
かなしいうれしい / フレデリック
フレデリックの2ndシングル『かなしいうれしい』のレビュー・感想です。現在放送中のTVアニメ『恋と嘘』のOP曲が収録されています。普段ならブログテーマ「アニソン」にて紹介したいところですが、一般バンドによるタイアップという面が強いと思うのでアニソン扱いは避けました。
かなしいうれしい 通常盤/A-Sketch

¥1,296
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また、フレデリックの作品を買うのは本作が初のにわか未満なので単独テーマを作るわけにもいかず、便宜上「その他」に分類しています。先に書いてしまいますがバンド自体をとても気に入ったので、過去作を揃え次第単独テーマにしれっと切り替える予定です。
【追記2017.09.04 切り替えました】
補足として、「アニソン扱いは避けた」と言っても『SPICE』にあったインタビューを読む限り、「かなしいうれしい」はアニメのために書き下ろされた曲のようなのでアニメの内容にも適宜ふれていこうと思います。なお、以降に出てくる「インタビュー」もこれを指します。
アニメも扱うということでいきなり脱線から入ることをお詫びしますが、今期(2017年夏)スタートのアニメ主題歌の中でCDを買おうとまで思えた曲はこの「かなしいうれしい」だけだった…という残念なお知らせから話を始めます。以降のディス表現には勿論「個人的には」と枕詞が付きますよ。
アニメ放映のワンクール全体を指してその出来/不出来を形容するのに豊作/不作という表現がよく使われますが、ことアニソンに限って言えば今期は不作だと思います。『戦姫絶唱シンフォギアAXZ』があるのは救いですが、シリーズの音楽自体が好き且つ4期目という積み重ねがあるのでここでは例外扱いです。
ブログテーマ「アニソン」にある新譜レビューを遡ってもらえればわかると思いますが、ワンクールの中で単独記事を設けるに至った作品が1本だけというのは、結果的に不作と表現せざるを得ないなと。しかもそれが一般バンドの曲なのだから実質0本と言っていいかもしれない。
全体的なレベルは決して低くないと思うんですけどね。もう一声あれば…という曲なら結構ありました。一応誉め言葉なのですがこの流れで書くとディスってるみたいに映るのでぼかして書きますと、異世界グルメED・ゲーム会社OP・錯綜系OP・探窟家OP・女賭博EDあたりは好きです。
この記事で書くことではなかったかもしれませんが、ここ以外に適した場所がないのでお目汚し失礼致しました。逆説的には今回紹介する「かなしいうれしい」を高く評価していることの表れなのでご容赦願います。
ということでレビューに入りますが、先述の通りフレデリックの作品を買うのは…というか耳にすること自体本作が初なので、バンドの持ち味であるとか曲の傾向だとかいった突っ込んだ記述は出来ないということを予め断っておきます。あくまで本作から受ける印象のみで書きますね。
01. かなしいうれしい
TVアニメ『恋と嘘』OP曲。原作は未読ですがアニメは切らずに見続けています。特殊な状況下おける恋愛モノといった趣の作品で、最初はぶっちゃけこんな同人CG集にありそうな設定が根幹で大丈夫か?と思ったのですが、設定が飛んでいる分キャラは大事にしているということが伝わってくるので、意外と嫌いではありません。笑
少子化問題に喘ぐ日本人だからこそ思い付くような設定だという気がしますが、それを意識してか知らずか、この「かなしいうれしい」はとても日本的な楽曲だと言えると思います。主にビートについてなのですが、祭囃子のような雰囲気がありますよね。
イントロの時点でもうガツンとやられました。インタビューでもふれられている通り「ギターとシンセ(木琴)のユニゾン」なのですが、鍵盤打楽器の音特有の耳に突き刺さるキャッチーさでもって奏でられるオリエンタルなメロディには思わず身体が動いてしまいます。
