「ミレ…」 脚本スケッチ | 森由 壱 - tune bride -

森由 壱 - tune bride -

... という 、夢を視ました 。

 

「ミレ…」

 

登場人物

ゆみこ(24)

影男(年齢不詳)

 

■道・夕方

雨が降っている夕方の帰り道でうずくまる主人公ゆみこ(24)、に背後から傘を差して立ち尽くす影男(年齢不明)。

ゆみこ視界が暗くなっている事にハッとして振り返る、影男にびっくりして「ワっ」と声が漏れてしばらく口を開けて無言。

傘を差してもらっている筈なのに雨粒は相変わらずゆみこに当たっている。

ゆみこ「その傘、穴空いてません?」

影男「そうですか?」

雨の音「ざああああ」

影男「心のきれいな人にだけ雨を防げる傘なんです」

ゆみこ「誰が汚いねん!」

 

 

■ゆみこの家の前・外

不審がるゆみこを気にせず家まで送る影男。

そのうち雨が上がる。

鍵穴に鍵を差し込むゆみこ。

影男「失恋したんですね」

ゆみこガコンと鍵を回し損ねる。

ゆみこ「失礼な」

影男、ゆみこの横顔に手を差し伸べて

あごをくいっと自分の方へ向ける

ゆみこ「痛い痛い」

影男、ゆみこの顔を服の袖で拭く

どろっとした感覚で不快になり

ゆみこ「いや、びしょ濡れやし!」

なぜか泥のついていた影男の袖に拭かれて、

余計に汚れたゆみこの顔。

影男「失恋にぴったりの曲があります、聞きますか?」

ゆみこ「帰ってもらえます?」

影男「わかりました」

ふっと消える影男

ゆみこ「えっ…」

 

■ゆみこの家・内

家のユニットバスで服を全部脱ぎ足を洗おうとするゆみこ、

鏡を見て

ゆみこ「いや泥だらけやん!…あんの男!」

全身シャワーを浴びながら悲しい筈なのになぜかおかしく

泣きながらそれでも笑いで吹き出すゆみこ

 

■お風呂場・脱衣所

お風呂から上がるゆみこ

そこに立っていた影男

ゆみこ「ぎゃあああああ」

影男、ゆみこの口を塞いで

影男「しっ」

影男の手の冷たさと恐怖で

ゆみこ、泣きそうになりながら言葉が出ずに影男をひたすら見て

がくがくと震えている。

影男「ご近所迷惑になりますよ」

ゆみこ、声を振り絞って

ゆみこ「いや、お前がな!」

影男、ゆみこの全身をまじまじとみる

ゆみこ、ハッと我にかえって

ゆみこ「きやあああああああ、変態!痴漢!」

そこらにあるもの全てを投げつける

影男をスルッと抜けてなんにも当たらず影男

平然と立っている。

ゆみこ「なんで当たらへんねん!」

ゆみこ手当たり次第投げ続ける、当たらない。

影男「心のきれいな人には当たらないのですよ」

ゆみこ「誰が汚いねん!」

ゆみこ、ムキになりながらなにも投げるものがなくなり恐怖で腰がぬけてくたくたと狭いユニットバスにくず折れそうになる。

影男、すかさずゆみこを抱き支え、

影男「おっと危ない」

ゆみこ、へなへなと

ゆみこ「いや、お前がな…」

 

■ゆみこの部屋・リビング

部屋着に着替えたゆみこと

居座ってなかなか帰らない影男、

しまいにゆみこ折れてお茶を淹れ出す。

ゆみこ「あんた、うちやなかったら警察行きやからな」

お茶を淹れ終わりソファーに座っている影男の前のテーブルに置く。

影男「こんなに優しいお嬢さんを泣かせるなんて」

ゆみこ「おまえや!」

影男「ぼくは優しいですよ」

ゆみこ「優しかったらストーカーなんかしいひん!」

影男「泣いてうずくまっている女性をほってはおけません」

ゆみこ「やってる事不法侵入やん!」

影男「あ…」

あからさまに話を逸らそうと

壁にかかったギターに視線を向ける影男。

ゆみこ「ちっ」

影男「ギター、弾くんですか?」

ゆみこ「前の男が置いてったの!」

影男「ああ、きみを泣かした」

ゆみこ「うるさいわい!」

影男、立ち上がってつかつかとギターに歩み寄り、壁から外して

ストラップを肩にかける。

ゆみこ、口を開けて眺めている。

影男「ぼく、ギター弾けるんです」

ゆみこ「…あんた、イカれてんで?」

影男、ギターをポロンと弾く。

ギターの音「ミレ〜…」

調弦の狂ったギターの音。

影男「イカれているのはこのギターです」

影男、もう一度「ミレ〜…」と弾く。

ゆみこ、しばらく待ってから

ゆみこ「いやそれだけかいっ!」

影男「今の音、何か分かります?」

ゆみこ「なんて?」

影男、もう一度ポロンと鳴らす。

ギターの音「ミレ〜…」

ゆみこ「知らんし」

影男「これはね、ミレって弾いたんです」

ゆみこ「出たよ絶対音感アピ。…あんた、音楽やってたん」

影男「少しはね」

 

