Beaucoup Fish (2017 Reissue) / Underworld Pt.2 | A Flood of Music

Beaucoup Fish (2017 Reissue) / Underworld Pt.2

【お知らせ:2019.11.21】令和の大改訂の一環で、本記事に対する全体的な改訂を行いました。この影響で、後年にアップした記事へのリンクや、本作がリリースされた後に得た情報も含む内容となっています。


 本記事は「Beaucoup Fish (2017 Reissue) / Underworld Pt.1」の続きです。取り扱い中の作品はUnderworldのリイシュー盤『Beaucoup Fish (2017 Reissue)』(2017)で、4枚組の「4CD Super Deluxe Edition」のうち、リマスター盤にあたるDISC 1のレビューはPart.1にて済ませたので、ここでは残りのDISC 2~4を見ていきます。ただし、収録されている全29曲を詳細に紹介するとかなりヘビーな内容になってしまうため、宣言通り比較的ライトに仕上げました。例外はありますが、一曲あたり二・三行でお送りします。

 留意してほしいのは二点で、ひとつはPart.1を読んでいないとわかりにくい記述があること、もうひとつは以降に頻出する「オリジナル」という語の意味です。これはDISC 1に収録されている各曲を指すと理解していただければ結構で、リミックスに言及している文脈下ではわざわざ注釈をつける必要もないのですが、未発表曲に関してはおそらくデモバージョン的なものも含まれているため、それらと混同されるのを防ぐ意図があります。


DISC 2 Unreleased and Rarities

 DISC 2はディスクタイトルそのまま、未発表曲&レアトラック集です。本盤が初出となる楽曲は勿論、オリジナルのバージョン違いや、シングルにしか収録されていなかった曲などが収められています。


01. Nifter (5 A1317 Nov 97)

 やや暗めの雰囲気を纏った楽曲。バックトラックは非常にストイックで、殆ど展開しません。その隙間を埋めるように、カールの陶酔的なボーカルが浸透していきます。

 
02. Bruce Lee (Ricks 1st Dobro Mix)

 全体的な質感はオリジナルに近いミックスですが、曲として凝っているのはこちらとの認識です。ここから装飾を削ぎ落しボーカルとスクラッチを際立たせて、よりヒップホップ要素を前面に押し出したものが最終形となったのではないでしょうか。ギターが醸しているカントリーっぽさがお気に入りです。


03. UW Orange Bed (Sept97)

 「Cups」終盤の元となったアイデアトラックのように聴こえます。ここからあの名アレンジに発展させたのだとしたら、練る作業がいかに大切かを痛感する次第です。


04. Skym (A A1317 Nov 97)

 デモバージョンといった趣。オリジナルより軽い聴き味で、これまた発展の妙を意識出来ます。


05. Jumbo (Diff Bass 2 A1317 Nov 97)

 曲名の「Diff Bass」がベースラインの差異に言及するものであるならば、それにも納得の不明瞭さでもってオリジナルとは異なる印象を受けます。ボイスサンプリングの違いも耳に残る。


06. Push Upstairs (Alt 1 A1336 July 98)

 本曲もデモバージョン的で、特徴的なピアノの不在によって物足りなく感じます。しかし、2:53からの展開はオリジナルにない新鮮なもので良かったです。


07. King Of Snake (Garage Mix A1313 Set 97b)

 3分半過ぎまでボーカルが出てこないため、初めはインストバージョンなのかと思ってしまいました。オリジナルに比べるとバックトラックはシンプルで、ファンキーな風味が若干強い気がします。ボーカルもよりラップ的で、フロウの良さが心地好いです。


08. Something Like A Mama (Alt Mix A1340 July 98 A Upstairs)



 オリジナルにない不穏な音が挿入されてはいるものの、あまり大差がないなと油断していたら、1:11からの楽想にやられました。独特なリズムを刻むようにチョップされた、歪んだ音が奏でているグルーヴが至高。タイミングこそ違えど、目まぐるしくボーカルの質が変わる要素も健在で文句がありません。

