌詞に考察班が出てくるタイプのアーティストのようなので、ネットを漁ればコアなリスナーによる解釈を読むことが出来るでしょう。他の曲との関連性やイラストに描かれていることまで考慮しなければならないので、僕は未だ下手なことを書けないなと自重した次第です。
しかしこの一点だけはふれておいたほうがいい気がしたので最後に言及しますと、これだけ精緻な楽曲でありながら、クロージングは「マッシュ」の連呼というコミカルさで、その崩し方も含めてやはりハイセンスだなと感心しました。このパートは歌詞カードの表記も面白く、"=======D"でキノコを表現するチャレンジ精神にも感服の至りです。