OPの映像とあわせて「あっこれダンスチューンだわ」と予感させるのには充分で、非常に僕好みのツボを突かれた思いでした。メンバーにシンセ担当がいるわけではないようですが、ニューウェイヴ系のバンドが好きな自分としては、バンドサウンド以外の音も主軸に据えられていると評価がグンと高くなります。笑
シンセの良さはAメロでも発揮されています。"僕らの未来は"に追従する可愛らしいフレーズから、"どこに向かって光るの?"のバックで柔らかく開放される抜けの良い音への流れが堪らない。
そして改めて音源で聴いてはっきりしたのですがベースが格好良いですね。Aメロの頭がいちばん顕著なのでここで紹介してしまいますが全体的に素敵です。土台がしっかりしていないとダンスミュージックとしてはファジーなものになってしまいますからね。
続くBメロが一曲の中ではいちばん好きなパートです。イントロの祭囃子に満を持して謡(歌唱)が乗っかる構成ですが、ここで日本を感じずにはいられませんでした。とにかくドラムスとクラップによるビート構築が素晴らしい。
表題の"かなしい"と"うれしい"が登場するのもここですが、漢字ではなくひらがなにしているのにも曲調に寄り添ったこだわりが見える気がします。また、メロディの面では"揺さぶられては"の"は"の曖昧さがツボです。
OP映像としてもここがいちばん可愛いのでお気に入り。最初はむしろ苦手な絵柄だと感じていたのに、割とすぐに気にならなくなったのは良かった。笑 "かなしい"に美咲が、"うれしい"に莉々奈が宛がわれているのがなんとも切ないですね。
サビはここまでのポップな印象と比べると、メロディにも流麗さが生まれちょっと艶っぽい雰囲気です。"このまま嘘でもいいから夢泳がせて"という一節は、登場人物たちが置かれている状況のことを想うと胸に来るものがあります。
コーラスワークも技巧的ですね。サビで醸されている浮遊感の根源はこれにあると思います。流石双子ボーカル(/コーラス)と言うべきなのか、不思議な寄り添い方をしているなと感じました。
あとはニッチなツボかもしれませんが、サビのメロディにそれまでに登場した旋律の一部が流用されている曲って好きなんですよね。この曲で言えば"正しい正しい"のところ(Bメロの一部流用)を指しているのですが、厳密に同じではなくても旋律間の相互作用が見られるようなメロディは楽典的に美しいと思います。
2番はBまででサビが登場せずCメロへ行きます。この構成に関するこだわりもインタビューの中で言及されていますが、2番でサビへ行かない曲というのは僕の中ではもはや一種の新しいテンプレという認識でして、そしてこれこそ最も綺麗な構成だと思っています。赤頭さんとツボが一緒。笑
基本的に2番のメロやアレンジに変化がない(乏しい)曲はつまらないと感じるので、この上なくわかりやすく変化を示す方法としてはうってつけなんですよね。この曲で示されている変化は、またもインタビューからの引用ですが「儚さ」へのシフト…というか強調です。
"さよなら"という別離の言葉にはぴったりの切ない様相を帯びるアレンジですが、"悲しいだけの僕らの話"と続くので、実は方向は前向きであったという二面性が巧いと思います。ここにもBメロの歌詞、"ふたつの感情に揺さぶられては"の想いが反映されているのではないでしょうか。
このように印象が変化するCですが、ギターでイントロ(Bメロ)のオリエンタルなフレーズがプレイされるので、遠くから再び祭囃子が聴こえてきた時のような期待と懐かしさを覚えることが出来、なかなかにくい演出だなと思います。
ラスサビは最後の歌詞、"悲しい悲しい悲しいやっても 止まらない"がちょっとひっかかりました。悪いという意味ではなく僕には耳馴染のない表現だったので。神戸出身バンドなので西の方言ですかね?
