To see the future / レン(楠木ともり) | A Flood of Music

To see the future / レン(楠木ともり)

 レン(楠木ともり)による楽曲「To see the future」のレビュー・感想です。この曲は現在放送中のTVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』(以降『GGO』と表記)のED主題歌となっています。

To see the futureTo see the future
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 AmazonリンクはCDのものを貼りましたが、僕は配信で表題曲だけを購入したので、レビューも楽曲単独のものとなります。とはいえ、元々c/w曲が存在しないディスクのようなので(同曲の「Instrumental」と「TV size」バージョンのみ)、『GGO』ノンクレジットEDムービー収録のBDが無い以外は(=楽曲レビューに限れば)、フィジカルリリースのものとレビュー内容に大差はないはずです




 『GGO』は『ソードアート・オンライン』(以降『SAO』と表記)のスピンオフ作品ですが、今期アニメの中では結構楽しんで観ている部類に入ります。流石『キノの旅』でお馴染みの時雨沢恵一さんが原作なだけはあるという感想です。

 勿論『SAO』世界観の下敷きがあってこそだとは思いますが、『SAO』のアニメでも特に面白く観られたのは「ファントム・バレット編」だったので、舞台(VRゲーム)が共通の『GGO』も嫌いなわけがないというか、基本的に銃でドンパチする作品が好きなのだと思います。というか今回調べて知ったのですが、PB編にも時雨沢さんが監修に入っていたんですね。道理で。

 『SAO』アニメ本放送時はアニメ趣味から離れていたので(2016年の1期再放送と現在も続いている2期再放送での後追い組です)、当時の盛り上がりの程についてはよく知らないのですが、若い人を中心に絶大な人気を誇っている作品だというイメージです。一方でアンチも多い印象ですが、それだけ存在感の強い作品だということでしょう。


 話を『GGO』に戻して、銃火器やFPS要素以外の部分に言及すると、主人公のレンというか小比類巻香蓮のキャラクターがいいと思います。高身長をコンプレックスにしている女子というだけでも個人的には好感触ですが、ゲームのアバターに変身願望(小さい・可愛い)を反映させているといういじらしさが余計にキュートです。結果的にその特性を戦闘にも活かしているので、動機とのアンバランスさに係る点も魅力的に思えます。

 キャラクター掘り下げの流れでそのまま楽曲レビューへと入りますが、「To see the future」の歌詞はそんなレン/香蓮の心情をストレートに反映させたものとなっています。


01. To see the future



 "窮屈なリアル 息がつまる/逃げられない 毎日"と、現実に対する拒絶からスタートしますが、"キミに触れ"たことで意識に変化が起こり、"なりたい自分も なれない自分も/必要とされるなら/力になる 生きてゆける"と、ネガティブな面も含めて自己を肯定出来るようになるというのは、成長と言うほかないですよね。

 この場合の"キミ"には勿論具体的な誰かを想定してもいいのですが、VRゲーム自体というかバーチャル世界そのものを据えても自然な解釈が出来るところが好きです。もっと言えばこの"キミ"は別に何でもよくて、ラスサビの歌詞にもあるように、"明日へ導く"ものであればたとえゲーム(虚構)だろうと無駄ではないという、物語作品として見た場合の『SAO』の根元的・本質的な部分にまでふれているのを素敵に思います。

 この感覚を端的に表しているのが、サビの"明けない夜は ないよ ないよ/だから You say “Good night“"という一節で、虚構に入り浸ってリアルの時間軸から弾き出されるのではなく、現実で明日を迎えるために"おやすみ"と言う…と、絶妙な距離感で両世界を行き来しようとするスタンスが、非常に尊いものに映りますね。

 歌詞の全編を通して言えることですが、小難しい表現は使わずにシンプルな言葉だけで、キャラクターの心理と作品の機微を描くのみならず、現実に生きる我々を優しく励ますような内容にもなっているところがお気に入りです。


 続いてはアレンジとメロディについて。僕は普段からどちらかと言えば小難しい歌詞を好む傾向があるので、シンプルな歌詞が陳腐にならずに普遍的なものとして心に響くかどうかは、作編曲によるところも大きいという認識でいます。

 作編曲というか作詞も含めて、「To see the future」はJazzin’park(久保田真悟 & 栗原暁)によるトラックです。アーティスト自身による楽曲は恥ずかしながら一曲も知りませんでしたが、共作であればRIP SLYMEとRAM RIDERの楽曲にて聴いたことのあるクリエイターでした。クラブ系が得意なのかなという印象で、本作でも主にビートメイキングにそちら方面の手法が取り入れられている感じがしますね。要するに大好物のサウンドです。


 メロとしてはやはりサビ冒頭、歌詞セクションでもふれた"明けない夜"~"“Good night“"までの疾走感が素晴らしい思います。歌詞と旋律の寄り添い方が完璧と言いましょうか、メロに引き摺られて言葉が出てきたのかと思えるほどのナチュラルさ加減が美しいです。この旋律がひとつのサビに一度しか出てこない(2回目は"僕ら導くから"の部分が違う)という儚さも好きで、安易な繰り返しのせいでキャッチーさが鼻につくようなタイプでないところも高ポイント。

 サビに入るまでにメロが3種類(Cメロまで)提示されているところも技巧的で好みです(人によってはCまでカウントしないかもしれませんが、僕は"或いは誰かに"からをB、"なりたい自分も"からをCだと捉えています)。というのも、B終わりの"キミに触れた"の後にサビメロに移行したとしても不自然ではない構成になっていると感じたので、「ここでサビに入らないのか」もしくは「ここにCメロが来るのか」といった驚きがあったからです("或いは誰かに"の部分をA後半と解釈する場合は、「ここまでがAメロだったのか」という感想に置き換えてください)


 ダブステップほどではないにせよワブリーなアレンジの大サビ(アルファベット式ならDメロ)もきちんとあり、ピアノとクラップ(とハープ?)が心地好い落ちサビを経て、戻って来たキックと共に"future"がエコー&フェードしていくアウトロ、ベタと言えばベタですが嫌いじゃない展開ですね。




 以上、「To see the future」のレビューでした。一曲のみを取り上げたのでまとめも何もないのですが、この記事の最後にもちょこっと書いた通り、『GGO』はED曲だけでなくOP曲(藍井エイル「流星」)もかなりのツボだったので、主題歌に恵まれた作品だと思うという感想でもって締めることにします。