「君が手にするはずだった黄金について」小川哲
黄金律とは就活エントリーシートの〝自分についての円グラフ〟の記入。優等生な記入をしたところで、それはたぶん企業は求めている答えではないのだろう。では、どうする。瞑想しすぎて進まない大学院生の話で始まるいずれ小説家となる小川の物語。「三月十日」東日本大震災のあった、2011年3月11日の前日。物語の中でもみんなが3月11日を詳細に語り、その日なら忘れっぽい私でさえかなり細かく思い出すことができる。たしかに、その前日私は何をしていたのか。「君が手にするはずだった黄金について」多くの道徳的な規則が〝黄金律〟に基づいていてそれは私たちが幼い頃から教えられてきた〝自分がしてほしいことを他人しましょう〟的なやつだそうだ。裏を返すと〝自分がしてほしくないことは他人にしないようにしましょう〟となり、これを〝銀色律〟というらしい。確かに呼び方さえ知らなかったというのにいつのまにか植え付けられている〝黄金律〟。その〝黄金律〟に沿ったのかもしれない高校の同級生の事件。結局彼は何を求めていたのか。・・・短編小説になっていて主人公と同じようなテーマで自分のことも考えてしまい、なんだか面白かった。物語の中で人は誰かに認められたいともがいている。現実でも承認欲求は溢れまくってている。人によく見られたくてちょっと盛り、自慢ぽくつぶやき、人の手柄を我が物にする。本当の自分を偽っても、知らない誰かからの〝いいね〟が欲しい!私はこの欲求からできる限り逃れたい。でもなかなか手強いのが現実だけどねー。・・・「君が手にするはずだった黄金について」小川哲新潮社