ハウプトハルモニーと僕との1年間 (Part2) | アイドルKSDDへの道(仮)

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心に茨を持つ山梨県民こと「やまなしくん」のブログ。基本UKロックが好きですが、最近はもっぱらオルタナティブなアイドルさん方を愛好しています。

【新メンバー加入、そして「もねちゃん」との再会】

「前編」でも書いたが、僕は「ゆるめるモ!」のファンだった。2015年12月にZepp DiverCity Tokyoで催されたワンマンライブを観て完全にファンになった僕は、年が明けてから「現場」に通い始めた。特に5月から6月にかけては、東京まで最低2時間はかかる距離に住んでいる地方民であるにもかかわらず…毎週のようにライブに足を運んだ。その理由は、ゆるめるモ!が7月に開催するワンマンライブをもって、2人のメンバー「もね」と「ちーぼう」が「卒業」するから、だった。


櫻木百(さくらぎ もね)こと「もねちゃん」は、僕の「推しメン」だった。7月のワンマンライブは仕事でどうしても行けないことが確定していたため、僕は推しメンと会えなくなる前に、なるべく会いに行こうと思っていた。彼女と最後に会ったのは、2016年6月26日、まねきケチャとdropとのスリーマンライブでのときだった。僕は手紙を書いて、もねちゃんに渡した。はじめて、アイドルにファンレターを書いて渡す、という行為に及んでしまった。そこまでするほどに、彼女との出会いと別れは、自分にとって大きなことだった。

僕は、もねちゃんと今生の別れをした…はずだった。のだが、10月26日、僕のTwitterのタイムラインに、それは唐突に流れてきた。


「もねちゃんがハウプトハルモニーに加入」


とたんに、胸の動悸が激しくなった。は?何で?一体どういうことなんだよ? …しばらくして、音楽ニュースサイト「ナタリー」のニュースが載った。ハウプトハルモニーに、元ゆるめるモ!の櫻木百が、一花寿(ひとはな すい)として加入。同時に、銀髪の女の子、銀りん(しろがね りん)が新メンバーとして加入する、とのことだった。

後で知ったことによれば、一部のハウプトのオタクはこの情報を夏頃からつかんでいて、半ば「公然の秘密」のような状態であったらしい。しかし新参オタクの僕には、寝耳に水、青天の霹靂、だった。

「ハウプトハルモニーに、元ゆるめるモ!メンバーのもねちゃんa.k.a.櫻木百が「一花寿」として加入。最近まで「もねちゃん寄りの箱推し」と称し、ピンクスナイパーリストにも列せられた私、ハウプトの新規ファンである私は…率直に言って嬉しいという感情が全く起こらない。ただただ混乱している…」

僕はTwitterにこのように書いた。混乱した。複雑な気持ちが湧き上がり、戸惑った。一体なぜなのだろう。王道アイドル志向の「もねちゃん」は、ロック志向を強める ゆるめるモ! の方向性との違いから、脱退を決意したはずだった。なのに、フロアでモッシュも起こるような音楽性のハウプトハルモニーになぜ加入したのか、理解することができなかった。

「ハウプトハルモニーは最近好きになったので、今回の件とても驚きました。正直言って僕は混乱していて素直に喜ぶことができないです。ごめん。だけど、この決意に理由と意味があるはずだから、それをこれから確かめていきたいです。」

僕はtwitterで、もねちゃん改めすいちゃんに、こんなリプライを送ってしまった。だけれど偽らざる本心だった。

…そんなわけで、その日は胸の動悸が収まらなかったのだが…後日、冷静になった僕は、自分の感情がどういうものだったのかを理解した。そう、僕はすっかり「別れた元カノが他の男とつきあい始めたのを知った」ような気分になっていた、のだと…。

* * *

新生ハウプトハルモニーの姿を確かめたかった。その機会を得たのは、翌月の11月18日、渋谷Gladというクラブで催されたアイドルイベントだった。その日はたまたま横浜に仕事で出張しており、帰りに寄ることができる!…と計画を思い立ち、はやる気持ちを抑えながら、横浜から渋谷へ向かった。

イベントチラシ

普段はクラブである小さな会場の中、ハウプトのオタクは少ないようだった。僕はスーツ姿でフロアへ降り、ステージを眺めた。

ハウプトハルモニーは、新衣装で登場した。中世ヨーロッパの貴族のような、ラグジュアリーな衣装。すいちゃんが現われた。お姫様のようなそのドレスは、プリンセスを自称していた彼女に、もう最高に似合っていた。暴れるオタクがいなかったこともあり、ステージを至近距離から眺めることができた。しっかりした歌とダンスは、可愛らしくも、ときおりセクシーさを感じさせた。「Alice in Abyss」(好きな曲!)では、じゅのちゃん寺田珠乃がドスの効いた歌声を聴かせ、聴衆を圧倒しており、僕も度肝を抜かれた。曲間では、珍しいことに、他出演者によるインタビュー形式のMCが行われた。「Alice in Abyss」のレコーディングのとき、あの歌い方をしたらプロデューサーがめっちゃ笑ってた、などの裏話をしてくれた。

終演後はロビーで物販が行われていた。この日は特別に、アンケート用紙に記入すると、メンバーと携帯で写真が撮れる、という試みがなされていた。僕はアンケート用紙に自分なりに真剣に回答した後、寺田珠乃と2回目の撮影に臨んだ。じゅのちゃんは、僕のことを憶えていてくれたようで、うれしかった。その後、チェキ券を握りしめて、茅ヶ崎りこの所へ。ちがちゃんもまた、何となく僕のことを憶えてくれていたようだった。今日のイベントが普段と違う雰囲気だったこと…などを、おしゃべりしていた。

さて、かつての推しメンの姿は、確かにそこにあった。「今回は様子見だから、直接会いに行くのはやめておこう」と、未だ複雑な感情を拭えなかった僕は、ライブに来る前に思っていた。のだがしかし…「会って話がしたい」という想いは、胸の中でだんだんとふくれあがって、もはや抑えられないものになった。…意を決して、僕はチェキ券をもって「一花寿」のところへ向かった。

僕「じゃあ…(両手を合わせて)『ナマステ』のポーズでお願いします。」

あーりー氏「(カメラを構えて)はいっ、ナマステ~」

すいちゃんとの会話が始まった。

「何でナマステ、なんですか?」

「感謝、したくて…」

「何に?」

「また会えたことに」

僕は本音で話をしていた。僕が「ピンクスナイパー」(櫻木百ファンの総称)であったこと、再会できた喜びを話した。彼女は突っ込んだ質問を投げかけてきた。

「モ!のライブには行ってる?」

「え、めちゃ行ってますよ…」

「今は誰が好きなの?」

「……しふぉん寄りの箱推し、かな…」

「聴くんじゃなかった!」

(「…え、ええーー!?!!!」)

僕は基本DD(「誰でも大好き」という意のオタク用語)なので!と答えた。それは本当のことで、僕の矜持ですらあったので、包み隠さず話したのだった。アイドルは、自分だけを見てくれるファンを欲しているかもしれない。だが僕は、たとえ推しメンであっても、その意に応えることはできないのである。すいちゃんと僕は、アイドルとDDオタクが静かに戦う…そんな関係であるように思われた。でもそれは僕にとって、奇妙だけど、幸せな関係だった。

すいちゃんと話し終え、その場を離れたとき、僕は胸がいっぱいになった。もう二度と逢えないと思っていた、好きだった女の子との再会。そんなことが、この世にはあるのだった。ステージ上の彼女は活き活きとしていた。「一花寿」を、これからも応援しよう…素直に、そう思った。

(つづく)