≪この間はスミマセンでした…≫


ハルカの会社で一悶着を起こしてから1週間後、

この題名で僕の会社のPCにメールが来ました。


前回ああいう暴れ方をしたのだから、

始末書なり何なりの処罰があるハズ…。


ですが野武士の会社の社長も基本的には僕と同じスタンスで、

ハルカの会社から抗議があったようですが逆にブチ切れ、ウヤムヤになったとか。


この場を借りてお礼を言います。

社長、いつもスンマセン!!


とにかく支障なく、ただ多少空っぽになった僕の胸を、

春風のようにそのメールは通り抜けていきました。


恐る恐る本文を舐めるように読む。


≪この間は本当にスミマセンでした。野武士さんの大切なお客様を無視していました≫

≪私の会社には結構そういう考えの人が多くて、ちょっと疑問には感じていました≫

≪だから野武士さんの考え方が正しいと思います。それだけです≫


ちょっと意外でした。完全に嫌われている為、来るハズがない連絡が来た…というより、

固定されたベクトルに疑問を感じ、共感した相手に自分の考えを告げられるとは…と。


恐らくこの時からでしょう。

ただの可愛い女から、一人の女性として意識し出したのは。


≪野武士です。わざわざご連絡を頂いてありがとうございます≫

≪前回は大人気ない事をしました。でも後悔はしてなくて…≫

≪やっぱりアイデアとか時間とか、限られた中でも精一杯の頑張りをしたくて…≫


固めの内容でスタートしたメールは1~2通の割合で毎日送受信し、1ヶ月。

プライベートには近づかないものの、いつしか柔らかい会話へと変化していきました。


≪ハルカです。今は社内報の息抜きの部分、グルメ旅行の編集記事を担当してて≫

≪私のレパートリーなんて2~3回で終了(笑) 野武士さんなら美味しいお店知ってそう☆≫


彼女から届くメールは大体が夜。僕が返信メールを打つのは次の日の朝。

目が覚めたベッドで一番に考える事は、このハルカからのメールでした。


≪野武士です。仕事以外で週間の編集記事を持つのは大変ですよね≫

≪僕はあまり知らないけど、ちょうど友達が北区で鉄板焼きの店をオープンしました≫

≪今度、良ければ一緒に行ってみますか?ハルカさんが僕を怖くなければ…ですが≫


何気ないメールのやり取りが楽しくて、気が付けばデートに誘っていました。

これも気が付けば…ですが、ハルカの事を好きになっていました。


≪追伸、もちろん下心はありません。純粋にハルカさんの編集記事へのご協力です≫


いつものサイクルで考えるとメールの返事は明日の朝。

朝礼が終わったばかりなのに、もう明日が待ち遠しい僕には一瞬、信じられませんでした。


≪ハルカです。全然大丈夫ですよ~☆≫

≪野武士さんは本当は怖い人じゃないし、狼にも変身しなさそう≫

≪時間と日にちは野武士さんにお任せします。じゃー今から取材行ってきま~す!!≫


返信の為のキーボードを打つ度に曖昧な気持ちが核心に変わる。

確信に変わる度に指先が振るえ、鼓動が早まる。


送信ボタンを押すと同時に、僕の恋は走り出しました。


静かに海岸へ打ち寄せる波のように、決して止む事がないとさえ感じられたこの恋。

しかしながら嵐のような大海原で、僕という小船が二転三転し、最後には転覆する。


そんな恋の始まりです。