尚玄、松浦りょう、アンシュル・チョウハン監督『赦し』大阪アジアン映画祭舞台挨拶レポート | C2[シーツー]BLOG

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 未成年が引き起こした殺人事件である「少年犯罪」を題材に、被害者遺族の元夫婦と服役中の加害者の女性の葛藤を描いたヒューマン・ドラマ。最初の裁判で加害者の夏奈には懲役20年の重刑が課せられたが、事件の事実認定の正当性をめぐる再審公判が決定し、3人の心は激しく揺らぎ出す。“正義”に固執する被害者の父親の克を『義足のボクサー GENSAN PUNCH』の尚玄、一刻も早く過去を拭い去りたい元妻の澄子を『台風家族』『ひとよ』のMEGUMI。夏奈役にはデビュー作『渇き。』で注目された松浦りょうが抜擢された。オリジナル脚本で、被害者遺族と加害者双方の視点を取り入れ、罪と罰という根源的な主題を鋭く探求したのは、長編第2作『コントラ』が国内外で評価された日本在住のインド人監督アンシュル・チョウハン。

 

 

 本作はあくまでオリジナルのフィクションだが、実際の少年事件からもインスピレーションを得た物語は、このうえなく生々しい問題提起をはらんでいる。私たちの現実社会における同様の裁判では、愛する者を失った被害者遺族の心情に寄り添った厳罰主義がしばしば叫ばれるが、少年法は加害者の更生を重んじる理念を掲げている。ごく最近でも、民法上は成人となった18歳~19歳を新たに“特定少年”と位置づける改正が行われるなど、少年法をめぐる議論は絶えることがない。

 

 

 被害者遺族と加害者双方の視点を取り入れた本作は、罪と罰という根源的な主題を鋭く探求しながら、観る者の感情にずしりと訴えかけてくる。癒やしようのない責め苦を負った者は、その罪や悲しみを乗り越えて生き直すことができるのか。人と人は互いにわかり合い、憎むべき相手をも受け入れることができるのか。魂の救済、赦しという深遠なテーマに真正面から挑んでいる。

 

 

 今回、公開に先立ち、3月11日(土)に大阪アジアン映画祭コンペティション部門で上映され、主演の尚玄さん、夏奈役 に抜擢された松浦りょうさん、監督のアンシュル・チョウハンが登壇し、舞台挨拶と Q&A を行った。

 

REPORT

 

 

 まずは、監督が「ご来場いただきありがとうございます。大阪アジアン映画祭で上映でき、皆さんの前で挨拶できることを嬉しく思 っています。皆さんにこの映画を楽しんでいただけたのか気になっているので、Q&A を楽しみにしています」、尚玄さんは「ジャパ ンプレミアで大阪アジアン映画祭に戻ってこられて嬉しいです」と挨拶し、Q&A に。

 

 最初に、「大変興味深く拝見させていただきました。観た人それぞれの視点がある作品だと思います。特に、ポスターにも使われて いる松浦さんの振り返りのショットが印象的でした。彼女の表情にどのような演出をされたのでしょうか」という質問に対して監督 は、「これは 12 テイク目でした。こういうものにしたいというイメージが自分の中にあったので、テイクを重ねて彼女の肩の位置や 傾き加減など細かく指示をしました」と明かし、「映画の中でも特に大事なシーンになるので、観客の皆さんを見ているのか見て いないのか絶妙なバランスを意識して、自分の目指すイメージを意識して撮影しました」と、重要なシーンをどう見せるかへのこだ わりを語った。

 

 次に、「当初の脚本から撮影時の脚本に落とし込むまでに大きく変わったことはありますか?」という質問に対して監督は、 「2018 年に初めて脚本を読んだ時は映画化する気持ちまで持っていけなかった」そうですが、その後、「コロナになって誰もが家 に閉じこもるようになった時に読み返して、これは映画化すべきだと思いました。そこから日本で撮影できるように、少年法など日本の法律に沿って変わった部分や実際に裁判へ赴いて細かいところ調査しながら脚本を改正していきました」と時流や日本に合 わせた脚本の変遷について明かした。

 

 最後に、尚玄さんと松浦さんへの「役作りの過程で一番難しかったこと」という質問について尚玄さんは、「全てが大変でした」と 前置きし、中でも「僕は当事者ではないので、当事者じゃない人間がその人が抱えているものをリアルに表現できるのかというこ とにすごく真摯に向き合いました」と役作りへの思いを語り、「(松浦)りょうちゃんと対峙している場面は芝居ではなかったから、監 督の指示もありましたし、撮影が終わるまで一言も話さなかったです」と緊張感が漂っていた対峙シーンの裏側を明かしました。 さらに、続けて「監督が早い段階で衣装を用意してくれたことがすごく幸運でした」と話し、「3 週間前から衣装を着て、克として生 活していました」と真摯に役に向き合い続けた日々を明かした。

 

 そして、松浦さんは、「私も、殺人を犯したことも刑務所に入ったこともないので、役作りとして経験できることではないし、殺人を犯 してしまった方のインタビューを見て、役に落とし込んで考えました。その上で、刑務所の生活にできるだけ近い生活をして孤独を 知ることで役を作り上げていきました。その時間が一番しんどかったです」と役作りについて明かした。

 

 観客から大きな拍手で見送られ、舞台挨拶は終了した。

 

  ▶︎松浦りょう INSTAGRAM

 

『赦し』

2023年3月17日(金)よりMOVIX三好にてROADSHOW

2023年3月18日(土)より大垣コロナワールドにてROADSHOW

2023年4月28日(金)より伏見ミリオン座にてROADSHOW

公式サイト

 

STORY

7年前に娘をクラスメートに殺害されて以来、現実逃避を重ねてきた樋口克(尚玄)のもとに、裁判所からの通知が届く。懲役20年の刑に服している加害者、福田夏奈(松浦りょう)に再審の機会が与えられたというのだ。ひとり娘の命を奪った夏奈を憎み続けている克は、元妻の澄子(MEGUMI)とともに法廷に赴く。しかし夏奈の釈放を阻止するために証言台に立つ克と、つらい過去に見切りをつけたい澄子の感情はすれ違っていく。やがて法廷では夏奈の口から彼女が殺人に至った動機が明かされていく…。

 

 

DATA

●監督:アンシュル・チョウハン 

●出演:尚玄、MEGUMI、松浦りょう、生津徹、藤森慎吾、成海花音、清水拓藏、真矢ミキ

●配給:彩プロ

 

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