たんぽぽ | 森由 壱 - tune bride -

森由 壱 - tune bride -

... という 、夢を視ました 。


40年前ー夕方

夏の横断歩道。熱気で揺らめく夕焼け。
6歳の男の子、道の真ん中に突っ立っている。
男の子の母親らしき人影が夕日の真ん中を歩いて遠のいてゆく。
男の子、車に轢かれそうになる。
24歳くらいの若い女性が気づいて必死で男の子に駆け寄り、
道の端に投げ出した。
ヒールにつまづく女性。クラクション、暗転。

全身を軽く擦りむいて打身の状態で救急車に運ばれる男の子。
「お母さん..お母.」

白転

36年前-夏

10歳の少年
冬の道路の向こう側から両手にスーパーの袋を下げて歩いてくる。

4年前の横断歩道で立ち止まる。
スーパーの袋を下ろし、電柱の根元に生えている萎れ気味のたんぽぽを抜いてくる。

スーパーの袋からワンカップ酒を取り出し、蓋を開ける。

信号が青になる。横断歩道の真ん中に酒をこぼし切って、点滅した信号を背にまた歩道へ戻る。

空いた瓶に先程抜いたたんぽぽを刺して、電柱の根元へ置く。

少年の家-古い建物、一階が居酒屋、二階が少年の部屋

父「おせえじゃねえか」
ボロボロのTシャツと白いズボンをだらしなく来た中年の男性が畳で団扇を仰ぎながら煙草を吸っている。

父「酒は?」
少年「・・・売ってなかった」
父「酒は」
少年「売って・」

少年に向かってうちわを投げつける父、団扇の竹の柄が少年の頬をかする。
反射的に身構えようとしてスーパーの袋が床に落ちる。中身が零れる。

父「他で買ってこい!」
少年「お金」

傍に転がっていた瓶を投げつける父。
少年、転がりでるように家を出る。
父の声「酒買うまで帰って来るなー!!」
下りる階段に響く声。


× × × 

ゆうたくんという友達の家。

ピンポンを押す少年。
家から出てくるゆうたくんのお母さん。
弘子「あら翔くん」
奥からゆうたの声
「翔ちゃん?!」

× × × 

テレビゲームをしているゆうたと少年。
ゆうた「まだ痛い?」
ピコピコとしたゲームの音。
キッチンから何かが焼ける音と匂い。
翔「大丈夫」
ほっぺたに絆創膏がついている。

弘子「ゆうた、ゲーム終わり。翔くん、焼きそば好き?」

翔、ゆうたを見る。ゆうた、セーブボタンを押してコントローラを無造作に転がし、ちらっと翔を見る。
ゆうた「ママの焼きそば、今週で三回目」
翔、小さく吹き出す。
弘子「悪いわね」
ゆうたと翔、食卓につく。

焼きそばのヨリ、湯気がもくもくたっている。野菜や肉がそんなに綺麗には切られていないが、量はたくさんある。

ゆうた「ママ、キャベツ多くない?」
弘子「気のせいよ。翔くん、ハイ」
取り皿に取り分けて翔に渡す弘子。
弘子「ゆうたも」
ゆうたにも渡す弘子。
弘子「じゃ」目で二人に合図する弘子
三人で「いただきます」

翔、焼きそばに食らいつく。すぐに無くなる。
ゆうた「翔ちゃんはや!ぼくまだこんなんだよ」
翔「おいしい」
弘子「翔くんはキャベツ嫌いじゃないの?」
翔、はにかみながら笑う。
ゆうた「翔ちゃんが嫌いなもんはお父さんと酒だけだよ」
弘子「こらっ」
翔「・・・」
弘子「これ、お代わり、食べて。ゆうたはキャベツちゃんと食べるのよ」
翔の皿にてんこ盛りに焼きそばを盛り付けて渡す弘子。
翔、渡されるままに無心に食らいつく。

× × × 

玄関先で翔を見送る弘子とゆうた。夜8時。
弘子「お父さん大丈夫かな?」
翔、はにかんで笑いながら
「大丈夫です。」
ゆうた「翔ちゃん次はドンキーコングの二面ね。」
翔「うん。」
翔、絆創膏の貼ってある頬に手を当て、
「ありがとうございます。」
弘子「じゃ早く帰って。またおいでね。」
弘子、ゆうたの肩に手をおいて手を振る。
翔、一礼して帰ってゆく。
翔の右手に紙袋、中に缶ビール2本。


