わしゃしゃしゃ
夕一(ゆういち14歳)の頭を触る黒髪ロン毛の高身長。平(たいら19歳)。
夕一むっとして、睨む。
平)何、むっとしてんの笑
夕一)髪型崩れた
夕一、やり返したくて平の頭に手を伸ばす。
ヒョイッとすかした平、夕一の腕の下に潜り込んで脇から夕一を抱え上げる。
夕一)わ!反則!反則!
平)ははははは
夕一)降ろして
平、夕一をドサッと降ろして
平)またな
片手を額から前に投げてクルッと前を向き走ってゆく。夕日の中へ、長髪を揺らして走ってゆく。
夕一、ドサッと降ろされて少し痛んだ足首に気を取られつつ髪を片手で確かめるように触りながら平を見送る。
夕一)んだよ!
弱冠地団駄を踏みつつ二の腕を鼻先に近づけて袖を嗅ぐ。平の匂いがした。
× × ×
回想シーン 5年前 9歳の夕一 15歳とサバを読んでいる14歳の平(コンビニ店員)
コンビニでポケモンカード入りのチョコを見つめる夕一。周りをこっそり見て半ズボンのポケットに滑らせる。
コンビニの扉が開く音。
夕一立ち上がりコンビニの入り口へと歩く。コンビニの店員をしている平、夕一の襟首をつまんで
平)ちょっとぼく?
夕一ぎくりとして静止、振り返る。色の白い細身の店員(平)、夕一を覗き込む。艶のある髪を後ろで縛っているが、一筋額から髪が夕一の顔の方に垂れかかっている。
夕一、平に見つめられておどおどする。平じっと夕一の顔を覗きこんで細い目をさらに細める。
平は自分の左のポケットに手を突っ込んで夕一に向かって首を傾げる。夕一、バツが悪そうに自分の右のポケットに入れたポケモンカード入りのチョコを取り出そうとする。
その時コンビニの裏の扉が開き、店長が
店長)平くん?
店長に背を向けるかたちになっていた平、平の背に隠れて店長からは見えない位置にいる夕一。
平、店長の声にぴくりとして泣き出しそうな夕一をじっと見て、夕一のポケットから出そうな右手の手首を抑える。
店長)平くんちょっと裏たのむ
平)今行きます
夕一をじっと見た侭そう声を張る平。左目でくいっとウインクして夕一をくるりとひっくり返して背中をぽんっと押す。
夕一弾みがついて前進し、コンビニの自動ドアが開いてピロリンピロリンと音がなる。
平の声)ありがと〜ございました〜〜
ガタンとコンビニの扉が後ろで閉まる。夕一、緊張と冷や汗でおぼつかない足取りで早足でコンビニから去る。
夏の日差しと蝉の声。
× × ×
時間経過。3時間後。
閉館間際の薄暗い図書館で寝ている夕一。
突っ伏した夕一の茶色く柔らかい前髪をかき上げる白い手。
夕一)ん..
眠そうに顔を机の上で転がす。夕一の髪をかき上げた侭、その様子をじっと見る平。コンビニの制服は着替えられて、薄いカーキのシャツにクリームベージュのキャスケットを被って艶のある黒髪を解いて垂らしている。
夕一)んん..
平)起きろ
夕一、しばしばとまばたきをする。声のする方に目線をやる。
長い髪の奥に先程見た顔があり、ぽかんとする。
平)閉館だぞ
夕一)なんで?
平)行くぞ
平、夕一の肩を持ち上げ体を起こす。
夕一そろそろと椅子から降りる。その間に平長い髪を揺らして図書館の自動ドアを出てゆく。夕一、そろそろと着いて行く。
すっかり暗くなった外。
自転車置き場で自分の自転車のスタンドをがちゃんと外している平。
夕一)おにいちゃん、だれ?
平)コンビニの店員だよ
夕一)どうしてここに居るの
平、自転車を支えながら振り返る。
平)本を返しに来たんだよ。悪い?
夕一、口をつぐむ。風が平の方から夕一のいる方角へ吹き抜ける。日も暮れて昼よりは涼しい。
夕一)なんでぼくを庇ったの?
平)なんで万引きした?笑
夕一、口をつぐむ。平、暫くして
平)のる?
夕一、きょとんとしている。
平)送ってってやるよ。
平、自転車の後ろをポンと叩く。自転車がギシっと鳴る。
夕一、暫く突っ立って
夕一)壊れない?
