ハローワークには、離職した人だけでなく転職を検討したいということで在職中の方もよく来られていた。初めて求職の申し込みをするとき、基本的な個人情報(氏名、生年月日、住所、電話番号、保有資格、学歴、簡単な職歴等)を登録するのだが、在職中の人から「ここへ来たことが、今の会社に知られる可能性はないのですか?」という質問を何度か受けた。
●就職活動を秘密にしたい
結論から言うとハローワークから、本人の了解なしに、個人情報が第三者に知られることはまずありえない、安心してほしい と伝えていた。
ハローワークで求職活動をしていることが在職中の会社に知られることがあるとすれば、ハローワークへ来所するところを偶然、会社の関係者に見られるリスクを心配した方がよい。(ハローワークには事業所の関係者も求人の申込や、採用に伴い雇用保険の届け出のため来所することが多い)知られたくないのであれば、ここへ来るときは周りの目に十分注意するようアドバイスをしておいた。
●厳しい個人情報管理
ハローワークでの個人情報の管理は、正直、
ここまでするか!
というくらい厳しかった。一般の大手企業が実施するセキュリティ対策レベルは当然のこととして、例えば、ハローワークの職業相談窓口では、
・職業相談員は誤送信の危険性があるため社外(個人、事業所)との電子メールは厳禁
・応募する時は、事業所に氏名を告げることを、その都度本人に了解を得て、紹介状を発行するときは本人の前で氏名欄を確認して渡す。
・面談が終われば、その都度パソコン上で開いているウィンドウは一旦すべて閉じる。
・知らないうちに個人情報の書類が混入しないように、事務所内に置いてあるゴミ箱にはすべて、蓋(ふた)をしている。
・窓口で渡した求人票やチラシや案内状で来所者が持って帰らなかった場合でも、相談員が知らないうちに個人情報に属するメモ等が書かれてあるかもしれないので必ずシュレッダーをする。
・職員が、求職者の氏名で検索して個人情報をアクセスした場合はアクセス履歴が残る。(業務上以外の目的で個人情報を参照したら、誰がアクセスしたかがすぐわかるようになっている)
・たまたま知り合いが来窓しても、自分の家族にもそのことを言ってはいけない、退職後も守秘義務があることを遵守する念書に署名させられる。 ・・・などなど
●インシデントが発生したら・・・
我々相談員も大切な求職者の個人情報を預かっているのだから、厳しいルールのもとで細心の注意を払っていた。
とはいえ、全国規模となると個人情報漏洩を起こした事案もあり重大なインシデントは公表もされている。悪意をもった漏洩事案は皆無で、ほとんどが担当者の不注意による紛失や誤送付・誤発行である。漏洩事案の当事者は、軽重はあるが懲戒処分をうけることになり、当事者の相当の精神的落ち込みはあっただろうとの想像は難くない。
私も漏洩事案はないが、ヒヤリ・ハットは6年間で2度ほど経験した。パソコンで前相談者の画面をクローズせず、そのまま紹介状を別の人の名前で発行しそうになったが、幸い、常に名前を確認する習慣がついていたので、印刷する前に気づき未然に防止することができた。普段はしないミスだが体調が悪かったり、たまたま作業中に電話が掛かってきて流れが中断した時など、ついうっかりということがあった。
個人情報漏洩のインシデントを起こすと、私のような会計年度任用職員(非正規公務員)はほぼ、次年度契約してもらえない。実質の予定解雇通告である。それぐらい厳しい処分を受けるのである。
そういう意味でハローワークの個人情報管理に関しては安心してもらってもいいと思う。
●自己開示で支援をうける方がお得
それでも冒頭の求職の申込をするとき、個人情報は「あまり言いたくない」という来所者がいた。
もちろん、言いたくないこと・知られたくないことは無理に書かなくてもいいし、自分で仕事がさがせるのであれば、最低限の項目だけを登録すればいい。
ただ、自分で仕事を探すことに自信がない、就職活動をする上でいろいろアドバイスが欲しいという場合は、できるだけ自己開示してもらったほうがよい。
例えば 第10話 私離婚します で触れたように、
単に事務職の求人を探しているだけなのか、離婚する予定で探しているのか、我々相談員も気合の入れ方が少し変わってくる。依怙贔屓していると言われそうだが、後者だと早く仕事を見つけてあげたいという気持ちがより沸いてくるのが人情というものである。
(人にもよるが)面倒見のよさそうな相談員なら、自己開示をして味方にする。ハローワークのうまい活用方法の一つでもある。