30歳前半の色白の女性が事務職のパート求人を持参して応募したいと来窓。

いつもどおり、事業所に連絡し応募可を確認して紹介状を発行しようとしたところ・・・

「実は、前職はがん(部位は聞かず)になって退職した。幸い寛解して働けるようになったので少しずつだが働きたい。ただ、しばらくは定期的に通院しなければならないが、そのことは応募の際に言わないといけないのか?」との相談をうけた。

●面接では「大人の対応」を

 別に、パートなら通院の調整はつきやすいし、業務に支障がないと思うのなら言いたくなければ言わなくてもいい。ただ、履歴書をみて、病気療養中で離職期間が長く何も書いていないと当然、採用担当者はこの期間は何をしていたのか気になるし聞いてくることになる。そこでうやむやな回答をすると反って不信感を抱かせることになる。

 採用後の事を考えると正直に話した方がいいのだが、女性特有のがんの場合、面接官が男性なら言いにくいし、男性でも部位によっては言いたくないこともある。さらに個人情報の管理が行き届いた企業なら、人事担当者や一部の管理職以外に知られることはないのだが、個人情報管理の意識の低い中小企業となると、おしゃベり好きの口の軽いおばさんがいて、採用担当者から聞きつけて会社中に広まってしまい不快な思いをすることになる危険性もある。

「今度入社してくる人、〇〇がんやったらしいで・・・知らんけど」

 

 最終的には言うか言わないかは自分で判断してほしいが、どうしても言いたくなければ、聞かれたとき、「言いたくありません」というと角が立つので、「この期間は病気療養中でした、病名等の詳しいことはご容赦いただきたい。ただ、すでに寛解しており、働く上で問題ないと医者から許可を得ています」と答えるようアドバイスをした。

 良識ある面接官なら、気持ちをくみ取り、それ以上追及することなく採否を判断してくれると思うが、もし、これが理由で不採用になるのなら、縁がなかったと思い早く気持ちを切り替えた方がよい。

 

●雇用継続は事業所の責務

 がんは、早期発見されれば、今はほとんど治癒する病気という感覚である。通常はがんになって入院しても健康保険から傷病手当が支給される(上限1年6か月)ので一定期間は生活が保障される。大企業の場合は、社員ががんになった場合の休職制度や復職するときも復職後の体調を診ながらの短時間勤務や配置換えなど社内の支援体制が整備されており、雇用も維持されることが多いことから、本人のメンタルヘルス面を除いて生活面で問題になることは少ない

 ただ、中小企業や非正規雇用の場合は、「治療に専念しては?」と一見、経営者や派遣元から優しいことばで退職を促すことがよくある。実際、がんになった人の35%が退職を余儀なくされているという統計データがある。

 体を使う仕事の場合はやむをえない場合もあるが、中小企業といえども、なんとか配置転換等で雇用は維持してあげてほしいところだ。

 

 一度退職してしまうと、療養中は前述の健康保険から傷病手当を継続して受給できるが、治癒すると今度は、(おそらく)受給期間を延長した雇用保険の失業等給付(基本手当)を受給しながら、いそいで仕事を見つけなければならなくなる。

 ただでさえ、がんになってショックを受けてメンタルが不安定になっている上に、会社を辞めて(辞めさせられて)しまい、さらに生活の不安を抱えるのはあまりに酷といえる。

 

●がんに負けるな

 国も地味だが、こうした長期療養者の治療と仕事の両立を図れる支援事業を実施している。 

 一部のハローワークでは治療と仕事と両立を支援する専門窓口を設けたり、理解のある企業の求人を開拓したり、提携した医療機関への出張相談など、あまり目立った動きではないが支援を実施している。

  また、数はまだまだ少ないがハローワークインタネットサービス(HWIS)では、フリーワード検索で「長期療養者」で検索すると何件か出てくる。該当者は遠慮なく窓口で相談してほしいところだ。

 

  長期療養者の復帰のための仕事の探し方は基本的に(第32話)メンタル離職者の再就職

 

 

の方法をお勧めするところだが、本人も再発というリスクを抱えながらも「がんとともに生きる」という覚悟と「がんには負けない」強い気持ちが大事である。

 冒頭の相談者にも、時間はかかるかもしれないが、必ず病気のことを理解してくれる会社と仕事は見つかると励ました。

 職業相談員も、本人が了承すれば、事業所に就労条件の緩和や就労する際の配慮を掛けあったり、個別の事情に柔軟に対応し精神面で寄り添うことは忘れてはいけないところだ。

 

●厳しい現実もあります

 余談だが・・・今から十数年前に私がIT企業の人事部に勤務していた頃、40歳の男性社員が白血病になり、しばらく休職することとなった。当初は1年程度で復帰できそうな見込みだったのだが回復が遅れ、結局、休職期間が2年になると退職となる社内規程に該当してしまい退職を余儀なくされた。退職になる直前に本人から、寛解後は復職を強く希望しており休職期間をなんとか延長してもらえないかと懇願されたが、例外を認めるときりがないので気の毒だが延長できないことを伝えて退職となった。その半年後、親族から亡くなったとの連絡を受けた。延長してあげられなかったことが死期を早めたのでは・・・やむをえないとは言え、そんなことが頭をよぎり、なんともやりきれない気持ちになった。

職業人生においては、健康がすべてにおいて優先される

やれ、給料が安い、仕事がきつい、休みが少ない・・など不平ばかりを言って、健康で働けていることに感謝しない自分を反省しなければならないと、改めて認識させられた出来事だった。