ハローワークの職業相談窓口では、通常の相談時間は一人当たり、短くて5分以内、通常15分から長くても30分程度で終わる。

 ところが、1時間以上、長い人で2時間近く平気で相談する人たちがたまに来窓してきた。

 

困った相談者たち

 2とおりのタイプがいて、人柄は悪くはないのだが、仕事探しに全く関係のない世間話や、職場の愚痴・文句を延々と、しかも同じことを繰り返し言う人で、用件も終わり話が長くなってきてそろそろ引き上げてほしいと思い、視線をはずしたり、同意を求められても生返事で返すのだが、残念ながらこういう人達には、空気を読める人はあまりいないたまらず「そろそろ終わりましょうか」とやさしく言っても、「ふん、ふん」と言いながらおかまいなしに仕事探しとは関係のない長話を続けてくる。

 

 おそらく自分の周りに、話を聞いてもらえる家族や友人がおらず、ハローワークの相談員しか話し相手がいない、孤独で寂しがり屋なのだと思われる。 

 もう一つのタイプは、やや高慢な感じで、自分で仕事を検索することはあまりせず、相談窓口で、口頭で条件を言って相談員に検索させ、印刷した数枚の求人票を相談席ですわったままじっくり調べる人である。その間、相談員は何もせずじっと待っているだけである。混雑しているときなどは一旦席を外して、気になる求人を見つけたら改めて番号札を引いて相談する、という他人への配慮が全くできない人で当然こういう人はなかなか採用には至らないことが多い。

 この他、ハローワークの職業相談窓口には第43話:許せないカスハラ相談者

で書いたような、仕事でなければあまり関わりたくない人でクレームや不満を長時間にわたって話す人もいた。

 ハローワークが空(す)いていればまだ許せるのだが、混雑しているときは他の来所者にとってはいい迷惑になる。「用件は済んだのだからもう帰ってくれ!」と直接的にはなかなか言えないため、結局、疲れるのを待って帰ってもらっていたのだが、こちらもこういう人達と長時間応対すると体力を消耗する。私の場合、若くないこともあり応対した後は、「あしたのジョーの最終回」のような状態になるくらい疲れ切ってしまい、しばらく休憩をもらわないと次の相談が受けられなかった。

 

●ロシアンルーレットの気分

 こういう人達は、印象に残るので必然的に顔を覚えてしまうため来所するとすぐわかる。

ただ、総合受付で番号札の発券機を押して待合コーナーで待っている人達に混ざってしまうと何番を取ったかは分からなくなる。ハローワークの職業相談は、番号札順に各相談窓口から順番に呼ばれるので、どの窓口から呼ばれるかはわからない。

 私の場合、相談窓口で受付開始ボタンを押すとき、正直、「どうかあたりませんように」と祈りながら押していた。まさにロシアンルーレットの心境だった。

 はずれるとほっとするし、あたってしまうと今日は運が悪い日だったとあきらめ、これから仕事として1時間以上は耐える時間と割り切って応対していた。

 相談者に寄り添うべきなのに失礼だという批判は甘んじて受けるつもりだが、なにごとにも限度がある。自分の気持ちに嘘はつきたくない。他の相談員も全員そうだとはいえないが、多かれ少なかれ同じ気持ちはあったと思う・・・

人間だもの。

 

安心してください、覚えてますよ

 我々相談員は平均毎日10人~20人くらいの相談者と面談する。相談を受けた内容や相談者の顔は、正直、1か月も経てば(空けば)、前述のような、よほど印象的(?)な相談者を除いて忘れることが多い。

 

 

 そんな時、前回、面談した相談者と、日をあけて偶然続けてあたることがある。相談者は当然、窓口で「この前の紹介してもらった件だけど・・・」と、自分のことは当然覚えているよね、といった口調で話しかけてくる。思い出すこともあるが、

<はて、この人誰だっけ?>

と心の中で叫びながら、「あ~、この前の件ね~、どうでした?」と知ったかぶりをしながら時間を稼ぎ、慌ててパソコン画面で氏名や面談記録を確認して思い出すことがよくある。

 窓口で、偶然連続して同じ相談員になった場合、「私の事、覚えています?」と聞いて、「もちろん、よく覚えていますよ」とパソコン画面に目が泳ぎながら言ったら、まずその言葉は信じない方がいいかもしれない。ただ、職業相談にはあまり影響がないので許してほしいところだ。

 

 人は、自分が好意をもっている人には自分のことは覚えていてほしいという願望はあると思うが、ハローワークでは仕事探しが一段落すれば、自分のことは早く忘れて欲しいはずである。ちょうどこれくらいの距離感がいいのかもしれない。