「俺と一緒に、その子を育てよう」

「俺と結婚するんやから、その子は俺の子でエエやんけ」


今考えると、よくこんなセリフが言えたもんだと思います。

でもこの時はハルカと自分しか見えていなくて、後先は考えていません。


『ウゥ・・・ありがと』

消え入りそうな声で、でもさっきまでの切羽詰った雰囲気は消えていました。


「だから、堕ろす事も一つやけど、俺と一緒に育てる道もあるから」

「だから、な・・・」


きっと、“俺を選んでくれよ・・・”って言いたかったんでしょうが、

何となく、それは言えませんでした。


とにかく、もう少しゆっくりと考えたいとの事で、

その夜の電話はそれで終わりました。


それから数日はお互いに連絡もせず、

更に数週間が立ちましたが、ハルカからの連絡はありませんでした。


その間はハルカの事が気になりながらも月末に入り仕事で忙殺され、

心ではハルカを想っていても頭では最後の最後までお客さんを追っかけていました。


そして営業の売上ランキングで1位を獲得し、その表彰を受ける夜。

その日は締め日的な雰囲気の為、自然と仕事も速くに終わります。


大阪の有名ホテルで行われる受賞パーティーに参加し、

ランキング1位獲得者として壇上に立ち、数百名の同業者の前で表彰を受ける。


緊張や嬉しさよりも、改めてハルカの事を想い出し、

今目の前で読み上げられている賞状を持って、今夜会いに行く事にしました。


『・・・もしもし』

少し長いコールの後、ハルカは普段とあまり変わらない声で応えました。


「オォ…、元気・・・?」

『ウン。ゴメンね・・・ずっと連絡できんくて・・・』

「いや、エエよ。それより、今から会いに行ってもいいかな」

『・・・どしたん???』

「いや、お茶でもどうかと思ってね」

『わかった。じゃー駅前で待ってる』


ハルカの最寄り駅まで大阪環状線を使って移動中、

あまりにも普段通りのハルカの声に妙な違和感を感じました。


何となくですが、決意というか吹っ切れたような、

そんな女性特有の強さを感じました。


そして駅に到着し、数週間ぶりのハルカに会いました。

地元という事もあってか、ラフなジーンズにヨレヨレのTシャツ。


足元は恐らくお母さんのだと思いますが、年配者用のスリッパ。

そう。そんな素朴な感じの君に惹かれたんだよ。


『お疲れ様で~す』

やはり普段通り。逆に僕がドギマギして目を合わす事が出来ない。


『とりあえずソコのカフェにでも行く??』

「カフェって言うな。喫茶店って言え」

『ハハハ~また言ってる(笑)』


そんな雰囲気で席に着き、注文した飲み物に口をつける。

僕自身も少しづつ久々のハルカに慣れてきました。


「これ、もらってくれよ」

『賞状?あ~ランキングで1位になったんや!』

「確か前に約束してたやろ。お前の為に取るって」(←意外とドラマチック・照)

『わぁ~スゴぉ~。これで何回連続?』

「ん~、4回かな」

『本当に頑張ってるね。でも大切な賞状は家に飾ってよ』

「いや俺それ嫌いやねん。だから今までの賞状も捨ててるねん」(←アホ)

『エ!?捨てたの!?』

「うん。受賞したホテルの出口に毎回捨ててるねん(笑)」

『ほんまヘンコやね。カフェはサテンって言うし(笑)』


そんな普通の会話でしたが、僕にとってはジャブのような会話。

そして本題に入ります。


「・・・その後、子供は順調か?」

『あ~、うん・・・順調』

「そうか。で、どうするかは決めたんか?」

『うん・・・実は何も考えてなくて』


やはり妊娠のショックと嬉しさとで、

これから誰とどの未来を進むかなんて考えられないでいると思っていました。


が、ハルカから出る答えは僕の予想外の言葉ばかりでした。