50歳代前半、独身で一人暮らしの女性。長年、税理士事務所に勤めていたが、自分と同年代の所長が突然、心筋梗塞で亡くなり、事業を引き継いでくれる人もなく、事務所を閉鎖することになり退職を余儀なくされた。

「定年(65歳)まで働かせてもらうはずだったのに・・・」

年金受給まではまだ10年以上あり、途方に暮れているとのこと。

 

 経理事務しか経験がなく、引き続き事務職を希望しているが、この歳では正直、再就職先が見つからない。パートなら見つかるかもしれないが、生活を維持するため正社員の事務職となるとかなり難しい。そのことは相談者も理解している様子。

 あまりに気の毒なので、なんとかしてあげたいと思うのだが妙案はない。話しているうちに職業相談というより人生相談になり、苦悩話を傾聴するだけで面談は終わった。

 この人の場合、少し貯金はあるのですぐには困らないことと、基本手当が最長の330日分が受給できるため、今後のことはじっくり考えることとなった。

●雇用労働者の2大リスク

 雇用労働者(サラリーマン)にとって職業人生での最大のリスクは希望しない失業(会社の倒産・廃業・リストラ等)と、自分自身の病気と言われている。(以下、これらを「有事」という) 

 50歳代は加齢とともに病気になる確率も高くなるし、倒産とは無縁の安定した企業に勤務していても、企業は業績不振時だけでなく、黒字でも企業体質改善のためにリストラを実施することがある。その場合、50歳代はまちがいなくターゲットになる年齢層であり、いつ声がかかるかという危険性と隣り合わせで働いていることになる。

 そして、事務職などデスクワークの経験しかない人にとっては、「つぶし」がきかないので、50歳を過ぎてこの「有事」に遭遇するとかなりきつい。

 

●リスクヘッジ策は?

 これらのリスクをヘッジする方法としては、第69話で述べたように現役時代の早めから、キャリアの複線化を図り、「有事」の場合に仕事探しに慌てないよう備えたり、

 

あるいは日頃から、積立NISA・iDeCoなどで資産を増やす、病気やけがの場合は個人的に就業不能保険医療保険に加入するなど、いろいろ対策はあるのだが、それ以外にも、今回のケースを通じて、独身の場合、結婚・再婚しておくこともリスクヘッジ策としてあり得るのかなと感じてしまった。

 実は、冒頭の相談者に「こんな時は、旦那さんがいてくれたらよかったのにねえ~~」と、つい反射的に無神経で失礼なことを言ってしまったのだが、怒りもせず「そのとおりやと思います」と悲しそうな顔をして何度もうなずいていた。

 

 失業したとき、独身の方が気楽という人も多いが、若いうちは確かにそうかもしれないが、50歳くらいになると、「有事」の場合、その期間は配偶者に(多少でも)働いてもらい生活を支えてもらうことができるし、パートでもいいとなると一気に仕事の選択肢が広がる。さらに相談相手がいるということは精神的な安定にもつながるので、余裕をもって次の仕事をさがしたり、治療に専念することができる。

 

結婚は、してもしなくても後悔する

 

 と言われている。また、一般的に「やらなくて後悔するより、やって失敗して後悔するほうがよい」とも言われている。結婚するといろいろ制約をうけるし、「夫婦間の愛」はいずれ間違いなく冷めるが、時間の経過とともに、通常はお互いを支えあう「パートナーシップ」変質していくので、打算的と言われるかもしれないが、こうした「有事」の時の保険として、結婚・再婚を捉える考え方もあるのかなと感じてしまった。

 

●リスク対策は「ハイブリッド」対応で早めに

 一番よくないのは、こうした「有事」に対して、なんとかなるだろうと漫然とすごしていると、今回の相談者のように、いざというときに後悔することになる。

 該当する可能性のある人は、40代までのまだ体力・知力のあるうちから

 ・転職を容易にするための技術、資格の取得

 ・起業、副業のための情報収集やその準備

 ・資産形成のための継続的投資

 ・(未婚の場合)婚活

 などを、1つだけに絞らずハイブリッド型(複合型)で対策を考え、早めに具体的なアクションを起こすことをお勧めしたい。

 

●(見るのもいやな)ゴキブリ亭主でも、いないよりまし?

 このように考えると、既婚の共稼ぎ夫婦の中には、「あんな甲斐性のないゴキブリ亭主、いてもいなくても同じだわ」と考えておられる奥様方もおられるかもしれないが、結婚していること自体がこうした自分自身のキャリア人生における「有事」の際の保険と捉えていただければ、少しは優しい(?)気持ちになって頂けるかなと思う。

(男目線で恐縮だが)ここは忍耐と寛容で辛抱してほしいところだ。