 アンビエントなパッドと何処か恐ろしげなボイスが支配する中盤のセクションも、オリジナルとはまた別種の不気味さがあってはっとさせられますし、俄にビートが復帰して忙しくなるアレンジも高評価です。後半はこの静と動の繰り返しで、オリジナルより3分以上長くなっていますが、本曲が最終形だったとしても納得というくらいにはツボでした。


09. Please Help Me

 シングル『Push Upstairs』(1999)のB面トラック。基本的には静かな楽曲で、遠方で流れる水音のような微かなサウンドスケープと、神聖性のあるリバーブ処理が施されたカールの歌声にイヤガズムを覚えます。個人的にはこのまま落ち着いた路線でいてほしかったのですが、次第にビートが存在感を顕にして激しい一面が顔を覗かせる展開を見せ、このギャップもまた本曲の特徴です。


10. Yeah Plan (From A1385)

 時系列が前後する不自然な指摘をしますが、『Oblivion with Bells』(2007)のボツ曲っぽいと感じてしまいました。単純なベースリフの気持ち良さと、時折挿入されるシンセの曖昧な輪郭に癒しがあります。


11. Ramajama



 ブートレグ盤『Glastonbury 99 Live Remix.』(1999?)もしくは『Exit, Entrance』(2000)には収録されていたようですが、正規のリリースとしては本作にて初登場となるはずです。曲名が何のことかはさっぱりで、区切って「Rama Jama's」なるレストランの存在は確認しましたが、ともかく「ラマジャマ」という音から連想可能なイメージを有した楽曲であるのは間違いありません。トライバルなリズムセクションと気怠いボーカルのコンビネーションに、異国情緒や民族的なエッセンスを感じたという意味で。

 しかし、中盤から登場するシンセの音には正反対の近未来感があり、いつの間にやら洗練されたダンスチューンの向きが優勢となります。6:11からの新しい展開も非常に格好良く、隠れた名曲であると評したいです。幾度か挿入される、ハイピッチなサンプルボイスも地味に好み。



 以上、DISC 2の全11曲でした。文章量がそのままお気に入り具合を反映しており、08.と11.が殊更にフェイバリットなトラックです。



DISC 3 Remixed - Part 1

 DISC 3および4もディスクタイトルそのままで、他アーティストによるUnderworld楽曲のリミックス集です。プロモーション盤も含めてシングルまで揃えている人にとっては、基本的に既出トラックを集めただけの盤となります(「基本的に」の意味は後述)。

 リミックスを担当した人ないしグループの名前が曲名に入っている場合には特記しませんでしたが、わかりにくいものに関してはリミキサーの名前を別途掲載しておきました。初出の情報も一応は提示していますが、何処の国のどのレーベルから出たものなのかについての詳細は、各自でDiscogsか英語版のWikipediaをご覧いただければと思います。


01. Cups (Salt City Orchestra Remix)

 シングル『Bruce Lee』(1999)に収録されていた「Cups (Salt City Orchestra's Vertical Bacon Vocal)」と同一のトラックです。オリジナルにあった複雑さを取っ払って、敢えてキャッチーに仕立てた印象を受けます。イントロの美麗さも中々に好みです。


02. Jumbo (Jedi's Sugar Hit Mix)



 リミキサーはJedi Knightsで、シングル『Jumbo』(1999)に収録されていた際の曲名は、アポストロフィのない「Jedis~」でした。オリジナルの持つ自然派のイメージから脱却し、文明に染まってしまったかのようなリミックスですが、これはこれでダンサブルで良いとの認識です。


03. Jumbo (Futureshock Vocal Mix)

 同じく『Jumbo』収録の「Jumbo (Future Shock World Apart Mix)」と同じものだと思われますが、本作に収録されているほうが収録時間が長いので、もしかしたら初出のトラックかもしれません。ナチュラル感を捨てている点では02.と共通ながら、こちらは後世の用語を使えばよりEDMらしいリミックスだと言えます。


