『1年後に式を挙げるんです…』
ハルカが婚約中だったとは夢にも思わず、
かなり衝撃的で、その事実を頭が受け付けません。
(じゃー、何で俺と二人で食事に来たんやろ…)
(仕事上での付き合いか…)
(でも、そんな付き合いを大事にする程、仕事好きかな…)
そんな逡巡を巡らせながらも何とか会話に戻る。
「じゃー今がとても幸せなんじゃないですか」
『ウ~ン、そうでもないです』
「マリッジブルーってヤツですか?」
『本当にこの人でイイのか解らなくて…』
「何か問題がある人なんですか?」
『ウ~ン、あまり好きじゃないんです。私が…』
(ん?…どういう事?)
「ん?…どういう事?」 思いがそのまま口に出る。
『付き合って長いんですけど、何か私は仕事が出来ないタイプで』
『それで結婚しかないって思って、流される感じでプロポーズを受けました』
『お母さんからは辞めるなら今のウチって言われるし…』
『フ~…』
どうやら本気で悩んでいるようでした。
聞けば彼氏とは中学生からの付き合いで、今がちょうど10年目。
以前は整骨院でアルバイトをしていたハルカが出版社に入社し、
あまりに社会的知識がなく、周りに付いていけない。
それで自分は一人で生きていけないタイプだと考え、
以前より適当に断っていた彼氏のプロポーズを受けて3ヶ月目…という事でした。
でも、まぁ婚約中なら仕方がない…という事で諦める事にしました。
残念な気持ちと、まさか婚約中の人は口説けない…という葛藤を胸に感じながら。
それからは他愛もない話が続き、終電も近い事からお開きになりました。
念の為、ハルカの帰る地下鉄まで見送る事に。
『ご馳走サマでした…美味しかったです~』
「いや、それより申し訳ない。婚約中の人を誘ってしまって…」
『ア~全然大丈夫ですよ♪今度は私がご馳走しますからネ!』
「え!?また行って頂けるんですか??」
『はい!さっきの彼女の事も気になりますしね…♪』
今の嫁との婚約は秘密にして、文化の違い(僕の嫁は韓国からの留学生です)や、
人生観の違いなどで悩んでいる事を、他愛もない話の中で相談していたんです。
「そうですか…。じゃー行きましょう。是非行って下さい (笑)」
社交辞令のつもりでそう答えました。
『じゃーメルアド交換しましょう♪』
ちょっと酔っているのか、軽くフラフラしながら赤外線受信を行います。
やがて電車がホームに滑り込み、開いたドアへ体を乗り入れるハルカ。
「気を付けて下さいね!じゃー!!」
発車のアナウンスと共にドアが閉まり、窓に額を付けたハルカが無言で手を振る。
その時の目が、今まで酔っていた時の目とは違ってハッキリとしている事に気づく。
(アレ…酔ってなかったのかな…)
そう思い始めた頃には電車が走り出していました。
(俺に気があるのかな…)
(まさか結婚を止めて欲しい??)
(いやいや、それはないわ。それは…)
ドキドキワクワク…というよりは、
怪しむような懐疑的な想いに囚われながら家路につきました。
(まぁ、もう会う事はないやろ。仕事以外では…)
(まさか焼肉にホンマに行ったりして(笑))
そんな思いの様に、この夜でハルカとの恋が終わっていれば、
あんなに悲しい事にはならなかったのに…。
そうです。約2週間後に行きました。
二人きりで焼肉へ…。