曲名の意味はラブ+ロボトミー?m-flo loves 安室奈美恵「Luvotomy」感想 歌詞 | A Flood of Music

今日の一曲!m-flo loves 安室奈美恵「Luvotomy」

 「今日の一曲!」はm-flo loves 安室奈美恵の「Luvotomy」(2007)です。5thアルバム『COSMICOLOR』収録曲。

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 僕にしては珍しく、時流の音楽ネタに便乗した選曲をしてみました。知っての通り、アーティスト・安室奈美恵は2018年の9月16日をもって芸能界から引退することを予てから宣言しており、本日が遂にその日です。TVやネットでも特番や特集が組まれているので、この連休中は彼女の楽曲を耳にする機会も多かったことでしょう。

 僕は声高にファンだとは言えない立場ですが、世代ですしミーハーレベルでなら彼女の楽曲には馴染みがあると言えます。小学生の頃には14thシングル曲「toi et moi」(1999)をポケモンの映画の影響で気に入っていましたし、17thシングル曲の「NEVER END」(2000)も九州・沖縄サミットの一大イベント感に中てられたせいもあってかよく聴いていました。CDとして所持しているのはこの2枚ぐらいですが、数々の有名曲は当然のように口遊めますし、友達に熱狂的なファンが居たこともあって、引退に関しては寂しい気持ちを覚えます。

 この思いを少しでも外に出すべく筆を執る決意をしましたが、素直に彼女の楽曲をレビューするには聴き込みが浅いので、変化球としてm-floとのコラボナンバーにフォーカスすることにしました。m-floについてはきちんとファンだと言えますし、過去記事がTRIPOD期(第一次LISA在籍時)の楽曲を扱ったものしかないのも気になっていたので、今回はLOVES期まで時を進めます。



 YouTubeの公式チャンネルに音源が丸々アップされていたので埋め込み。

 m-floのキャリアは現時点では大きく4つの「期」に分けることが出来、その都度音楽性にも変化が見られるアーティストですが、ゲストボーカルを次々と招いて多彩なアウトプットを披露していたLOVES期の音が僕は最も好きなので、「Luvotomy」もその中のひとつとしてお気に入りのトラックです。

 矛盾するようなことを言いますが、LOVES期の音楽は「決まった型がない」という自由さこそが特徴だと捉えていて、世界観の提示が完璧で緻密なサウンドを誇っていたTRIPOD期と、EDMやシーンに迎合してフロア志向が強くなった2011年以降の音楽性との過渡期にあって、双方のいいとこ取りをしたと表現したくなるような、複雑性と単純性の絶妙な融合こそがLOVES期の魅力だったと考えています。

 本曲は安室奈美恵のナンバーにかなり寄せたつくりだなとは思いますが、期待通りに彼女を立てていると考えればこの上ない正解だと言えるでしょう。単複性の話に絡めるのであれば、メロディラインのキャッチーさと怪しい雰囲気のトラックメイキングがシンプルな魅力を、ワブリー或いはノイジーな音遣いとヒリヒリした男女関係を描いた歌詞内容から受けるサグい印象が翻ってインテリジェンスを(危険な駆け引き的な意味で)、それぞれ放っていると感じます。


 通時的に楽想を見ていくと、徐々にカオティックになっていく展開が怒りや不信の増大を表しているようで巧いです。シンプルなリピートをバックにしたAメロは、コケティッシュなボーカルと泣きのメロディによって可愛さと切なさが同時に醸されていて、未だ可憐な女性像が見えますが、Bメロに入るとブリブリしたベースが断続的に顔を覗かせ、ボーカルにも力強さが出てくるため、歌詞にある"このままだと my brain 壊れそう!"の通り、暴発寸前の緊張感に満ちた趣へとシフトしていきます。

 そしてラップセクションへ。ベースはぐにゃりと歪み、後半からはチップチューンじみたチープな音も登場し、思考法や会議の用語としてではない文字通りのブレインストーミングを思わせるアレンジです。"君"からのブレインウォッシュを解くための工程と表現すれば、歌詞内容的にも据りがいいでしょうか。曲名の「Luvotomy」はおそらく'love + lobotomy'の造語だと思うので、「脳」が重要なモチーフなのだろうと推測可能です。

 サビには上掲のプロセスを経て悟りの境地に至ったかのような突き抜け感があります。バウンシーなリズムとキャッチーなメロディと巧みなフロウによる勢いの良さは、このような感情に裏打ちされていると解釈しました。"絵に描いたような/LOVE... なんてない、It's a LIE, 一人で FIND IT"に、"あやつられるのはもうイヤ OH-OH!"ですから、被虐からの脱出を決意したと読み取れますよね。情緒を含ませずにリアルな問題として認識するなら、DVやモラハラなどの言葉が出てくる場面でしょう。

 2番サビ後のラップセクションの歌詞、"なんか、言われてること無茶苦茶/Can't do that, that's too wack/Cancel that, THAT! THAT!"は、まさに現状への気付きと自己意識の芽生えを表した一節に映りますが、VERBALのリリックはアドバイザーとして本曲の主人公に寄り添っているのかなという気がしますね。