04. Push Upstairs (Darren Price Remix)

 シングル『Push Upstairs』に収録されていた、お馴染みのプライシーによるワークスです。Underworldへの理解度は誰よりも高いであろう彼だからこその、オリジナルを活かしたリミックスとなっています。といつつ、後半にはかなりの遊びが見られますけどね。


05. King Of Snake (Slam Remix)

 収録シングルは『King of Snake』(1999)。ボーカルトラックにはあまり手を加えずに、ストイックなアレンジで仕上げています。勢いこそ削がれていますが、このじわじわと盛り上がる感じも悪くはありません。


06. King Of Snake (Fatboy Slim Remix)

 お次も『King of Snake』収録のトラックで、Norman Cookらしいアグレッシブなリミックスです。オリジナルのEngrishパートを冒頭に持ってくるセンスも、実に「っぽい」気がします。笑


07. King Of Snake (Dave Clarke Remix)

 『King of Snake』収録曲三連発。カールのボーカルは使用せずに、オリジナルのピアノを強調したリミックスです。もう少しテンポを抑えてジャジーなテイストにしたら、よりベターだったのではと提案します。


08. Bruce Lee (Micronauts Remix)

 『Bruce Lee』収録の曲題から「The」が欠落していますが同一のトラックです。オリジナルにあった陽気さが消え失せてダーティに、且つ電子音楽志向となったリミックス。


09. Bruce Lee (Buffalo Daughter Remix)

 『Bruce Lee』からもう一曲。こちらもサグいアレンジが特徴的なリミックスながら、08.に比べるとサウンドがはっきりしているため、差別化は出来ているとの判断です。イントロと終盤に登場する、変に浮いたギターの明るさが奇妙。



DISC 4 Remixed - Part 2

 全体評は後でまとめて記すので、続けてDISC 4を見ていきます。「Pt.1」の記事の前置きには「3/4が既出曲を纏めただけのプロダクト」と、本記事のDISC 3の説明でも「基本的に既出トラックを集めただけの盤」と書いておいて何ですが、ことDISC 4に限っては(厳密にはDISC 3の03.も含めて)、新出のリミックスも収録されているかもしれないと注記させてください。

 DiscogsやWikipediaを見る限りということなので断定はしないものの、以降に特記されていない場合は初出を他に探せなかった;即ち本作が初出だと判断したと受け取っていただきたく思います。DISC 3と4をあわせると既出のリミックスが大半になることには変わりがないため、文章の訂正はしないでおきますが、誤解を招く書き方になっている点をお詫びします。ひとつ言い訳を開示しますと、期間限定の配信だとか一部の界隈でのみ流通していた音源となると、情報を探すのも困難になるのです。DISC 3の説明でも存在を匂わせましたが、プロモ盤まで考慮の対象にいれていくと、ネット上に全ての情報が網羅されているとは限らなくなります。


01. Bruce Lee (Dj Hype & Dj Zinc Vocal Mix)

 垢抜けた「Bruce Lee」といった趣のリミックスです。イントロのワクワク感は結構好みですが、ビートメイキングの下品さがあまりツボではありませんでした。


02. Bruce Lee (Dj Hype & Dj Zinc Instrumental Mix)

 01.とペアになるトラックで、「Vocal」に対して「Instrumental」との位置付けなわけですが、単純にボーカルトラックだけをなくしたミックスではありません。前者で唯一評価していた高揚感のあるサウンドも出てこないので、残念というほかないです。


03. Bruce Lee (Futureshock Remix)

 DISC 3から続く「Bruce Lee」地獄のトリを飾るリミックスで、5曲の中でいちばん聴き易いのは本曲だと思います。個人的に最も気に入っているのはDISC 3の08.で、本曲も悪くはないとの認識ですが、8分も聴いていたくはないのが正直なところです。


04. King Of Snake (Claudio Coccoluto Remix)



 シングル『King of Snake』収録の「Coccoluto Remix」と同じものです。ボーカルトラックの弄り方がハイセンスですし、バックトラックもオリジナルにあったサウンドやフレーズを活かしつつ、お洒落に踊れる新鮮なアレンジに昇華されています。