誤解していたら、また用語の使い方がおかしかったら申し訳ないのですが、断定の助動詞「や」(≒東の「だ」)の過去中止形「やって」+接続助詞「も」でしょうか。つまり"悲しいやっても"は「悲しいけれども」的な意味…かな。厳密に言えば「悲しかったけれども」かもしれない。
アウトロでまたちょっと雰囲気が変わるのが面白いです。全体的にはコミカルな曲だと思うのですが、4:19~の締め方はお洒落で別の曲のよう。
02. シンクロック
wikipediaで曲名やライブタイトルを眺めるとすぐにわかりますが、こういう掛け言葉的というかある意味ダジャレのような題の付け方が好きなようですね。笑
イントロを聴いた時はダブ風味だなと思ったのですが、それはあくまでひとつの要素として使われているだけで、サビは疾走感のあるノリの良いロックチューンという趣ですし、間奏~Cメロにかけてはストイックな演奏がインテリジェンスを醸しているわで、なかなかプログレッシブだという印象です。
c/wですがA面に負けず劣らず格好良い曲ですね。バンド賛歌というか音楽の楽しさ自体を讃えている内容だと思いますが、ミュージシャン対リスナーの関係にフォーカスしたナンバーはファンであればあるほど嬉しくなるものでしょう。
その康司さんの音楽観、それ自体も愛おしいものだとわかる素敵な歌詞ですが、なにより表現がとても上手だなと思いました。きちんと生みの苦しみと不安についてふれられいるし、何よりサビの"例え"の的確さに唸らされました。非常に共感出来ます。
たとえば"例え時代が合わなくったって同じ涙を知っているんだろうから"は、音楽に限らず自分の世代ではない芸術に感動した時なんかに顕著に感じられる思いではないでしょうか。時代が違えど同じ人間が創ったのだなとわかる普遍性の発見には喜びを伴いますよね。
"例えあなたの時計止まってもまた会えると信じて止まないから"も巧いですね。長く活動を続けていると当然ミュージシャンもリスナーも変化していくものなので、どうしても親近と疎遠を繰り返してしまうという側面は確かにあると思います。それでもせめて提供側がドーンと構えていてくれると安心できますもんね。
03. まちがいさがしの国
c/w2曲目はかなりストレートなシニカルソングです。こういう曲にありがち…と言ったら失礼ですが、ブラックっぽいというか自分が編曲者だったらブラスセクションをぶち込みたくなる類のロック。
この曲ではその+αの役目はシンセと女性ボーカルのコーラスが担っていますね。うん、そのアレンジもよくわかります。こういう世相を切るような内容の曲にはこういう感じが…仮にこれを場末感と呼称しますが、荒んだ空気と大人びた雰囲気の編曲がよく馴染みます。
歌詞で特に好きなところは、"意味がないなんてそんなことばっかり言ってる奴でてこい/知らないだけなのに それなのに"です。インタビューの記述を見ればこの曲がどういう人達に向けられているかということが具体的にわかりますが、先天性ヘイターとでも表現したくなるような人達っていますからね。理屈じゃないから取り合っても仕方がないレベルの。
04. リリリピート (Live at 新木場 STUDIO COAST)
タイトル通りのライブトラックです。オリジナルはアルバム『フレデリズム』(2016)に収録されています。とはいえ冒頭で書いた通りオリジナルは本作以外何も持っていないので、元との相違点だとかライブならではのアレンジだとかに詳しくは言及出来ません。YouTube音源との比較程度です。
ということで普通に楽曲のみをレビューしますが、イントロめちゃくちゃ格好良いですね。なにこの自分好みのダーティーな雰囲気。こういうタップダンスを思わせるクラップ(オーディエンスのではなくね)も大好きです。…と思ってYouTubeでオリジナルを聴いたらクラップがなかったので、素晴らしいライブアレンジと言わざるを得ない。
そこから放たれるメインメロディ自体はイントロから予想出来たものよりは明るかったのですが、素直に魅力的だと思いました。「リリリピート」という題に偽りなしで"繰り返し"や反復が多いのですが、促音がこれでもかとピタッとはまる跳ねたメロディがキャッチーで良いですね。
05. ナイトステップ (Live at 新木場 STUDIO COAST)
ライブトラック2本目。同じく『フレデリズム』からです。これも非常にクールなナンバーでバンドの高いポテンシャルを感じました。古いJ-POPらしさがあるというか、MVを観るにディスコの時代まで遡ったほうが適切だという雰囲気が醸されています。
