『でも弱い女なんで、誘われたら断れませんよ~』
『・・・ダメな女なんです私~』
「だ、大丈夫ですから!」 (←かなりグラつくが、誠実さをアピール)
『解りました。じゃーお部屋に行ってお料理します!』
結論を先送りにしたせいか、そこからは普段通りの楽しい会話に戻り、
とんとん拍子で約束は決定。
その週の日曜日、お昼前にハルカは僕の最寄り駅まできました。
薄いピンクのキャミソールにジーンズ姿のハルカは本当に可愛かった。
僕はと言えば前回の焼肉と同じジーンズに黒のポロシャツ。
足元はツッカケ。それを見たハルカがクスっと笑う。
「すんません。服に無頓着で・・・。昔はお洒落やったんですけど・・・」
『エ~何も思ってないですよ???(笑)』
ポカポカした明るい日差しの中で会う事が新鮮で、
妙に照れ臭く、口数もまばらなまま近所のスーパーへ直行。
『お昼、何がイイですか・・・』
「カレー・・・で、お願いできますか・・・」
軽く頷くハルカに4~5千円を渡し、スーパーの外でタバコを吸う。
今でもそうですが何となくスーパーが苦手で、いつも外で待ってしまいます。
約30分ぐらいで買い物を終え、マンションに向かって再び歩き出す。
何となく新婚や付き合い始めのカップルに思え、それが妙に場違いな感じが胸に広がる。
その頃の部屋は1DKで、あまり家に居なかったせいか整理整頓はされていました。
中が狭いという事もありましたが性格上、必要最低限の物しか置いていません。
その為、キッチンには皿とコップとお箸が2つずつ。
他には小ぶりの鍋とフライパンが一つずつあるだけ。
『エっ!?調理器具はコレだけ!?ですか・・・?』
そのシンプルさに驚いたハルカが素っ頓狂な声で聞いてくる。
『う~・・・、解ってればお家から持ってきたのに・・・』
子供の泣き顔のような感じでつぶやき、早速調理にかかる。
スグにフライパンから何か炒める音と、小刻みに刻む包丁の音が聞こえる。
僕はこのキッチンから聞こえてくる音がとても大好きで、妙に心が落ちついた事を覚えています。
『とりあえずコレとビール呑んでてもらえます???』
見ると軽く炒めたネギと醤油を乗せた豆腐。
『何か一人暮らしの人には、大豆を食べさせてあげた方がいいって・・・』
『でも嫌いなら置いてて下さい・・・ね』
あまり好き嫌いがない僕は、昼からアルコールを摂る事に軽い抵抗を覚えながらも、
スーパードライのタブを上げ、乾いたノドを潤し、豆腐を口に放り込む。
「うまい・・・」
辛口のドライに、豆腐が絶妙の甘さを口に残してくれます。
『よかった~。これでちょっとは自信がつきました!』
料理に集中しながら背中越しに応えるハルカ。
思わずこんな日常を想像してしまう。
少しずつ本命の彼女に対する罪悪感が薄れ、今の幸せに流されそうになる。
『もうちょっとで出来るので、飽きずに待ってて下さいネ!』
ボンヤリとタバコを吸いながらキッチンのハルカを眺める。
徐々に慣れてきたのか、冷蔵庫から素早く食材を出し、
そのままフライパンに投げ入れ足で冷蔵庫のドアを蹴って閉める。
『あ、ゴメンなさ~い(笑)。ちょっとクセで・・・』
『お行儀悪いですね・・・。あ、ビールってまだあります???』
鍋の中のカレーと僕とをリズミカルに気遣い、
基本的に家では無口な僕を楽しませてくれる。
もし、もし婚約者から奪えば、こんな幸せが続くのか・・・。
もし、本命の遠く離れた彼女に別れを告げれば、こんな素朴な喜びが得れるのか・・・。
少しずつ、でも確実に気持ちはハルカに傾きながら、
こんな将来も悪くないという考えに頭と心は支配されていきました。
そしてご飯が炊き上がると同時にカレーも出来たようで、
そそくさと皿に盛り付け、2本目のビールを僕に手渡す。
定番の福神漬けは皿がなく、ビニール袋の上に直接置く。
何となく、こんなどうでもいい事に妙な幸せを感じて、微笑みが止まりません。
『エ?何か間違ってました???』
『やっぱダメでした?ビニールの上にお漬物って・・・』
こんな勘違いをするハルカや、
自分の皿よりも多くお肉などの具材を入れてくれるハルカ。
そんなハルカでもう頭と心は一杯になり、溢れそうになってきました。
そして溢れそうな分、婚約者や本命の彼女が消えていきました。
「いただきます!!」 合わせた手の平に力を込めて言う。
ハルカを奪う決心が付いた瞬間でした。