05. King Of Snake (Martinez Remix)

 リミキサーはSavino Martinezで、おそらく『King of Snake』収録の「Martinez Orchestramix」と同じものです。ファンキーなベースラインを軸にしながら、段々と装飾が豪華になっていくという、これまたダンサブルなリミックス。


06. King Of Snake (Dave Angel Remix)

 『King of Snake』収録の「Dave Anegel Rework」を、少し変化させたもののように聴こえます。曲名も「Remix」と「Rework」で、微妙にニュアンスが異なりますしね。オリジナルにあまり手を加えていないリミックスで、耳に残るのは猿の鳴き声みたいな音の存在です。


07. Jumbo (Rob Rives & Francois Kevorkian Dub)

 両名による「Jumbo」のリミックスには、シングル『Jumbo』に収録されている「Prelude」と「Main Dish」の2パターンがありましたが、本曲はそのどちらでもありません。ベースラインのおかげで辛うじて「Jumbo」だとはわかるものの、オリジナルからはかなり遠退いて全く別の曲のようです。


08. Push Upstairs (Roger S Narcotic Haze Dub)

 リミキサーはRoger Sanchezで、シングル『Push Upstairs』の収録曲でした。オリジナルにあった攻撃性は和み、明るくてノリの良いリミックスとなっています。こちらは07.とは逆に、ボーカルトラックがなければ「Push Upstairs」だと気付けないでしょう。


09. Push Upstairs (Adam Beyer Rmx 2)

 本作もシングル『Push Upstairs』に収録されており(表記は「Remix 2」だったり「Mix 2」だったり区々)、「Rmx 1/Remix 1/Mix 1」とは別のリミックスです。両曲を同時に聴ける盤はなかったと記憶しているので、これはかなりコア向けの情報となります。大胆なアレンジが施されていますが、雰囲気の暗さと刺々しさは確かに「Push Upstaris」のそれです。



 以上、DISC 3と4をあわせた全18曲でした。シングルで既に聴いたことがあるものが殆どでしたが(プロモ盤も中古屋に流出するケースがあるため、一般人でも入手機会がゼロではないのです)、DISC 4の説明部でも述べたように初めて聴くリミックスもいくつかありました。似ているけれど微妙に違うといったものもあって混乱しているのですが、いちファンが調べられることには限界があります。

 とりわけ気に入っているリミックスは、視聴音源を埋め込んだDISC 3の02.とDISC 4の04.です。オリジナルとは異なるイメージを打ち出し、ボーカルトラックにも派手に手を加えている、そうはっきりとわかるほどに弄り倒しているものに大義を感じます。




 これでDISC1~4までの都合40曲、全てレビュー完了です。以下、ディスク毎に総評を載せて〆とします。

 DISC 1「Beaucoup Fish (Remastered Album)」に関しては、リマスタリングの恩恵は扨置くとして、他に類を見ない傑作であることを再認識出来たのが良かったです。プログレッシブな電子音楽の理想形は、本作によって90年代末の時点で既に完成していると言っても過言ではないと考えています。

 DISC 2「Unreleased and Rarities」については、過去のリイシュー盤で同じ役割を持っていたディスクと比べると、正直物足りないラインナップとの印象です。ただ、08.の素晴らしさには特筆性があり、同曲を聴けただけでも個人的には満足しています。加えて、11.もブートレグのみに埋もれてしまうには勿体のない良曲ゆえ、こうして日の目を見たことが嬉しいです。

 DISC 3および4「Remixed」に対しては、ネガティブなリアクションが優位で、そもそもリミックス集に二枚もディスクを割いていること自体をあまり歓迎していません。内容も微妙で、18曲もある割には際立ったリミックスが少ないとの感想です。寧ろこうしてまとめられたせいで損をしていると捉えており、シングルのB面にひっそりと存在しているものを数曲ずつ聴いたほうが、各曲が割を食わなかったと思います。


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