今日の一曲!スピッツ「ハートが帰らない」 | A Flood of Music

今日の一曲!スピッツ「ハートが帰らない」

 【追記:2021.1.4】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:春|卒業/別離】の第七弾です。【追記ここまで】

 「今日の一曲!」はスピッツの「ハートが帰らない」です。9thアルバム『ハヤブサ』(2000)収録曲。

 スピッツで春の歌と言えば、まんま「春の歌」(2005)がありますし、同じくストレートなところでは「ただ春を待つ」(1998)も挙げられますね。歌詞にまで目を向けるともっと候補が多くなりますし、「春」という言葉が直接出てこなくとも、春の生物や自然がモチーフとなっている場合もあるので、何を紹介するか迷いました。

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 そんな中から選んだ一曲が「ハートが帰らない」です。歌詞に直接"春"が登場するタイプで、他にも"霧が晴れたら"(=春霞)や"また眠るよ"(=春眠)と、「春」を連想させるフレーズが登場するところを評価しました。

 しかし、選曲の最大の理由はサウンドの方にあります。アルバムの前曲にあたる「宇宙虫」のアウトロから途切れずに繋がる形のゆったりとした立ち上がりに、五島良子さんとのデュエットが心地好いヴァース部分、その落ち着きが俄に破られ一転激しさを見せ始めるコーラスパートと、動静の切り替えが巧みなところが、春の持つ優しさと厳しさの二面性を華麗に描き出しているようで非常に好みだからです。

 楽想の都合上ヴァース-コーラス形式で表記しましたが、バッキングボーカルとしてのコーラスにも言及したいので、以降はV-C形式の方をわかりやすくAメロ-サビに置き換えます。


 この曲で最も気に入っているのは「動」の部分、つまり感情的なサビです。メロそのものにも激しさが宿っているとは思いますが、それを草野さんの力強い歌声(=Aメロとの差別化)と、主旋律を補足するような(=バッキング以上の機能性を備えた)五島さんのコーラスが一層勢い付けているので、"ハートが帰らない"という歌詞の悲痛さが際立っています。加えて、ベースの格好良さにも特筆性があると言え、メロディアスなフレージングになっているところが、サビに疾走感を与えているという印象です。

 一方「静」にあたるAメロ部では、ラストの遣る瀬無い雰囲気がとても心に響きます。"また眠るよ ああ もう少しだけ"の消え入りそうな感じは、二度と"君"は会えないんだろうなということを想像させるには充分です。"都合良すぎる 筋書き浮かべながら"や、"いきがるだけで 中途半端な俺"などの自虐的な表現も、男の未練がましさを上手く切り取っていて流石。

 歌詞の流れで続けて書きますが、"優しい人よ 霧が晴れたら二人でジュースでも"という一節が特に好きです。ここで"ジュース"をチョイスするのが子供っぽくていいというか、極力下心を隠そうとしているかのような、プラトニックな趣を感じさせる語彙選択だと思います。