26年前-夏

20歳の翔

アパートの畳に寝そべる翔
台所で焼きそばを作る24歳会社員の女性夕子

夕子「翔くんできたっ」
翔「うまそうな匂いしてるね」
夕子「翔くんに作るもんは、何でもおいしいよ」
翔「どうして?」

焼きそばを卓におく夕子を押し倒す翔。
夕子「ダメ、翔ちゃん。今日はダメ」
翔、構わずつづける。

電話が鳴るが鳴りっぱなしで取らない。
ゆっくりフェードアウト


8年前-春、38歳の翔

朝食を終えて忙しなく玄関へ向かう
息子、倫18を見送る翔。キッチンから慌てて弁当を持ってくる夕子42歳。
倫「キャベツ入れてない?」
夕子「子どもじゃないんだから!」
倫、笑いながら受け取って
「じゃ」と言って玄関を出て行きそうになるのを
夕子「お父さんに行ってきますは?」
倫「ガキじゃねえんだから笑」
三人笑って倫外に出る。

× × × 

倫、自転車で横断歩道を通り過ぎてゆく。

× × × 

夕子、洗い物をしている。
翔、ジャンパーを羽織って
翔「行ってくる」
夕子「はーい」

玄関を出る翔

× × × 

横断歩道に差し掛かる翔。
電柱の根元にたんぽぽがたくさん。

× × × 

翔が向かう先に小さなカフェ。

カランコローン

女性店員24冴子、振り向いて

冴子「北山さんだっ」

翔、照れくさそうにはにかみ笑いをしながら
翔「コーヒーもらえる?」
冴子「今いれまーす」
ジャンパーを脱いで椅子にかける翔。

翔「あったかくなってきたから、ジャンパーもいらないよな。」
冴子「そうやって油断をしてると風邪を引く季節ですよ」
冴子、北山のいるテーブルへコーヒーをカチャリと置く。
冴子「そういえば」
北山、コーヒーをすすろうとするが熱そうで躊躇している。
冴子、北山の頬の傷跡にぴとりと指をあてそうになりながら、やめる。
北山、すすろうとしたコーヒーをすすらず手を止めたままでいる。
冴子、笑いながら
冴子「なんか可愛い」
北山「消えないんだよな」
冴子「誰にやられたんですか」
北山「父親だよ」
冴子「わあ..」
北山「昔の話だよ」
冴子「消えないもんなんだ」
北山「すごい父親だったよ」
冴子「へえ..北山さんがそんな話するの、珍しくないですか?」
北山「そうかな?」
はにかむように笑いながら
北山「今日、息子の卒業式なんだ」
冴子「え?!おめでとうございます!え、
         行かなくていいんですか?!」
北山「嫁さんが行くから。オレは店あるし」
冴子、コーヒー豆を弾きながら
冴子「ドライだなあ。北山さんっぽい」
北山「ドライじゃないでしょ、男親なんてそんなもんだよ」
笑いながらコーヒーをすする。

冴子「北山さん、わたし、行きたい展覧会あるんですけど、行きません?」
北山「お前、店どうすんだよ」
冴子「たしかに笑」
北山、コーヒーを飲み終えて、
北山「じゃ、そろそろ行くかな?」
北山、600円を置き、ジャンパーを着ながら立ち上がる。
冴子「北山さん、ちょっと待ってて」
奥に行って何かを取ってくる冴子。
冴子「はいっ」
北山「え?」
手元にはプラスチックパックに入った焼きそば
冴子「買ったのじゃないですよ!」
北山「オレに作ってくれたの??」
冴子「悪い?」
たじたじとする北山。
北山「なんで?」
冴子「え、ダメです?」
にやにやとする北山。
北山「いや..」
冴子「はい、行った行った!行ってらっしゃーい笑笑」
北山「ありがとう、ごちそうさま」

× × × 

北山、帰り道の夕方、横断歩道を通りかける。
近くに腰掛けるスペース。

タバコを取り出して一服する北山。
電柱の根元にたんぽぽ。
夕日。