Walküre Trap! / ワルキューレ | A Flood of Music

Walküre Trap! / ワルキューレ

 前クールで放送を終了したTVアニメ『マクロスΔ(デルタ)』の作中に登場する、戦術音楽ユニット・ワルキューレ(Walküre)の2ndアルバム『Walküre Trap!』のレビュー・感想です。前作から3ヶ月経たずのリリースというハイペースで届けられました。

Walkure Trap! (通常盤)/フライングドッグ

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 2ndシングル『絶対零度θノヴァティック/破滅の純情』および1stアルバム『Walküre Attack!』(共に2016)については、全曲ではありませんが過去にレビューしたので、興味のある方は この記事 も併せてご覧ください。なお、以降で"前回の記事"という言葉が出てきたら、リンク先の記事のことを指します。


 今回は長い前置きはなしですぐレビューに入ります。しかしその前に、前回の記事で書いた説明と注意をここに再掲します(次の文章からです)。ワルキューレは5人組の音楽ユニットで、作中では"美雲, フレイア, カナメ, レイナ, マキナ"がメンバーですが、現実では各キャラの声および歌を担当している"JUNNA, 鈴木みのり, 安野希世乃, 東山奈央, 西田望見"がメンバーです。ややこしいので、レビュー中では基本的にキャラ名を使って書き進めていきます。





01. Absolute 5

 アニメ終盤のワルキューレを象徴する楽曲…というイメージなんですが、Mission(=話数) 22と24でしか使われていなかったみたい。本当はもっと本編中で流れてほしかったんですが、少しの視聴でもインパクトが大きかった曲だと好意的に捉えます。

 "ひとりでも欠けたら 意味を失ってしまうから"の言葉通り、ワルキューレ全員で歌われる、エネルギッシュだけどどこか物憂げなナンバーです。タイトルにも歌詞にも"5"が鏤められ、改めてワルキューレはこの5人なんだという宣言を伴う、アルバムの幕開けに相応しい楽曲。

 サビの"ほどけて散るのなら 全てが終わった後にして"というフレーズにも代表されるように、たとえバッドエンドになろうとも今は目の前の戦いに集中しろという覚悟を随所に感じます。2番の"あどけない大人たちが うろ覚えの痛みで泣いている"という歌詞は、作品とは関係なく上手い表現だなと思いました。

 今までの曲と少し異なると思った点はコーラスが入るタイミング。これまで歌い手の交代や歌い手の数の増減は、ある程度まとまった文章か、短くても単語あるいは単語+助詞という意味上のまとまりを崩さずに行われていたと思いますが、この曲は文章(単語)の途中からコーラスが入る箇所(|)が多いですね(e.g. "吹き消せ|るほど強く", "枯れそうな手の|平に世界を")。こういう入り方はコーラスとしては別に珍しくないと思いますが、多用する曲はワルキューレにはあまりなかったような。少しなら「いけないボーダーライン」とかあるけども。

 あとはちょっとしたことなんですが、1番サビの"攻防戦"という歌詞を最初"五芒星"と空耳していました。頭が"5"にとらわれていたので。笑


02. 絶対零度θノヴァティック

 前回の記事でレビューしたので、詳しくはそちらで。


03. おにゃの子☆girl

 お目当てにしていた曲で、期待通り本作でいちばん気に入りました。アニメで聴いたときから好みのサウンドだなぁと思っていたマキナがメインの曲。そういえば前回の記事では書きませんでしたが、キャラデザだけならマキナがいちばん好きなんです。

 TeddyLoid作編曲というだけあって、実に彼らしいサウンド。…といつつ実は彼の作品をがっつり聴いたことはないのですが(せいぜいMEGに提供した曲とm-floの曲のアレンジぐらい)、それでも一応は知っているサウンドだったので、すっと耳に馴染みました。

 ワルキューレの中でマキナの声がいちばん甘い(言い方を変えれば、あざとい)と思うのですが、そんな彼女の声の魅力を損なわずに上手にかけられたエフェクトが、アイドルらしい歌詞と曲によくマッチしていてとろけさせられます。意味はよくわからないけど"ハグハグモフモフシュガーレイズド"って響きが好き。