この「古いJ-POPらしさ」或いは「ディスコの時代」ですが、どちらかと言えば女性ボーカルの感じだと思うんですよね。もっと踏み込んである意味80年代アイドル風に聴こえなくもない。
か細く・高く・少しだけザラついたタイプの声を持つ女性をツインでボーカルに据えて、打ち込みが目立つアレンジに変えて(ギターはそのままでいい)、当時の音圧を意識してあえて弱めにミックスとマスタリングをしてあげたら、アイドルソングとしてもいけるぐらいの可能性を秘めていると個人的には思います。笑
妄想甚だしくてすみませんがこれは最大限の賛辞のつもりです。度々書いていますが僕の好みのひとつに80年代アイドル歌謡があるので、この曲が持つピュアなセクシーさには驚かされました。こういう艶っぽい曲を歌える男性ボーカルのバンド自体は多く存在するイメージですが、それプラスこのポップセンスというのが稀有なんですよね。
以上、新曲3にライブトラック2の計5曲でした。もうレビューの内容からバレバレですが、非常に自分好みのツボばかりを的確に突いてくるバンドだと思いました。これはもう蒐集不可避のレベルなので、過去作に手を出すことは確定です。とりあえず『フレデリズム』から聴いてみます。
フレデリックのメンバーの年齢は僕より少しだけ下ですが、今のアラサー世代が自分が生まれるよりも前、あるいは生まれていたけど世代とは言えないような頃のカルチャーに惹かれるというストリームは確実に存在すると思います。とりわけ80'sは人気で、僕もそんな中のひとりです。
自分が好きだと漠然と感じていたものや新しいと感じていたものが、実は昔からそのまま存在していた(或いはルーツのようなものがあった)と、年齢と知識が積み重なることでわかってくるからというのが一因ではないでしょうか。
音楽に話を絞れば、作り手が最新の音を追わない場合、自分の嗜好のルーツとなるような世代の音(僕なら90's~ゼロ年代前半)を反映させるのが定石だと思いますが、そこから更に遡ってしまうような凝り性タイプのほうが面白い音楽を創造する地力も高いと思うんですよね。フレデリックはその好例のひとつだという印象です。Suchmosも人気ですしね。
親の影響やインターネットの発達に伴う音楽視聴環境の変化というのも無視出来ないファクターだと思いますが、とにかく古いものの良さを素直に認めて積極的に取り入れるという姿勢が、何においてもプラスなのだということを改めて実感しました。
かなしいうれしい 通常盤/A-Sketch

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アニメも扱うということでいきなり脱線から入ることをお詫びしますが、今期(2017年夏)スタートのアニメ主題歌の中でCDを買おうとまで思えた曲はこの「かなしいうれしい」だけだった…という残念なお知らせから話を始めます。以降のディス表現には勿論「個人的には」と枕詞が付きますよ。
アニメ放映のワンクール全体を指してその出来/不出来を形容するのに豊作/不作という表現がよく使われますが、ことアニソンに限って言えば今期は不作だと思います。『戦姫絶唱シンフォギアAXZ』があるのは救いですが、シリーズの音楽自体が好き且つ4期目という積み重ねがあるのでここでは例外扱いです。
ブログテーマ「アニソン」にある新譜レビューを遡ってもらえればわかると思いますが、ワンクールの中で単独記事を設けるに至った作品が1本だけというのは、結果的に不作と表現せざるを得ないなと。しかもそれが一般バンドの曲なのだから実質0本と言っていいかもしれない。
全体的なレベルは決して低くないと思うんですけどね。もう一声あれば…という曲なら結構ありました。一応誉め言葉なのですがこの流れで書くとディスってるみたいに映るのでぼかして書きますと、異世界グルメED・ゲーム会社OP・錯綜系OP・探窟家OP・女賭博EDあたりは好きです。
この記事で書くことではなかったかもしれませんが、ここ以外に適した場所がないのでお目汚し失礼致しました。逆説的には今回紹介する「かなしいうれしい」を高く評価していることの表れなのでご容赦願います。
ということでレビューに入りますが、先述の通りフレデリックの作品を買うのは…というか耳にすること自体本作が初なので、バンドの持ち味であるとか曲の傾向だとかいった突っ込んだ記述は出来ないということを予め断っておきます。あくまで本作から受ける印象のみで書きますね。
01. かなしいうれしい