影男、おもむろに奏でだす。

ゆみこ、少し乗ってきながら

ゆみこ「いやちゃうねん!あ〜うまいな〜、ギターうまいな〜、ちゃうねん!」

影男、相手にせずゆみこへ微笑みかけながら弾き続ける。

ゆみこ、体は乗りながら必死に

ゆみこ「だからふんふんじゃないねん!はよかえれ!変態!不法侵入!ストーカー!!」

ゆみこ、影男の音楽に乗りながら叫びながらだんだん涙が溢れてくる。

影男、演奏を続ける、激しくなる音楽。

ゆみこの涙も激しくなり、嗚咽に変わり、床にくず折れて本格的に泣き出す。

壁の音「ドドドドドン!」

ゆみこ「ぎゃああああ!」

壁の向こうから「うるさいわ!」

影男「ご近所迷惑でしたね」

ゆみこ、さらに激しく泣き出す。

ゆみこ「わああああああん」

 

影男、やさしくゆみこに寄り添って

影男、ミレ、ミレ、と乗りながら繰り返す。

ギターの音「ミレ、ミレ、ミレ、ミレ」

影男「ゆみこさんも一緒に歌って?」

ゆみこ「いやなんでうちの名前知っとんねん!」

影男、ギターの音に合わせながら

影男「ミレ、ミレ、ミレ、リピートアフターミー」

ゆみこ「なんでやねん!」

影男「ミレ、ミレ、」言いながら影男片手を耳に当てゆみこに

リピートアフターミーをさせようとする。

ゆみこ仕方なく嫌そうに

ゆみこ「ミレ、ミレ、ミレ…」

影男、続けながらゆみこを見つめて首を横に傾ける・

ゆみこ、影男の様子を不気味に感じながら

ゆみこ「ミレ、ミレ、ミレ…なんやねん!」

影男同じ姿勢でギターを弾く手を止め、歌うのをやめ、

ゆみこを見続ける。

ゆみこますます怖くなり、耐えかねて

ゆみこ「なんやねん!」

影男、間を置いてギターを「ミレ…」と鳴らし

影男「ミレン…」

ゆみこ「…」

影男、今度は反対側にカクっと首を傾け

ゆみこ怖さと怒りに耐えかねて目をつぶって

ゆみこ「いや誰が未練たらたらやねん!」

テーブルのティーカップを投げつける。

カップ、影男をすり抜けがちゃんと壁に当たる。

たしかに当たった筈なのに体をすり抜けたカップに

ゆみこいよいよ本格的に怖くなり、

ゆみこ「なんでやねん!なんでやねん!なんでやねん!!」

パニック状態になるゆみこの肩を抱いて影男、

影男「心のきれいな人間には当たらないのですよ」

ゆみこ、ぐすんぐすんとぐずりながら

ゆみこ「お気にのカップやったのに…ぐすん、ぐすん」

影男、ゆみこの涙を拭こうとする。

ゆみこ「アンタなんか大っっっっっ嫌いや!!!」

スパァンと影男の頬を叩こうとしてするんとすり抜けるゆみこの手。

その瞬間影男、フワッと消える。

壁にかかったギターが「ミレ…」と鳴る。

ゆみこ、呆然とする。

目をぐしぐしと拭いてもう一度目をパチパチと開けると

そこにいる影男。

ゆみこびくっとして

ゆみこ「ほんまになんやねん…」

 

影男、いつのまにかギターを壁にかけ、ゆみこの肩に手をおく。

ゆみこ、影男の手の冷たさにビクっとする。

影男、そっとゆみこの耳元にささやきかける。

影男「大丈夫、男でできた穴はもっといい男で埋めるんです」

ゆみこ、ひくつきながら

ゆみこ「ひくっ 大丈夫やないわいこのストーカー!変態!絶対アンタやないことは確かや!」

影男「おかしいな、心のきれいな人ならぼくで埋められる筈なんだけど」

ゆみこ「だから誰が心汚いねん!」

 

■朝・ゆみこの寝室とリビング

ベッドから目覚めるゆみこ。

いつの間にか爆睡していたらしい。

起き上がり、リビングに行くと、

テーブルを見ると見たことのないかわいいティーカップがある。

カップの傍に手紙が置いてある。

 

影男の手紙の内容

「きのうはおどろかせてごめんね。

これ、きみがお気にいりだったティーカップに似たものを買ってきたんだ。

つかってね。

きみのことが前から気になっていて、道端で泣いていたものだから、

つい出過ぎた真似をしてしまったね。

もうぼくはきみに未練はないから、心置きなく次の男に行ってね。

応援してる。」

 

ぼおっと見返すゆみこ。

お茶を沸かしてティーカップにそそぐ。

ゆみこ「ふう…」

 

ギターの弦が切れて「ミレ…」と鳴る。

びくっとするゆみこ。

ゆみこ「いや未練あるやないかいっ!」

 

終わり