平)バカヤロウ笑
平自転車のスタンドを再び下ろしてフワッと小柄な夕一を後ろの荷台に座らせて自転車を支えながら自分もサドルに乗る。
平)家どっち?
夕一)..
平、漕ぎ出す。
夕一)真っ直ぐ。
自転車がガタガタと揺れてバランスを崩しそうになって夕一は平の腰にしがみつく。
平)真っ直ぐね!
平、ガタガタと自転車を漕いでゆく。
× × ×
回想終わり 現在 夕一14歳(1歳サバを読んで黒服のバイトをしている)
寮のベッドで目を覚ます夕一。平と別れてから帰宅して少しの間、うたた寝していた。両手を上げて寝る癖がある。手を胸の方に動かすと、肩と手の隙間にコロンと転がるもの。さっき平がくれたものだ。
手に収まるサイズの透明の袋に限定もののポケモンレアカードのパック。チョコらしきもの数粒。
夕一、ゴソゴソとリボンを開けてチョコを取り出し銀紙を剥いて口に入れる。頬張りながらポケモンカードを出そうとするとはらりとカードが一枚ベッドに落ちる。平の字だ。
発色のいいオレンジと薄い水色で彩られて、
"夕一15歳おめでとう”
夕一)だから14
”これでお酒が呑めるね”
夕一)呑めるか!
夕一は平のボケに笑いながら口の中のチョコをニヤニヤと呑み込む。インターホンがぷるると鳴る。
メッセージカードの最後まで読まずにベッドに起き、急いでベッドから降りる夕一。出勤の時間だ。インターホンのボタンを押し、
夕一)今出る!
あらかた仕事着に着替えて寝ていた夕一、ハンガーに掛けていたチョッキを羽織って外に出る。
× × ×
黒服代表)素敵なお客さまいらっしゃしました
黒服みんな、夕一)いらっしゃいませ!
店内No1の姫が太ったおっさんを連れて席につく。
姫)じゃ着替えてくるね〜
おっさん)早くして
姫)シャンパン開けといて♡
おっさん)っはは はいはい
言っといでといいながら手をしっしっと向こうにやる。
夕一、ツメシボをおっさんに広げて差し出すとおっさんゆっくり右手を出して、にやにやしながらおしぼりを出している夕一の左手の甲の下からデロリと触る。夕一ビクリとして睨みつけながら口角を上げる。
おっさん)新しい子入ったの?
声を張って向こうの顔見知りの黒服代表に声をかける。
黒服代表)あ〜、その子先週入ったばかりのボーイで
黒服代表別の客の対応に追われつつ
黒服代表)可愛がってやってください
そういいながらフロアを移動してインカムに指示を出している
おっさん)ぐっへへ
おっさん硬直している夕一の手からおしぼりを取って顔をわしゃわしゃと拭いてしわくちゃのままテーブルにぽんと投げる。
キャバ嬢A)ま〜た〜ん♡
キャバ嬢Aがふりふりのピンクのドレスを着ておっさんの左隣につく。
その隙に夕一お辞儀をしてくるりと背を向けて立ち去ろうとするとおっさん夕一のチョッキの端をつまんでぐっと引き戻して
おっさん)まあちょっと座って行けや
キャバ嬢A)やだ〜ボーイに場内取られたあ〜キャハ
夕一無理やり右隣に座らされて弾みでテーブルの角に体をぶつけた。夕一、顔をしかめる。
キャバ嬢A)お願いしま〜す!
キャバ嬢Aおっさんにニコニコしながら
キャバ嬢A)何飲む?姫ちゃんくるまでに空けなきゃね♡
黒服Bやってきて夕一をちらりと見て怪訝そうな顔をすると
おっさん)あ、この子俺んとこで歓迎会するから、新入歓迎会
キャバ嬢A)そ〜う、場内取られたの〜キャハ
黒服B)かしこまりました
キャバ嬢A)今日はブランドブランでい〜い??
おっさん)しゃ、しゃ〜ね〜な、お祝いだからね
キャバ嬢A)キャハ、お祝い、お祝い!
黒服B)ブランドブランで、かしこまりましたっ
黒服Bお辞儀をしてくるっと背を向けフロアに向かって
黒服B)素敵なお客からブランドブラン頂きました!