TVアニメ『恋と嘘』OP曲。原作は未読ですがアニメは切らずに見続けています。特殊な状況下おける恋愛モノといった趣の作品で、最初はぶっちゃけこんな同人CG集にありそうな設定が根幹で大丈夫か?と思ったのですが、設定が飛んでいる分キャラは大事にしているということが伝わってくるので、意外と嫌いではありません。笑
少子化問題に喘ぐ日本人だからこそ思い付くような設定だという気がしますが、それを意識してか知らずか、この「かなしいうれしい」はとても日本的な楽曲だと言えると思います。主にビートについてなのですが、祭囃子のような雰囲気がありますよね。
イントロの時点でもうガツンとやられました。インタビューでもふれられている通り「ギターとシンセ(木琴)のユニゾン」なのですが、鍵盤打楽器の音特有の耳に突き刺さるキャッチーさでもって奏でられるオリエンタルなメロディには思わず身体が動いてしまいます。
OPの映像とあわせて「あっこれダンスチューンだわ」と予感させるのには充分で、非常に僕好みのツボを突かれた思いでした。メンバーにシンセ担当がいるわけではないようですが、ニューウェイヴ系のバンドが好きな自分としては、バンドサウンド以外の音も主軸に据えられていると評価がグンと高くなります。笑
シンセの良さはAメロでも発揮されています。"僕らの未来は"に追従する可愛らしいフレーズから、"どこに向かって光るの?"のバックで柔らかく開放される抜けの良い音への流れが堪らない。
そして改めて音源で聴いてはっきりしたのですがベースが格好良いですね。Aメロの頭がいちばん顕著なのでここで紹介してしまいますが全体的に素敵です。土台がしっかりしていないとダンスミュージックとしてはファジーなものになってしまいますからね。
続くBメロが一曲の中ではいちばん好きなパートです。イントロの祭囃子に満を持して謡(歌唱)が乗っかる構成ですが、ここで日本を感じずにはいられませんでした。とにかくドラムスとクラップによるビート構築が素晴らしい。
表題の"かなしい"と"うれしい"が登場するのもここですが、漢字ではなくひらがなにしているのにも曲調に寄り添ったこだわりが見える気がします。また、メロディの面では"揺さぶられては"の"は"の曖昧さがツボです。
OP映像としてもここがいちばん可愛いのでお気に入り。最初はむしろ苦手な絵柄だと感じていたのに、割とすぐに気にならなくなったのは良かった。笑 "かなしい"に美咲が、"うれしい"に莉々奈が宛がわれているのがなんとも切ないですね。
サビはここまでのポップな印象と比べると、メロディにも流麗さが生まれちょっと艶っぽい雰囲気です。"このまま嘘でもいいから夢泳がせて"という一節は、登場人物たちが置かれている状況のことを想うと胸に来るものがあります。
コーラスワークも技巧的ですね。サビで醸されている浮遊感の根源はこれにあると思います。流石双子ボーカル(/コーラス)と言うべきなのか、不思議な寄り添い方をしているなと感じました。
あとはニッチなツボかもしれませんが、サビのメロディにそれまでに登場した旋律の一部が流用されている曲って好きなんですよね。この曲で言えば"正しい正しい"のところ(Bメロの一部流用)を指しているのですが、厳密に同じではなくても旋律間の相互作用が見られるようなメロディは楽典的に美しいと思います。
2番はBまででサビが登場せずCメロへ行きます。この構成に関するこだわりもインタビューの中で言及されていますが、2番でサビへ行かない曲というのは僕の中ではもはや一種の新しいテンプレという認識でして、そしてこれこそ最も綺麗な構成だと思っています。赤頭さんとツボが一緒。笑
基本的に2番のメロやアレンジに変化がない(乏しい)曲はつまらないと感じるので、この上なくわかりやすく変化を示す方法としてはうってつけなんですよね。この曲で示されている変化は、またもインタビューからの引用ですが「儚さ」へのシフト…というか強調です。
"さよなら"という別離の言葉にはぴったりの切ない様相を帯びるアレンジですが、"悲しいだけの僕らの話"と続くので、実は方向は前向きであったという二面性が巧いと思います。ここにもBメロの歌詞、"ふたつの感情に揺さぶられては"の想いが反映されているのではないでしょうか。
このように印象が変化するCですが、ギターでイントロ(Bメロ)のオリエンタルなフレーズがプレイされるので、遠くから再び祭囃子が聴こえてきた時のような期待と懐かしさを覚えることが出来、なかなかにくい演出だなと思います。
ラスサビは最後の歌詞、"悲しい悲しい悲しいやっても 止まらない"がちょっとひっかかりました。悪いという意味ではなく僕には耳馴染のない表現だったので。神戸出身バンドなので西の方言ですかね?
