『この後って、俺の部屋に来いよって、誘わないんですか?』


終電も近い西中島南方駅の周辺には人もまばらで、

改札に向かう途中、悪戯っぽい顔ではなく普通の顔と声で聞いてくる。


普段なら懐疑的になり、言葉の真意をまずは問いただすところですが、

先ほどのやりとりですっかり恋人気分の野武士は真剣に迷う。


( う~ん、どうしよかな・・・ )

( ここでヤッたら、後戻りできへんしな・・・)

( でも、したいしな・・・)


当初はエッチどころか部屋に呼ぶつもりも毛頭なかった野武士でしたが、

ハルカの質問で一気に下半身がスイッチオン。まだまだ若武者です(笑)。


( よし、本気で愛する意味も込めて抱いてしまおう!)

( そうやな!男やったらいく時いかなアカンわ・・・)


下半身に大きく支配された決断ではありますが、

いい加減な気持ちではなく、腹を括った瞬間でもありました。


「じゃー・・・部屋に来てもらえますか?」

自然と声に力が入り低い声になりつつも、期待通りの答えを耳が期待する。


が・・・。

『フフフ♪今日は帰ります~♪』


( うん?なんて? )

( 何で?何が?いや何が何で? )

( いや、それよりマジで断ってんのか? )

( コイツ・・・殺すか?それとも犯すか? )

( いや待て待て、待ってくれ野武士! )


「そうですか・・・。え、ダメでした???」

『お母さんが門限にうるさくて~・・・』


軽く狼狽しながらも会話を繋ぐ。

変な焦りの中で、冷静さも少しずつ戻り確信を付く。


「なるほど・・・、じゃーさっきの質問は・・・」

『いつも女の子口説くときの定番文句かと思って(笑)』


( 何じゃそりゃ・・・。ナメとんかコイツ )

「何っすかソレ。誤解っすよ~」  怒りを隠す事に精一杯で言葉使いまで気が回らない。


気が付けば地下鉄の改札前。

渋々切符を2人分購入し、一緒に改札をくぐる。


『ア~楽しかったー♪ こんなに笑ったのは久しぶりです♪』

「そうですか・・・。え、ホンマに帰るんですか?」


電車を待つ間にハルカは今日を締めくくる感想を述べる。

収まりが効かない下半身の野武士はまだ今日を終わらせたくない。


「10分くらいでもいいんですけど、ダメですか・・・?」

『ハイ♪ダメですよ~(笑)』

「そうや!コーヒー飲みにきませんか!?ブルマンっぽいのんあるんですよ」

『さっき水とビールしかないって言ってたモ~ン♪』

「う~・・・じゃー猫・・・猫を見に来ませんか!」

『ネコ~?ネコ飼ってるの???へ~意外~♪』

「写真だけですけどね。昔飼ってて、逃げられたんですよ・・・」

『アハハハ!昔ってー(笑)。それに逃げられたってオモローい!(笑)』


もう必死というかお願いに近い状態。

到着した電車に乗ってからも交渉は続く。


「じゃーね、一発芸するんで、オモロかったら来てもらえますか???」

『エ~、野武士さんの事スキやから、スグ笑ってまいそーです~』


・・・この返しもどうなんですかね(苦笑)。

しかしながら、この時は鼻息荒く口説き続けてました。


「マジっすか!?じゃーコレ。テリーマン!」

『ん~?筋肉マンの???』

指で眉間を寄せ上げ、両目を八の字状にし、「筋肉マン・・・お前って奴は・・・」と声真似。

『んっ・・くくぅ・・フハハハー(笑)オモンなーい!(笑)』

「あ、でも笑ってる!!じゃー僕の家は港区なんで、次の駅で中央線に乗り換えるから」

『あ、じゃー私は天王寺で乗り換えなんで先に降りて下さいね~』


( ・・・・・コイツ。マジで言ってんのか?)

( そりゃないやろ。ほどよく混んでる状態でテリーマンやったのに・・・)

( 力づくで無理やり降ろ・・・いやいやアカン。アカン!)

( くっそ~やりたいな~)


「どうしてもダメ・・・ですかね・・・」

『はい♪また今度行きますから!』

「本当ですか~・・・」

『約束♪あ、もう着いた。すいません天王寺まで送って頂いて・・・』

「送ったというか・・・どうか・・・」


一緒に地下鉄を出て、ハルカの最寄り駅があるJRまでの地下道を歩き、

切符売り場で改めて向かい合う。


『じゃーありがとーございました!』

「はい。こちらこそ・・・。ダメですよね」(←ホンマにしつこい)

『モ~!じゃーまた連絡しますね!!』

「・・・・・・」 ギリギリ笑顔で、無言で手を振る。


小走りで改札をくぐり、いくつかあるホームの降り口に一瞬迷いながらも、

スグに見えなくなったハルカ。


( ハ~、何やってんやろ俺 )

( しかしホンマに俺の事スキなんかな・・・ )

( あ~でも、ホンマにもうちょっと一緒居たかったな~)


恋が始まるドキドキとエッチな感覚のモヤモヤ、

それに罪悪感と後悔が入り混じって、頭がクラクラする。


地下道に戻ろうとすると最終電車が発車した後で、地下道にすら入れない(泣)。

目の前にはそんな僕を見透かしたように、半笑いのタクシードライバーが待ち受ける。


仕方なくタクシーに乗り込み、自分のマンションへ向かってもらう。

車内で一服しながら今後の展開を考えていました。


本命の彼女( 今の嫁 )に告げる別れの言葉を考え、

ハルカと将来を見据えて付き合うかどうか、決心を迷っていました。


冷静に考えればもう少し時間をおいて、

お互いにもっと話し合って決めるべき事柄ですが、実際は無理でした。


ハルカが婚約中という事で何となく時限的な関係に思え、

早急に答えを出さないとハルカが消えてしまいそうな、そんな印象を持っていました。


そして次の日曜。

約束通りハルカが部屋に来るのでした。