今日の一曲!Lotus「Fortune Favors」 | A Flood of Music

今日の一曲!Lotus「Fortune Favors」

 今回の「今日の一曲!」も、令和の大改訂との連動更新です。直近に大改訂を施したのは、「Lotus ―エレクトロニックジャムバンドについて―」という記事で、大規模な加筆修正を行いました。このおかげでLotusの音楽を語りたい欲が高まってしまったため、本記事で自ら延長戦に臨みます。笑


Frames Per SecondFrames Per Second
1,500円
Amazon


 ここで取り上げる一曲は、去年の暮れにリリースされた新作『Frames Per Second』(2018)から、「Fortune Favors」です。同盤最大のお気に入りは「Cosmosis」ですが、同曲は上掲の記事で既にレビュー済なので、次点のフェイバリットナンバーを紹介します。




 ※ 動画内では0:29~が当該曲です。ただし、以下に表示するタイムは音源準拠です。


 熱砂のビジョンが浮かぶような、ジリジリとしたサウンドスケープが展開される序盤。パーカスとベースにも、確かな異国情緒が感じられます。0:29~のパッドはやや涼しげな音色ですが、0:45~の主旋律を奏でるキーボードの音作りは少しノイズ混じりで、やはり何処か砂塵のザラつきを連想させる仕上がりです。1:38~のギターで更に気温が上昇し、灼熱の太陽が幻視出来ます。

 このまま体力を奪われていく一方かと思いきや、2:12~のキラキラとしたシーケンスフレーズで楽曲が俄に勢い付き、この瑞々しさは宛ら、死地で何か希望につながるものを見つけた時の煌めきのようです。文脈的には「水」が据りのいい解でしょうが、個人的には「運命の女」の線もあると踏んでいます。そこから「ファム・ファタール → マタ・ハリ」と連想していけば、彼女が纏うベリーダンサー風の衣装に意識がいき、その文化がサウンドから思い浮かべた地域と合致しませんでしょうか。…まあ実際に彼女と関わりが深い場所はインドネシアであるため、この連想はイメージ上での話と受け取っていただければ幸いです(先に「ベリーダンサー風」と書いたのもこのため)。ただ、調べると'Mata Hari'はマレー語で「太陽」を意味するそうなので、その点から結び付けたのだと後付けします。笑


 音しか手掛かりがないインストナンバーから受ける印象を書いているとはいえ、上記のレビュー文はかなり妄想力を働かせた結果の産物であるのは自覚済みです。しかし、僕がこの解釈を披露した真の理由は、後の2:45~の展開にあります。ここからスタートするのはシンセソロで、そのメロディラインのエキゾチックさ或いはオリエンタルさから、東洋的な容姿の女性による舞踊を思い浮かべずにはいられなかったのです。ここに更に日本人的な感想を付け加えるならば、音遣いと併せて考えると筝曲らしく聴こえるのも文字通り琴線にふれ、とりわけ3:19~の旋律には和のエッセンスが窺える気がします。このDNAに訴えかけてくる盛り上がりこそが、僕が本曲を甚く気に入っている理由です。

【追記:2020.10.16】 後に更新した記事の中で本曲の言わば元ネタにふれたので、本記事と併せてお楽しみください。【追記ここまで】

 最後に曲名にふれますと、おそらく元ネタは'Fortune favors/favours the bold/brave'というラテン語による諺の英訳で、日本語では「幸運は勇者に味方する」的な意味になります。映画『ボヘミアン・ラプソディー』にも出てくるフレーズなので、ご存知の方も多いでしょう。この言葉の詳しい文化的背景は、英語版のWikipediaで知った以上のことはわかりかねますが、古くから現代に至るまで廃れずに、多くの文化圏に波及するだけの訴求力はあるようです。この点まで考慮すると解釈の余地が更に広がり、僕の理解は全く違うかもしれないと不安になってくるものの、そこも含めてインストの面白さであると、まさに勇気を持って声高に主張したいと思います。