誤解していたら、また用語の使い方がおかしかったら申し訳ないのですが、断定の助動詞「や」(≒東の「だ」)の過去中止形「やって」+接続助詞「も」でしょうか。つまり"悲しいやっても"は「悲しいけれども」的な意味…かな。厳密に言えば「悲しかったけれども」かもしれない。
アウトロでまたちょっと雰囲気が変わるのが面白いです。全体的にはコミカルな曲だと思うのですが、4:19~の締め方はお洒落で別の曲のよう。
02. シンクロック
wikipediaで曲名やライブタイトルを眺めるとすぐにわかりますが、こういう掛け言葉的というかある意味ダジャレのような題の付け方が好きなようですね。笑
イントロを聴いた時はダブ風味だなと思ったのですが、それはあくまでひとつの要素として使われているだけで、サビは疾走感のあるノリの良いロックチューンという趣ですし、間奏~Cメロにかけてはストイックな演奏がインテリジェンスを醸しているわで、なかなかプログレッシブだという印象です。
c/wですがA面に負けず劣らず格好良い曲ですね。バンド賛歌というか音楽の楽しさ自体を讃えている内容だと思いますが、ミュージシャン対リスナーの関係にフォーカスしたナンバーはファンであればあるほど嬉しくなるものでしょう。
その康司さんの音楽観、それ自体も愛おしいものだとわかる素敵な歌詞ですが、なにより表現がとても上手だなと思いました。きちんと生みの苦しみと不安についてふれられいるし、何よりサビの"例え"の的確さに唸らされました。非常に共感出来ます。
たとえば"例え時代が合わなくったって同じ涙を知っているんだろうから"は、音楽に限らず自分の世代ではない芸術に感動した時なんかに顕著に感じられる思いではないでしょうか。時代が違えど同じ人間が創ったのだなとわかる普遍性の発見には喜びを伴いますよね。
"例えあなたの時計止まってもまた会えると信じて止まないから"も巧いですね。長く活動を続けていると当然ミュージシャンもリスナーも変化していくものなので、どうしても親近と疎遠を繰り返してしまうという側面は確かにあると思います。それでもせめて提供側がドーンと構えていてくれると安心できますもんね。
03. まちがいさがしの国
c/w2曲目はかなりストレートなシニカルソングです。こういう曲にありがち…と言ったら失礼ですが、ブラックっぽいというか自分が編曲者だったらブラスセクションをぶち込みたくなる類のロック。
この曲ではその+αの役目はシンセと女性ボーカルのコーラスが担っていますね。うん、そのアレンジもよくわかります。こういう世相を切るような内容の曲にはこういう感じが…仮にこれを場末感と呼称しますが、荒んだ空気と大人びた雰囲気の編曲がよく馴染みます。
歌詞で特に好きなところは、"意味がないなんてそんなことばっかり言ってる奴でてこい/知らないだけなのに それなのに"です。インタビューの記述を見ればこの曲がどういう人達に向けられているかということが具体的にわかりますが、先天性ヘイターとでも表現したくなるような人達っていますからね。理屈じゃないから取り合っても仕方がないレベルの。
04. リリリピート (Live at 新木場 STUDIO COAST)
タイトル通りのライブトラックです。オリジナルはアルバム『フレデリズム』(2016)に収録されています。とはいえ冒頭で書いた通りオリジナルは本作以外何も持っていないので、元との相違点だとかライブならではのアレンジだとかに詳しくは言及出来ません。YouTube音源との比較程度です。
