あのきみが
目の前に視えた
懐かしくて 懐かしくて
とても素直なわたしがいた
もう二度と会えないのだと
噛みしめたきみの隣は
ふんわりとわたしに蘇った
こんな風に嗚呼
年を経てゆくのだと
久しぶり過ぎるきみの隣は
なぜかその割にやわらかく
夜の空気 たゆたいと
変なためらいとで口を噤んだ
きみのあしらいが大人びて
嗚呼こうして貴方は成熟してゆくのだと
胸熱く綻びた
比べることを忘れなければ
到底合わせられない顔でも
わたしにはわたしの人生と腹を括れば
そんな眩しさも懐かしさで視ていられる
わたしは貴方のように
少しは成熟したのでしょうか
沢山のことが
怒濤のようにありました
沢山のことに心身を揉まれ
嗚咽と放蕩に身を委ねてきました
あれから何人の人を思い
どんなに恋愛観を打ち破られたか分かりません
今視ている貴方も
今視られているわたしも
あの日と全然違う筈なのに。
昨日洗濯した
いつものハンカチのように
貴方の声も瞳も
やわらかくてほっとした
まるでいつも通っている
道の傍の樹のように
貴方の視線は当たり前のように
心地よかった
人はこうやって
過去を許してゆくのかな
貴方とわたしはこうやって
また他人と知人を繰り返しながら
年を重ねてゆくのかしら ..
視えない桜は
今日も散る
はらはらと
非現実な切なさを引き
このくらいの
このくらいの距離がいいんだ
そう諭しつつ
貴方の瞳が忘れられないで
その大人びた揶揄いの声を
反復していた