 そしてこの曲のフックともいえる"からの"という言葉。これを全面に押し出した2:04~2:50まで(1番終わりの間奏)のパートがめちゃくちゃかっここい。煽るように"からの"を連呼して、一体"からの"からの何なんだと思わせておいてからの、最後も"からの"なのには笑っちゃったけど(あえて"からの"を多用してみた)。ここのパートはもはや『マクロスΔ』の曲という範疇を超えて、TeddyLoidの世界観になっていると思いますが、個人的にはかっこいいのでOKです。こういう甘々な曲にぶちこむからいいんだよね。

 このパートの話を続けますが、2:04~2:07の部分、たぶんサンプリングだと思うのですが、Justiceの曲で聴いたことがあるような気がするんだよなぁ。調べたらJusticeの曲のリミックスも非公式に行ったことあるみたいだし。それとももっと古い共通の元ネタとかサンプリングCDでもあるのかな。ここに関しては全然見当違いのこと書いているかもしれないのであてにしないでね。

 アウトロも素敵だし、最後まで可愛さとかっこよさが共存する名曲だと思います。他のワルキューレメンバーに比べると扱いが小さいと思うし、終盤で被弾して病院送りにされたマキナだけど、いい曲もらえてよかったね。


04. LOVE! THUNDER GLOW

 Mission 18エンディング曲。美雲メインの曲で、コーラスはフレイアのみが参加。「いけないボーダーライン」や「破滅の純情」とは異なり、ホーンセクションによらない美雲メインの曲なので新鮮です。しかしパワフルな歌声はそのままに、情熱的な曲に仕上がっています。

 歌詞は美雲の出生のことを想うと結構胸に迫るものがありますね。しかし、ただ悲観するのではなく、運命に打ち克とうとする彼女の想いや強さが押し出されている内容なので、聴いていて昂ります。"馬鹿げてるね 過去"、この歌詞こそ、この曲のテーマなんじゃないでしょうか。


05. Silent Hacker

 本作中でいちばんアレンジが複雑で遊び心があると感じるレイナがメインの曲。レイナの曲となると電脳世界的サウンドを構築したほうがわかりやすいと思うので、単純な曲ではないだろうというのは予想通り。ただ、この曲は単に電子音を鳴らして電脳世界を表現しているというだけではなく、そこにレイナという生身の人間(あえてこう表現しますが)が存在していることを感じさせる、実は結構人間味あふれる歌だと思います。

 こう感じるのはもちろんサウンドのせいというのもあるのですが、レイナの歌声によるところも大きいと思います。他の曲ではきちんとレイナとして(キャラ声で)歌われていると感じるのですが、この曲に関しては普段のレイナの声と違うなと感じるのです。リバーブ処理のせいというのもあるでしょうが、これは意図的に行われた使い分けだと思っています。

 自分の意見はきちんと主張するとはいえ普段あまり口数の多くないレイナですが、電脳世界(彼女の領分)では自身についてありのままに語ることができるキャラだという理解をしています。そこで彼女が使う声(想う声、心の声)は、表に出す声とは違って、より自分の精神に近い声ではないでしょうか。それを表現するために、馴染んだキャラ声から遠ざけているのかなと思ったからというのが理由です。

 特に"感じる力が/揺らぐ電子の渚で"という素晴らしい歌詞のパートは、レイナによる独白(精神世界の吐露)ですよね。ここは歌詞・メロディ・サウンド・歌声全てで完璧な世界観が構築されているなと思います。

 正直レイナはワルキューレの中ではあまりピンときていなかったのですが、この曲でかなり好きになりました。アニメで使われたのがMission 7と結構前なので、色々設定や描写を忘れていて、それ作中で表現されてたじゃんみたいなツッコミがあるかもしれませんがご容赦を。あとは、ラストをレイナ以外の4人によるパートで締めるというのも意表を突かれて良かった。ストリングスと予想を外してくるメロディラインが素敵。


06. 破滅の純情 ~Mikumo Solo~

 オリジナルの「破滅の純情」については前回の記事でレビューしたので、詳しくはそちらで。ここでは変更点のみレビューします。

 美雲ソロというだけあって美雲の歌唱パートが増えています。美雲がメインで、他の4人がバックボーカルという編成に変わっています。しかし元々美雲が歌うところが多い美雲の歌という印象なので、あまり大きく変わったようには感じませんでした。