みんな、黒服B)ありがとうございます!
夕一、バツが悪そうに隣に座っている。
× × ×
みんな)カンパ〜イ
酒を次々に注がれ呑まされる夕一。
視界が白く飛ぶ
× × ×
夢 回想 夕一10歳 平15歳
平の家。平の部屋。
夕一)わ!すごいね
夕一の目の前に夕一の背丈と同じくらいのキャンバス。
平)ポピーを描いたんだ
オレンジが折り重なって筋になっている。夕方の陽を受けて様々に発色して見える。
夕一)ポピーってなに
平)あれだよ
平の指さす方向に花瓶に刺さった一輪のポピー。
夕一)かたちが全然ちがうね
平)いいんだよ
平、笑って窓の桟に置いてあった古いカメラを手に取る。
平)ちょっとそこに立ってて
夕一の肩に手をかけてキャンバスの前に夕一の位置を調整してカメラを構えて後退する。
後退するたびに弾みで黒髪が肩の位置でたわんで揺れる。
パシャリ。目をつぶる夕一。
平)っはは!フラッシュも焚いてないのに笑
夕一むっとする。
平、気にせずシャッターを押してゆく。
夕一)もういいでしょ
平近づいてくる。
夕一)見せて
平、首を振りながら
平)ノンノンノン
きみ、これはフィルムカメラ。
その辺のインスタントラーメンとは違うんだよ
夕一)なんだ、見れないの
平)ああやって現像するのさ
平、部屋の奥を指さして夕一のつむじを軽く掴んで回転させる。
奥にはクリップで留めて吊るされた写真が沢山ある。
夕一)へ〜..なんでもできるんだね
平)現像できたらあげるよ
夕一、部屋の奥の小棚に立て掛けてある写真立てに目が行き、つつっと歩いてゆく。
平、カメラからフィルムを取り出している。
夕一)あれ?
平、夕一の方に目を向ける。
平)あぁ
夕一、写真立てを手にとって
夕一)これぼく?
平)ちがうよ笑
夕一)似てるね
平)弟だよ
夕一)え、いたの
平)もういないよ
夕一)どうして?
平、口をつぐんで微笑する。フィルムをカメラに戻して窓の桟に置き、夕一の方に歩いてきてよいしょと夕一を抱え上げようとする。
夕一)わ!何すんだよ
平重そうに夕一をソファーの方に引きずり
平)きみの場所はここですよ
緑色のふかふかとしたソファーに
平)よいしょっ
重くてドサッと下ろす。
夕一、プンプンしている。
平)何、怒ってるの?笑
夕一)子どもみたいにしやがって
平、夕一の茶色い前髪からのぞくおでこにピーンと指をはじいて
平)きみはまだまだ子どもですゾ
そう言ってゲームボーイポケットを2台持ってきて
平)これやろーぜ
夕一)ふんっ
といいつつ夕一、まんざらでもない様子で平とゲームを始める。
ピコピコ音が鳴る。
× × ×
回想終わり
音)ピッピッピっピッ
目を開けると白い天井。病院のベッドに横たわっている。
お腹の方に重みを感じて見ると平がつっぷして寝ている。
けだるそうに
夕一)な..んで?
平、ぴくりと目を覚まして
平)夕一? あぁ..よかった
夕一)おれ、なんでここにいるの
平)覚えてないの?
夕一)... あ
平、ふうっと息を吐き出して夕一のおでこに手を当てる。
夕一)風邪じゃねぇよ
平)ふっわかってるよ
平、手をどけ、ナースコールのボタンを押す。
夕一)今何時?
平)もう昼だよ
夕一)え、大学は?
平)いいんだよ
夕一)よかないよ、留学決まったばっかじゃん
平)ボーイじゃなかったの?
夕一)呑まされたんだよ
看護婦がきて、脈を測りはじめる。
看護婦)うん、だいぶよくなってるし、今日退院できそうですね。
平)じゃ、俺いくから
夕一)平!
平)ん?
振り返る平
夕一)留学、おめでとう
平、ふっと微笑んで左手を上げてスタスタと部屋を出てゆく。
× × ×
平の家の前。
夕一)平!!
平がおっさんに絡まれている。
おっさん)あれ?きみは
夕一)おめーなんなんだよ
平)夕一、帰れ
夕一、おっさんを平からどけようとする。
おっさん、力が強い。夕一あっという間に両手をねじり上げられる。
平)やめてください!