ということで普通に楽曲のみをレビューしますが、イントロめちゃくちゃ格好良いですね。なにこの自分好みのダーティーな雰囲気。こういうタップダンスを思わせるクラップ(オーディエンスのではなくね)も大好きです。…と思ってYouTubeでオリジナルを聴いたらクラップがなかったので、素晴らしいライブアレンジと言わざるを得ない。
そこから放たれるメインメロディ自体はイントロから予想出来たものよりは明るかったのですが、素直に魅力的だと思いました。「リリリピート」という題に偽りなしで"繰り返し"や反復が多いのですが、促音がこれでもかとピタッとはまる跳ねたメロディがキャッチーで良いですね。
05. ナイトステップ (Live at 新木場 STUDIO COAST)
ライブトラック2本目。同じく『フレデリズム』からです。これも非常にクールなナンバーでバンドの高いポテンシャルを感じました。古いJ-POPらしさがあるというか、MVを観るにディスコの時代まで遡ったほうが適切だという雰囲気が醸されています。
この「古いJ-POPらしさ」或いは「ディスコの時代」ですが、どちらかと言えば女性ボーカルの感じだと思うんですよね。もっと踏み込んである意味80年代アイドル風に聴こえなくもない。
か細く・高く・少しだけザラついたタイプの声を持つ女性をツインでボーカルに据えて、打ち込みが目立つアレンジに変えて(ギターはそのままでいい)、当時の音圧を意識してあえて弱めにミックスとマスタリングをしてあげたら、アイドルソングとしてもいけるぐらいの可能性を秘めていると個人的には思います。笑
妄想甚だしくてすみませんがこれは最大限の賛辞のつもりです。度々書いていますが僕の好みのひとつに80年代アイドル歌謡があるので、この曲が持つピュアなセクシーさには驚かされました。こういう艶っぽい曲を歌える男性ボーカルのバンド自体は多く存在するイメージですが、それプラスこのポップセンスというのが稀有なんですよね。
以上、新曲3にライブトラック2の計5曲でした。もうレビューの内容からバレバレですが、非常に自分好みのツボばかりを的確に突いてくるバンドだと思いました。これはもう蒐集不可避のレベルなので、過去作に手を出すことは確定です。とりあえず『フレデリズム』から聴いてみます。
フレデリックのメンバーの年齢は僕より少しだけ下ですが、今のアラサー世代が自分が生まれるよりも前、あるいは生まれていたけど世代とは言えないような頃のカルチャーに惹かれるというストリームは確実に存在すると思います。とりわけ80'sは人気で、僕もそんな中のひとりです。
自分が好きだと漠然と感じていたものや新しいと感じていたものが、実は昔からそのまま存在していた(或いはルーツのようなものがあった)と、年齢と知識が積み重なることでわかってくるからというのが一因ではないでしょうか。
音楽に話を絞れば、作り手が最新の音を追わない場合、自分の嗜好のルーツとなるような世代の音(僕なら90's~ゼロ年代前半)を反映させるのが定石だと思いますが、そこから更に遡ってしまうような凝り性タイプのほうが面白い音楽を創造する地力も高いと思うんですよね。フレデリックはその好例のひとつだという印象です。Suchmosも人気ですしね。
親の影響やインターネットの発達に伴う音楽視聴環境の変化というのも無視出来ないファクターだと思いますが、とにかく古いものの良さを素直に認めて積極的に取り入れるという姿勢が、何においてもプラスなのだということを改めて実感しました。
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