3月19日(木) | 元木昌彦の「編集者の学校」

元木昌彦の「編集者の学校」

「FRIDAY」「週刊現代」「オーマイニュース」など数々の編集長を歴任
政治家から芸能人まで、その人脈の広さ深さは、元木昌彦ならでは
そんなベテラン編集者の日常を描きながら、次代のメディアのありようを問いただす

 J-CASTの「元木昌彦の深読み週刊誌」原稿を書く。

 終わって、WBC日本対キューバ戦を見る。今回は楽天の岩隈がすこぶるいい。キューバ打線がきりきり舞い。強敵相手に完封するが、明日は、宿敵韓国戦。どちらも対抗心が強すぎて、それがうまく回ったときは、どちらも強い。今回は、気合いで、韓国に負けているが、前回同様、立ち上がりにピッチャーが意識過ぎて、早めに自滅しなければ、面白い試合になる。

 夜、岩波ホールへ「シリアの花嫁」を見に行く。

「イスラエル占領下の小さな村。モナは、今日結婚するというのに浮かない顔だ。嫁ぐ先はシリア。一度国境を超えると二度と村には戻れない。決意を胸に、家族と境界線に向かうが、手続きを巡ってトラブルが発生してしまう…。

 花嫁のモナは、ゴラン高原の村に住む少数派イスラム教徒ドゥルーズ派の娘だ。1967年の第3次中東戦争でイスラエルに占領されて以来、ゴラン高原の支配権はイスラエルとシリア双方が主張して譲らず、結果としてそこに住む人々はどちらの国にも属さない“無国籍者”になった。このことがどれほどつらいことか想像して余りある。さらに事態を複雑にするのが、国境という存在だ。こんな特殊な状況下での結婚の背景を、さまざまなエピソードで手際よく説明していくエラン・リクリス監督の手腕に驚いた。

 作劇術の上手さは、メリハリのある人物設定にも発見できる。長女のアマルは、自立を夢見ながらも、家族のことを心配するしっかり者。親シリアで政治的に過激な父と、見守ることしかできない母。ロシア人と結婚して村を出たために勘当されている長男。次男は無国籍のまま海外で手広く商売中。末の弟はシリアの大学生だ。家族の複雑な事情が、国家間の状況と見事に重なっていく。

 そんな中、純白のウェディングドレスに身を包んだ美しい花嫁の心境は、いかばかりか。シリアに住む親戚の男性と結婚するとシリア国籍が確定し、故郷の村に帰ることも家族と会うことも許されない。事実、分断された家族は、高台に上って、遠くに相手を見ながら拡声器を使って会話するという、冗談のような場面が出てくる。普通の花嫁とは明らかに違う環境だが、それでも喜びと不安が同居する、嫁ぐ女性の揺れる感情は、多くの観客が共感できるものだ」(「映画通信シネマッシモ」より)

 ゴラン高原の荒れた大地と、花嫁の真っ白なウエディングドレスのコントラストが、彼女が置かれた厳しい状況を暗示しているようで哀しい。もう一つ、胸にズシリとくる映画ではないが、見ておいて損のない映画だ。 

 終わって神田神保町近くの中華料理店「咸亨酒店(かんきょうしゅてん」へ行った。紹興酒の故郷、中国浙江省紹興に実際にある店で、魯迅をはじめ多くの文化人に愛されてきた店である。数年前に、外から覗いたことはあるが、紹興酒がご飯茶碗のような器になみなみ注がれて出される、いい雰囲気の店だった。

 そんな思い出もあり、前から行きたかった店だった。塩味であっさりした寧波料理もいいが、紹興酒がとても美味しい。ティスティング・セットといって、3種類の紹興酒が味わえる。軽め、中ぐらい、重めの三種類だが、それぞれとてもいいのだ。これだけの紹興酒を、この値段で飲める店はそうそうないのではないか。予想に違わない名店で、接客もいい。