消えたのではない
向こう側に往ったのだ
ゆっくりと鴨川の空へと舞って往った
鳶のような大きな鳥を見送りながら
思った
消えるのではない
ただ 視えない向こう側へ往くだけ
あの鳥は今でもずっと
空の向こうへ向こうへと
旋回しながら舞っているんだ
京都、鴨川にかかる四条大橋から眺める空は
夕方の熱気に色づいて
湿気とも雲とも霞ともつかぬ靄を孕みながら
たおやかに風そよいでいた
おおらかな空にゆうゆうと
これまたおおらかに渡る鳥は
往きつ戻りつ 戻りつ往きつ
なんだか本当に暇つぶしのように
酒に酔うように
舞っていた
往きつ戻りつ 右へ泳いでは 左へ返し
左へ泳いでは 右へ返し
扇をひらりひらりと泳がせるように
しゃぶしゃぶ肉を ひらりひらりと
それは違うか..
あの鳥が酒に酔うように
空を泳いでいるとして
我々にんげんみたいに
モノを喰らいながら、酒を煽りながら
何かをするということはできないのだろう
鳥が、 右手に酒瓶を持ち
左手にししゃもをつまみながら
あの地上高い高い空の風に乗っているとは
考えがたい
あの鳥は今
空を飛ぶ 風に乗る
それだけに 全力と全神経を委ねている
のだと思う
優雅なものだよなあ
にんげんのわたくしなんぞ
片手にグーグルマップ
もう片方の手に日傘がなくては
地上を歩くことすらママならぬというのに笑
鳥さんはすごいなあ
両手に何も携えず
あんな空高い "無" の空間を
ただ 風と 眺めと 己の羽根だけで
ゆうゆうと 飽きもせず
楽しみながら旋回している
わたしが見上げる空から
わたしから視えなくなるくらい
遠くの空まで
ゆうゆうと ゆらりゆらりと
長い長い 酔いを楽しんでいる
わたくしなんぞ
まだまだ器のちっさい
ちっぽけなにんげんだなあ
鴨川の 身を洗うような流れを
ただただ眺めながら
どうしても考えてしまうような
にんげん界での"くだらない"出来事を
水に流そうと 何度も念じた
消えてゆくのではない
ただ 向こう側へゆくだけ
鳥の角度によって
体の面積が大きくなれば視え
小さくなれば視力では追えなくなる
ただそれだけ
ずっと、戻ってくるだろうかと
佇んで待ってみたけれど
鳥さんは向こう側へと
進路を変えなかったようで
ついぞわたしの視界へは
現れなかった
わたしの父も 母も
あんな風なのかもしれぬ
わたくしどもはまだ地上にいるから
"視えなく"なっただけで
彼らは彼らなりに
往くところがあったから
こちらからあちら側へとお渡りになったから
"視えなく"なっただけで
元気にしてるかなあ
してるといいよな
喧嘩しないで
ぼくのこと
ぼくたちのこと
心配はせずに
見守ってくれてたら
見守ってくれてる気がする
京都へ
ここ祇園四条あたりへ
鴨川付近へくると、いつもこんな気持ちになる
街全体に緑や川や風が豊かで
なぜだか神秘的な気持ちになるんだ
この世とあの世をつなぐ橋
そんなものがほんとに存在するのならば
実はこの辺りが一番
その橋に近いからなのではなかろうか