 ただ一点、オリジナルではレイナが担当だったラスサビ前の"「好・き・よ」"がカナメの担当に変わっています。マキナの"「行・く・よ」"とフレイアの"「飛・ぶ・よ」"はそのままなのに。でも確かにレイナの「好・き・よ」を初めて聴いた時、ふざけてるのかな?と思ったぐらい何か癖のある言い方だったから、差し替え?笑…まぁ今回はカナメに花を持たせたというだけのことでしょうが、今ではあのレイナの「好・き・よ」がツボになっていたので、こっちでは削除されちゃて残念です。


07. Hear The Universe

 ここまでメンバー曲が続いていましたが、ここで再びワルキューレ全員がメインの曲が登場。この曲ももっと本編で使われるべきだったと思います。

 "挑戦しちゃえば宇宙に飛びだす系女子です。"というぶっとんだ歌詞から始まります。笑…さすがオーディションのために貨物船で密航したフレイア。それはさておき、この曲はワルキューレによる未知なる音楽へのナビゲーションソングです。"戦術音楽ユニット"というコンセプトそのものがテーマの歌といえるんじゃないでしょうか。

 このテーマはすごく好みです。"あなたの知らない音がこの世にはたくさんあるよ"や"天球の音楽には 暗い 暗い/闇切り裂く力が溢れているの"など、未知なる音楽との出逢いを期待させるフレーズは、音楽が好きな人なら胸躍る表現ですよね。選択肢が増えた現代では、能動的に動かないと自分の好きな音楽(に限らず娯楽全般)というのは見つけられないのが現状だと思いますが、ワルキューレには優秀な電脳戦コンビがいるので強制的に歌を届けることができるんですよね。リスナーからしたら究極に受動的な音楽との出逢いになりますが、この構図を端的に"海賊放送局よ"という六文字でまとめているのが素敵です。やっぱり岩里祐穂さんの歌詞はいつも素晴らしい。

 この曲って"挑発しちゃえば"~と"海賊放送局よ"~のどっちがサビなんだろう。どっちもサビといえるほど盛り上がりますよね。クロスフェード動画を根拠にすると前者っぽいけど、メロディは後者のほうがよりサビらしいと思う。Cメロ…という割には複数回出てきているし、繰り返されるし、やっぱり後者も僕の基準ではサビです。


08. 涙目爆発音

 Mission 21のEDクレジットを見たとき曲名に笑ってしまいましたが、普通にいい曲だから困る。カナメがメインで、コーラスはレイナとマキナという下積みメンバーによる楽曲。こちらは美雲メイン曲のパターンと逆で、「AXIA ~ダイスキでダイキライ~」とは異なり、ホーンセクションが特徴的な曲がカナメに宛がわれました。

 きちんと初期楽曲感が出ているアレンジといいますか、メロディも他の楽曲と比べると派手さがないと思うんですが、そこがこの曲のいいところ。歌詞も、つらい現実なんかに負けないという下積みスピリットに満ちていてうるっときます。Bメロの"YES NO"のところはアイドルらしさも意識して挿入されたパートかなとか妄想してみたり。笑

 欲を言えば、作中ではまだクレアが在籍している状態で披露されていたので、バックボーカルに参加していてもいいのになと思った。


09. ワルキューレのバースデイソング

 こういう短い曲はサントラ行きではと思ったんですが、次の10.「God Bless You」とセットで収録することに意味があるからでしょうね。

 Mission 16でフレイアのために歌われたバースデイソングです。フレイア以外の4人により歌われています。きちんとピアノとストリングスによる装飾もなされていて、アカペラかつワルキューレ以外も歌に参加していたアニメのバージョンとは異なります。


10. God Bless You

 Mission 16のエンディング曲で、フレイアがメインを務めています。前述の通り16話はフレイアの誕生日回なので、09.「ワルキューレのバースデイソング」を受けてこの位置に収録ということでしょう。

 遅れて登場したかと思ったらプレゼントに雪をチョイスするというイケメンっぷりを発揮したハヤテですが、冷たい外気と心のぬくもりの対比、そんな作中の空気感を表現したような幸せな楽曲です。しかし最大の聴きどころはフレイアの台詞かな。初聴では笑ってしまった。

 曲自体はフレイアの想いが反映されているのでハッピーなんですが、作中だとこの裏でミラージュが涙したり美雲が誕生会に来た理由が哀しかったりと、複雑な人間模様も描かれていたので、切なさも伴って響きますね。

