窓口で、この仕事(ハローワークの職業相談員)に就くにはどうしたらいいのですか?と相談を受けることが何度かあった。

 

●職業相談員になる方法

 キャリアコンサルタントや産業カウンセラー、社会保険労務士の資格があれば、それに越したことはないが、なくてもパソコン操作に慣れていて、携帯ショップや保険相談、地方公共団体等の窓口業務の経験があれば採用される可能性はある。欠員が出ればその都度求人がでることはあるが、通常は毎年2月頃に各地のハローワークから、まとめて求人がでるので挑戦してみたら? とアドバイスしていた。

 

 ただ、第38話:みなし公務員はつらいよ 

 

で述べたように非正規雇用なので雇用は不安定のうえ、賃金も一人暮らしなら何とか生活できる水準のうえ、いろいろ私生活でも制約をうけることなど、ある程度の覚悟は必要かと思う。

 

●ノルマみたいなものがあります

 また、ハローワークは国の行政サービス機関なのでノルマとまではいかないまでも目標数字があった。

 指標となる数字はいくつかあるのだが、窓口の職業相談員にとっては、相談件数・求職者マイページ(※)の登録件数・紹介件数・就職件数などがあり、これらを個人ごとに毎月集計されていて、「先月は、ちょっと少なかったですね。もう少し頑張ってくださいね。」と上長からチクリと言われることもあった。

(※)ハローワークインターネットサービス(HWIS)のホームページを参照

 

 これらは毎月明確な数字としてでるので、次年度の契約更新(再任用)にも影響する可能性もあることから少しだけ敏感になっていた。

 ただ、業務の性格上、個々の頑張りがそのまま自分自身の成果に結びつくことがない場合も多いので(理由は後述)、成績次第で評価が大幅にかわるということもなかったことから、そのあたりは当然ながら民間企業に比べればかなり穏やかだったと言える。

 

 とはいえ、県の労働局もおそらく政府(厚労省)からの指示だろうと思われるが、相談員のモチベーションを上げる(尻をたたく)ため、県内のハローワークごとにこれらの指標となる数字を公表し、ハローワークどうしで競わせるような(?)ことをしていた。

 

●相談員の本音

 相談員にとって一番うれしい相談者は、自分で求人票を2,3枚持参して簡単な相談だけで、「紹介状を発行してくれ」と言ってくる若くて直観的に採用される可能性が高そうな相談者である。時間をかけずに紹介件数は稼げるし、就職件数も期待できるので、紹介した後は内心うれしくなってしまうのは私だけではなかったと思う。

 

 一番悲しいのは、1時間くらいかけて、めぼしい求人情報を何件も提供するものの、最後に「今日は応募せず、いったん持ち帰って検討する」と言って帰られると正直、疲れがドッとでる。

 さらに、後日確認すると情報提供した求人に別の相談員から紹介状を発行してもらって採用になっていると、(相談員どうしお互い様なのでしかたがないとはわかっているが)横取りされた感でさらにがっくりする。

 個別支援サービスを受けている相談者を除き、こうした経緯を把握できないことから、相談員個人の成果として特定することができない場合があるので評価しづらいところではある。

(ただ、その時々での運・不運もあるが長期間で集計すると、だいたい不公平差はなくなるが・・・)

 

 実は、第29話や第35話で述べた、何回も転職を繰り返す人や紹介状だけ発行させて応募書類を送らない人は、迷惑ではあるが、相談員やハローワークにとっては就職件数や紹介件数に計上されるため、皮肉ではあるが実績面では貢献してくれていることになる。

 

 そんなこともあり、もう辞めたから言えるのだが、ハローワークの職業相談窓口の実績を前年比や近隣のハローワークと比較するのは、あまり意味がないように感じていた。

消防署とハローワークは暇なほど良い。

 来所者が少ないことは、雇用が安定している、すなわち経済や社会が安定している証拠であり、数を競わせたりするのはいかがなものかと思うのだが、最近は民間のネットの無料職業紹介事業者と競合することが多くなり、ハローワークの沽券に関わることなので「数をこなせ、実績を残せ」というのが、政府(厚労省)の方針なのかもしれない。                         

知らんけど・・・

 

●相談員とってうれしいこと

 本音を言うと、職業相談員として一番評価してほしいのは、紹介件数や就職率などではなく、就職に困っている相談者に対し、その人に合った求人情報を提供し、応募する上でさまざまな支援(履歴書の書き方や面接の指導等)をして、採用になった人数である。

 

 そんな人から、年1,2人だが、「おかげさまで無事就職できました」とわざわざ窓口までお礼に来られたり、感謝の電話がかかってくることがあった。また、ごくまれだが高齢者の中には菓子折りを持参してくる人もいた。(もちろん丁重にお断りさせていただきましたが・・・)

 職業相談員として一番、達成感と自己効力感を感じた時でもあった。

 

 数字に追われるのはつらいところだが、利害関係のない世界で他人様(ひとさま)のお役にたてて、その人から直接感謝されることが体感できる仕事なので、意外といい仕事なのかもしれない。