今日の一曲!スピッツ「夢追い虫」【テーマ:虫】 | A Flood of Music

今日の一曲!スピッツ「夢追い虫」【テーマ:虫】

 【追記:2021.1.4】 本記事は「今日の一曲!」Ver. 1.0の第三十六弾です。【追記ここまで】

虫、好き?嫌い?

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 子供の頃は全然平気だったのに大人になるにつれてダメになっていくという典型です。でも旅行先で珍しい虫を見つけると喜々としてカメラを接写するぐらいには平気。笑

夢追い虫/ポリドール

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 さて、そんな【テーマ:虫】で紹介する「今日の一曲!」はスピッツの「夢追い虫」(2001)です。「虫」ってお題を見て即スピッツを思い付くぐらいにはそのイメージがあります。虫に限らず生き物や草花を想起させる曲が多いからでしょうか。

 世界の中で健気に生きている感じがバンドのスタイルとも合致していると思うので、ここで言う「虫のイメージ」というのは勿論ポジティブな意味合いですよ。念のため。


 今回は「夢追い虫」をチョイスしましたが、タイトルに「虫」を含む曲は他に「鈴虫を飼う」(1991)と「宇宙虫」(2000)がありますね。

 具体的に虫の名前まで絞ると「スパイダー」(1994)、「ハチミツ」「グラスホッパー」(共に1995)、「ホタル」(2000)、「オケラ」(2009)、「未来コオロギ」(2013)、「ハチの針」(2016)と結構出てくる。バッタ目が好きなのだろうか。笑

 歌詞にまで目を向けるともっと増えるのでここでは割愛しますが、「虫のイメージ」がつくのも頷けるほど、「虫」の取り扱いには長けているバンドと言えるでしょう。




 話を戻して…「夢追い虫」は24thシングル曲で、映画/ドラマ『プラトニック・セックス』(2001)の主題歌です。この作品は観たことがありませんが、書き下ろし曲ではないので"エロに迷い込んでゆく"あたりの歌詞がウケたのでしょうかね。

 「夢追い虫」はスピッツのシングル曲の中ではなかなか数奇な存在だと思います。シングルの発売は2001年の10月ですが、以前からライブで披露されていた曲なので、プロダクトとしての初出は同年6月に発売されたライブDVDなんですよね。

 加えて、リリース期を考えれば通常は10thアルバム『三日月ロック』(2002)に収録されるはずのシングル曲ですが見送られて未収録となったため、2004年発売の特別盤『色色衣』にてようやくアルバム初収録という特殊性も持っています。

 この辺りの歴史は『色色衣』に封入されている「リリース記念特別座談会」のペーパーに詳しく書いてあるので、興味のある方は参照してください(初回盤のみ封入だったかも…)。専門用語が太字になっていてホームページにその解説が載っているという凝った作りだったんですが、現在はもう見られませんね。


 ここから楽曲自体のレビュー。10th『三日月ロック』収録が見送られたのも止む無しだなと思える骨太なロックナンバーです。仮にナンバリングのあるオリジナルアルバム収録だったなら、9th『ハヤブサ』(2000)が適していたと思います。

 力強いギターが印象的な演奏部と静かなAメロが交互に顔を出すという緩急のある展開にまずは痺れさせれます。素直に格好良い。


 Aメロの歌詞でお気に入りは"途中から 変わっても すべて許してやろう"です。これ、惚れた女のためなら男であれば誰しもが陥る思考だと思います。ただ、あくまでも「思考」なんです。実際に変化の全てを許せるような寛大な男は果たしてどれだけいるか…そんな裏が見えそうなところが好き。

 だってその前が"美人じゃない 魔法もない バカな君が好きさ"なんですよ。つまり非常に男性本位な主張からスタートしていると受け取れるということですが、これは上掲の宣言とは裏腹に"君"の些細な変化にすら戸惑うか弱い男心の裏返しによるものだと僕は思います。笑

 要するに、"君"を下げるのは外敵から狙われないように隠したいからで、しかしそんな"君"でも俺は好きなんだよと宣言することで自分だけに目を向けさせるという戦略…という解釈です。一見失礼に見えますが、ニュアンスとしては「愚妻」等の謙称を使うのに近いのではないかな。

 "許してやろう"は言わば見栄。"バカな君が好き"なんだもん、変わってほしくないよ…が本音だと思う。しかしそんなことをバカ正直に打ち明けようものなら狭量な男と見なされてしまうからね。有り体に言えば束縛野郎のレッテルを貼られかねないから、男は見栄を張るのさ。


 BメロはないのでAメロ後そのままサビ突入です。わかりやすくするため以降はヴァース(=Aメロ)-コーラス(=サビ)で説明します。"命短き"~のところをBメロと表現すると混乱する人もいそうだから、そこをブリッジと表現するための措置です。まあわからなくても問題なし。

 コーラスのメロディはあえて言いますがシングル曲としては地味だと思います。よく聴けば格好良いとわかるけどキャッチーさには欠ける。「地味」だと印象が悪いですが、これは「渋い」と表現すべきものかも。アルバム曲っぽいと換言しても良い。

 座談会ペーパーには「タイアップが無かったら(シングルとしては)世に出なかった」という旨の記述がありますが、それも頷ける。歌詞的にはメッセージがわかりやすく、とてもシングル向きだとは思いますけどね。


 このようにコーラスはいぶし銀ですが、2番間奏後のブリッジ("命短き"~)の美しさはスピッツ中でも上位に入る完成度だと思います。ある意味ここが最もサビ的に振舞っている。

 歌詞通り"うれしくて 悲しくて"という相反する感情が同時に鳴り響いているような、強烈な切なさを感じる旋律とアレンジです。"命短き ちっぽけな虫です"という入り方もまさにこれしかないと思えるぐらい旋律に寄り添った歌詞だと思いますし、この儚さは日本人ならではという気がします。


 ブリッジ後は再びヴァースが出てきますが、これが変則Aメロといった感じなのも仕事が細かくていい。"身につけ"~新たな旋律にシフトしていくのが堪りません。

 ラスサビは"削れて減りながら進む あくまでも"というのがいかにもマサムネ節で大好きです。先に「歌詞的にはメッセージがわかりやすく」と書きましたが、一見陳腐に響きかねないサビの歌詞が、この一節が加わることによってスピッツらしさを得ているなと感じる。