 それにしても、聴いただけで北川勝利作だとわかる音づくりはさすがです。これも坂本真綾さんがカバーしたらめちゃくちゃ合いそう。


11. 風は予告なく吹く ~Freyja Solo~

 オリジナルの「風は予告なく吹く」については前回の記事でレビューしたので、詳しくはそちらで。ここでは変更点のみレビューします。

 フレイアソロというだけあってフレイアの歌唱パートが増えています。フレイアがメインで、他の4人がバックボーカルという編成に変わっています。オリジナルの美雲のパートがフレイアに差し替えられたバージョンといっていいでしょう。一貫性があっていいとは思いますが、美雲パートがあったほうが切ない感情が上乗せされていて好きだったかな。特に最後の英語パート。

 あと、前2曲をレビューするためにMission 16を観返したのですが、この曲もフレイアによる歌唱で既に一部登場していたんですね。もしかしてもっと前から出てました?


12. 愛・おぼえていますか

 ラストは「愛・おぼえていますか」byワルキューレです。マクロスファンにはお馴染みの曲で、オリジナルは飯島真理の『愛・おぼえていますか』(1984)に収録。ですが、僕は『マクロスΔ』を除くと前作の『マクロスF』しかきちんと観たことがないので、残念ながらこの曲の重要性についてそこまで深い理解はできていません。

 最初に聴いたのは『マクロスF VOCAL COLLECTION 娘たま♀』(2008)収録のランカ・リー(中島愛)による「愛・おぼえていますか」で、菅野よう子編曲のこのバージョンに慣れきってしまっているので、それと比べるとワルキューレバージョンはアレンジ面で物足りない印象を持ってしまいました。すみません。

 しかし、5人で歌われる「愛・おぼえていますか」はなかなか新鮮なのではないでしょうか。歌い手が変わっても、曲の持つ元々の良さは変わらないということの再確認にもなりましたし、こうして歌い継がれていくことに意味がある曲なのでしょう。

 2番Aメロのレイナのパートが似つかわしくないほどセクシーな歌声だったのが少し面白かったです。



 以上、全12曲でした。前作『Walküre Attack!』(2016)と比べると、ややキャッチーさが薄れたかなという印象です。しかしそれは曲の作り込みが複雑になっているからで、何回か聴き込めば隠されたキャッチーさに気付くと思います。そう、あくまでも本作もキャッチーで聴きやすいのは変わらないと思うんですよね。

 しかし前作より曲の良さを掴むのに時間がかかったのは、今作の収録曲はアニメで使用される頻度が少なかったからというのが大きいと思います。てっきり後半は今作の収録曲がたくさん使われるかと思っていたのに、終盤になっても前作の収録曲のほうが目立っていた印象です。アニメで使用する曲という観点から、あるいは1stと2ndに振り分ける曲という観点から、もうちょっとバランスよく配分してくれていたらより馴染みやすかったと思います。

 このようなアニメでの扱い等を考慮せず曲だけみれば、本作も文句なしに名盤だと思います。やっぱりマクロスは楽曲のクオリティが高いなといえる作品ではないでしょうか。いちばん好きなのはレビュー中でも書きましたが、03.「おにゃの子☆girl」で、次は迷いますが01.「Absolute 5」, 05.「Silent Hacker」, 07「Hear The Universe」あたりはリピート率が高いです。シングル収録曲の良さも改めてわかりましたし、1stと併せてハイクオリティな楽曲が増えて満足です。


 さて、アニメの放送も終わりましたね。しかし、正直『マクロスF』ほどの盛り上がりは感じませんでした。1クール目は文句なく面白い、というか前回の記事をアップしたあたりまではかなりわくわくしていたんですが、終盤は消化不良感があるというか全体的にこじんまりとしちゃった印象でした。それでもMission 26はなんだかんだですごく盛り上がっていたと思うので、この勢いはマクロスだなと思いました。笑

 ここで期待してしまうのはやっぱり劇場版ですよね。『マクロスF』のTV版みたく三角関係の決着をみないままで終わられるのよりはいい気がしますが、三角関係以外のところのメインストーリーを再構築してくれたらうれしい。各要素は面白いと思ったので。

 何か動きがあるとしたら、来年のワルキューレ 2nd LIVEの日でしょうか?まだまだワルキューレの新たな楽曲が聴きたいので、劇場版あったらいいな。


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