おっさん)きみが大人しく言う通りにしていればいいんだよ
夕一)なんで平がてめえの言うこと聞かなきゃいけないんだよ!
平)離してください!これはぼくとあなたとの問題だ
おっさん)きみは母親によく似てるね
平)はい?
おっさん)わたしはね、きみみたいな奴を見ると虫唾が走るんだ。きみのお母さんもそうだったよ。美人なのに亡くなったご主人に操を立てて最後までわたしの愛人になるのを拒んだんだ。きみを育てるのに必死だったよ。
平)あなた、何を言ってるんです?
おっさん夕一を離して平に近づく。
おっさん)わたしはね~きみたちみたいな奴らを見ると無性に侵したくなるんだよ。だから最後にきみのお母さんも食ってやった。そしたら彼女
平、逆上しておっさんに殴りかかろうとする。
夕一平の前にすっと入っておっさんを突き飛ばした。
その拍子におっさん足元のバランスを崩して階段の方によろけて落ちる。
ちょうど自分の部屋に帰ってきた住人(女C)が悲鳴を上げる。
呆然とする平。
夕一)逃げよう!
動けない平を無理やり引っ張ってエレベーターを使って降りてゆく。
× × ×
夕一の寮のベッドに背をもたせかける平。
二人分のカップを持って一つを平に渡して平の横に座る夕一。
夕一)あいつに何されたの。
平)...
夕一)ね、見て
夕一、ベッドからカードを取り出し平に見せる。
夕一)ミュウツーのレア版だった。ありがとう。高かったでしょ
平)あいつ、俺の留学を決めてくれた奴だったんだ
夕一、ミュウツーのカードのキラキラを見つめながら聞く。
平)両親のいない俺が留学するのに、奨学金の保証人になってくれたんだ。
いい人だと思ってたんだ。そしたら俺に体の
夕一)あいつなんだよ
平)?
夕一)あの日、ぼくが潰れた日、あっただろ? あいつに呑まされたんだ。ベタベタ触ってきやがって
平)そうなの?
夕一)大丈夫、たいにいはあいつなんかいなくっても留学行けるよ。
平)留学の前にやる事が増えたな
夕一)なに?
インターホン)ピンポーン
目を合わせる平と夕一。
平、立って行こうとする、夕一、立ち上がろうとする平の肩を押さえつけて
玄関へ向かおうとする。
平)待てって
平、夕一の手首をつかもうとする、途端にくらくらと目が回る。
夕一くるっと振り返り右目でウインクして、
夕一)ぼくもう大人だよ
バタンと扉を開けて出てゆく夕一、バタンと床に倒れ込む平。
× × ×
少年院
法務教官)峰 夕一、出なさい
部屋から呼び出される夕一。
法務教官)荷物をまとめなさい。
夕一、荷物という程のものもなく、身の回りの物をビニール袋に入れて部屋を出る。
法務教官に案内されるままに歩いてゆく。外に出される。
目の前に平。後ろでがちゃんと扉が閉まる音。
夕一、訳が分からずポカンとしている。
夕一)なんで?
平)まだまだガキだな
そう言って平、夕一の手首をつかんで引っ張って歩いてゆく。
夕一)大丈夫なの?
平、ずんずん歩いて自転車置き場までいく。
平の自転車まできて
夕一)どうやったの?
平)乗って。あ、もう乗れないかな?
平、自転車にまたがり、夕一の方を振り返る。
平、自転車にまたがり、夕一の方を振り返る。
夕一、平の肩に手をのせ、よいしょと後輪のハブステップへ乗ってみる。
ギシっと自転車ごと平傾く。
平)わ、壊れる
夕一)バカヤロウ笑
平、勢いをつけてなんとか自転車を漕ぎ出してゆく。道路のお巡りが
お巡り)こら!二人乗り禁止ぃ〜!!
追いかけてくるが平構わずスピードを出す。
夕一)たいにい!
平、必死で自転車を漕ぐ。
二人の目の前に大きな夕日。オレンジ色に二人を包む。
夕一)たいにい!ポピーだよ!!
平、必死で自転車を漕ぎながら、笑。
平)かたちがちがうよ!
夕一)いいんだよ!!
二人、笑いながら夕日に突っ込んでゆく。
----つづく---
