光の中の闇

 

医者の家に生まれた結珠には

選択権も決定権もない。

周りから見ればきっと、羨ましいくらいの生活。

十分に与えられ、丁度よく何でも用意してくれるのだから。

気になるのは常に薄いママの愛情くらい。

でも気をつけなくてはならない。

自分の通うお嬢様学校の友だちの前では

普通の幸せな家庭の子どもを演じて

この不自由さを抱えた私がバレないように。

あの子たちは本当の私を知らない。

 

・・・

 

唯一本当の私を知っている子がいる。

習い事のない水曜日にママが私を連れて行く

〝団地〟というところに。

5号棟の下で30分ほど動かずに待つというママとの約束をやぶって、

こっそり一緒に遊んでいる果遠ちゃん。

私とは全く違う環境で生活しているのがわかるけれど、

学校のお友だちとは違って

果遠ちゃんには嫌われたくなかった。

でも、別れは突然にやってきて

あの日を最後に果遠ちゃんに会えなくなった。

子どもにはどうにもできないことだらけ。

だって親は絶対の存在。

 

・・・

 

結珠はずっと気になっている。

果遠ちゃんが待っててと言ったところから

お別れも言えずに離れなくてはならなかったこと。

 

果遠も同じことを考えている。

そして結構大胆な作戦で再会を企てる。

 

・・・

 

子どもの頃の絶望的な不自由さは大人になったら

わりと簡単にどうにかできることもある。

そしてあのころ光って見えていたところには、

実は闇も存在していたことにも気づく。

それが大人になるってことなのかなー。

 

・・・

 

「光のとこにいてね」一穂ミチ

文藝春秋