「映画の力」EPISODE:
今も忘れられない映画館での経験
私にとって、映画を見ることは映画館に行くことだった。その映画館で、今も忘れられない経験がある。上映中の映画に拍手が起こったのだ。年配の方からは昔は一杯あったのよと言われたが、私にとってはもう三十年以上前、二回しか経験したことがない。
最初は故郷仙台での映画館で『カリフォルニア・ドールズ』を見ている時だった。まだ監督のアルドリッチの名前も遺作であることも知らなかった。女子プロレスラーのクライマックスでの試合で、拍手は突然起きた。何人かが思わず拍手したという感じだったが、私もつられて拍手していた。
二度目は有楽町で見た『8 1/2』である。長い間上映の機会がなく、多くの映画の本に出ているマストロヤンニの写真を見て、この名高い映画は一体どんな映画なんだろうと想い続けていた。満席で立ち見の場内には、見たいという人々の熱気が溢れていた。ラストの大団円、私も含め多くの人たちが当然のように拍手を送っていた。
映画を見ながら、誰かにつられて笑い、怒り、泣き、拍手した。どれだけの感情を見ず知らずの多くの人たちと共有してきたことだろう。映画は多くの人と一緒に見るのが楽しい。そしてそれを可能にしているのは映画館なのである。