裸の女と生乾きの爪 | 森由 壱 - tune bride -

森由 壱 - tune bride -

... という 、夢を視ました 。

 

裸で塗ったマニュキアを乾かす瞬間が一番女の間抜けな姿だ。

さっき塗ったばかりのオーロラ色の爪が乾くのを待ちきれず、女はガサツにラップトップを引っ張り出して起動する。

案の定、人差し指の爪の左側が何処かに接触したらしく、生乾きの液体にクレーターが空いた。

 

女の一週間はコロナ災禍の影響を受け、新しく決まった転職先にデビューしたというのに、五日間のうち四日も在宅勤務であった。

仕事に邁進せねばならぬのもあり、在宅でいつも通っていたカフェから足が遠のいたのもあり、男への気持ちにひと段落をつけた女は裸の侭マニュキアが乾ききるのを待ちきれず、生乾きの爪でキーボードを叩きつけながら思う。

 

こうして自分が一番危惧していた、男の「冷蔵庫の中身」に敢えて飛び込むという自分の一周回った胡散臭さと、そうする事によって自らを貶めているようでいて返って堅固な箱で自分を覆ったのだと思い込もうとしている自分の浅はかさを。

 

女も男も生まれてきた時はあんなに可愛いのに、何処をどう間違えて、こんな浅はかで意地汚いオトナになるのかしら。

 

もう乾いたであろう爪を気にせずラップトップに叩きつけながら女は思う。

ー恋なんてしなけければ、人はもう少しスマートに紳士淑女に生きられるのになあー

 

これで自分が何もせずに一年経って、もう仕事ですら会う事がなくなったって、文句は言わないよ。なんて心で嘯きつつ、在宅の分全く電車移動での疲労などがない鈍った体を休日の土曜の午後に解きながら、女は壁にかけてある男の”絵”を見るともなく、薄いレースのカーテン越しにぼんやりと冴えない色の空を見上げた。太い電線の塊が斜めに掛かって、まるでその空を袈裟斬りにしているようにも見えた。

 

 

 

写真引用: