ツンツンと伸びた横髪を揺らして闊歩する。
41歳 峰岸ケン、独身ワケアリ、ホールチーフ。
「すぃませ〜ん」
店内で手を上げて呼ぶ女性に乾いた声で返事をする。「少々お待ちくださぁい」
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マックのハンバーガーからピクルスを抜いたらもうそれはハンバーガーとしての価値がないのと同じくらい、峰岸はこの店には"いないとどこか寂しい"看板のような男だ。
かと言ってそれほど愛想がよい訳でも、イケメンな訳でもない。ただ、この店の性格を一番表しているのが、皮肉にもこの男なのである。
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かちゃり、という派手な音を余りさせずにスイスイとテーブルに注文の品を置いてゆく峰岸。
ある時はクリームソーダ、またある時はオムライス。彼の手にかかれば5、6品の皿やグラスはひょひょいと担ぎ上げられて各テーブルへと撒かれてゆく。
新人の、一つの品をグラグラと頼りなくテーブルへ運ぶ様とは、雲泥の差であった。
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やっと女性客のいる4人グループの座る席へとつく峰岸。
女性客「コーヒー」
峰岸「コーヒー、アイスとホットは」
女性「アイスの氷なし!」
峰岸の眉がピクリと動くも、ポーカーフェイスを押し通す。
隣の男「それアイスじゃないね」
峰岸「氷なしですね」
隣の男「すぃませんね」
いえと最低限の反応をしてツイと踵を返す峰岸。オーダーを通しにキッチンへとゆく道中も、さながら掃除機のようにガシガシと各テーブルから皿やグラスを吸い上げてゆく。
さっきのような女客の態度などで、毛程も動くマインドではない。
そう、彼は看板でシゴデキである上に、ハイパーサイコパスなのである。
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つづく