【かっぱ巻と梅。110円の美学】 | 森由 壱 - tune bride -

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... という 、夢を視ました 。

《ちよだ鮨》『かっぱ巻』を半額の110円で頂く 2019/04/18(木)

 

今回のキー

◇安さ

◇ぜいたく感

 

すしには、値段という関門がある。好きか嫌いかではなく、否応なしに食べられないという瞬間もあるだろう。

むしろ食べられないから好きでもない、という人もいるかもしれない。

それくらい、食のカテゴリーの中ではお高いイメージがある。

 

勿論、全てのすしがそうではない。回るすしやスーパーのすしなど、安く買えるすしもある訳で、それはもう我々庶民にとってはありがたいことである。しかし『すし好き』と謳う人が敢えて「すし」と言わない部類のものもありそうだ。

 

その最たるものが、わたしは「かっぱ巻」ではないかとふと思うことがある。なぜなら、わたくし自身がかつて、そうであったからだ。全く以てかっぱ巻もいいメイワクである。こんな、なんでもない人間に「お前はすしではないっ」と云われたところで、痛くも痒くもないだろうが多少はむかっとするでしょう。どうして「すしジャンル」の中に歴として確立されている我がポジションを、ちんけな「すし好き」ごときに否定されなければならないのか。

 

わたしは当時、その「かっぱ巻」の良さに、全く気づいていなかったのである。痛恨の極み。

 

今回夕方頃、たまたまたった一つだけ半額シールが貼られていた「かっぱ巻」パックを発見し、うきうきを覚えた。心は浮き立った。そう、この感覚こそが、「かっぱ巻」の持つ魅力なのかもしれない。

 

「かっぱ巻」。多々有る海鮮巻や、まぐろやサーモン白身貝、色とりどりのすしパックの並び立つ中で、一際「我関せず」という態度で、すん、と澄ましている。お前はどうして鮨が鮨たる所以、「魚」という要素が一つもないのに、そんなに気高くとまっていられるのか。お前は「きゅうり」であって、「魚」ではない。なのに、他の歴とした「すし」パックよりも爽やかに、左端の方に並んでいる。数は多め。まるで「かっぱ軍団」だ。

 

しかも、普段は190円+税のところを半額で売られている。たった一つだけ。これは見た瞬間わたくしの腹はぐうと鳴った。今日のお昼はこれだ。税込み110円のおすし、「かっぱ巻」。一粒の梅干しと共に頂く。

 

なんともうまい。なぜこんなにうまいか。つまり、安いからだ。安いのに、うまいからだ。今の時代コンビニのおにぎりですら、少ないごはんとゆるゆるの握り方で、何とかかさ増しして130円〜220円などで売られる時代だ。その中で、もともと190+税とは言え「きゅうり」という健康極まりない野菜が入ってちゃんとしたすし屋が握った巻物二本(個数で言うと12コ)が食べられるというのは、それだけでぜいたくである。それが半額の110円な訳ですから、もうこれは、ほんとうにありがたい。

 

しゃくしゃく、しゃくしゃく、かっぱを一個頂くたびに、「ぜいたくだなぁ」と噛みしめる。高いすしだけが、すしではないのである。このことに感動を覚えながら、4月の午後、ひとり部屋の中で梅をつまみにかっぱ巻で一息ついた、そんな一日であった。

 

かっぱ巻。それは高潔な、110円の美学。飾り気もないのに鮮やか、みずみずしく、サイフに優しい。食べると元気になれる、あなたは最高の「すし」である。