-前回までのあらすじ-

「ケイトをNo. 1にする。」

マイちゃんからの言葉を胸に、今自分ができる事を探し、締日までの1週間、少しでも売上が上がるように本当の意味でホストを始めたケイト。

そしていよいよ締日が始まった。

セツナとの差は歴然。気持ち的にマイナスなマインドになる中エースのマイちゃんの到着。


  孤独

マイちゃん‥

自分なりに必死に1週間戦い、生まれて初めてホストの苦しみとやらを経験しました。


ホストの頑張るってのはこういう事なのか。

決して約束された訳ではないお客さんの"店に行くね"という言葉に期待し、裏切られる。

「行けたら行く」「担当の店抜かれたら行く」は本当に信用ならない。

他店ホストは、自分の客が他所のホストなんかに金を使わないように必死に食い止める。そこに新規のホストがあの手この手で奪いに行く。


孤独だな

ホストってのは孤独だな


ホストってマジで孤独なんですよ。

煌びやかな世界の裏側は孤独と焦りだけ。


  勝つと言っておきながら

マイ「さてさて、いかがかなケイト君」

僕「今、お客さん他で2卓来てくれてる」

マイ「そうですかそうですか」

僕「自分なりには頑張った」

マイ「顔疲れてるね」

僕「そう?」

マイ「うん、痩せたね笑」

僕「頬が?」

マイ「こけてるよ」


初めての孤独感を経験して、マイちゃんの顔を見た時の安心感は今でも覚えています。

なんて事ない会話でも心が救われていく感覚は初めてです。

何となく僕の1週間の激動が伝わったのでしょうか、いつもより口調が優しく感じました。


締日はいつもと違う空気感の店内。

ピリピリしています。

どこの卓も担当と姫が真剣な顔で話し合ってる。

皆んな真剣なんです。


そんな中、金髪ショートNEWマイちゃんは周囲にはいつも通り。締日だからなんですか?みたい雰囲気であります。


僕「マイちゃん、緊張とかしないの?」

マイ「緊張?するわけないじゃん」

僕「そっか」

マイ「お酒飲むの久しぶりな感じするから今日は飲みたいかもー!」

僕「そうだな!飲もう飲もう!」


が、全然酔えない。全く持ってアルコールが回らない。

多分、ビールを3連続くらい一気しても全く酔わない。なんだこの感じ。

もういいテキーラ飲むか


僕「テキーラ飲みたいよマイちゃん!」

マイ「もってこーい!」


もう酔っ払いたい。

情けない俺はもう酔っ払いたい。


マイ「どうしたのケイト?」

僕「マイちゃん本当ごめん。俺この1週間、自分なりにめっちゃ頑張ったんだ。奇跡に近いくらいの成果は出せたと思う。けど俺はセツナさんに勝てない

。今かなり離されてる、もっと月初からやっておくべきだった、本当に後悔しかしてない」


マイ「‥」

僕「俺は勝つと言っておきながら、実際は現実に向き合っていなかったかもしれない。なんかラッキーとか起きて、セツナさんの売上が止まったり、自分の新規客が化けてオールコールとかパコンってやってくれないかなーとか。そんなんばっか考えてた。」


セツナとのリアルな売上の差は歴然で、自分の120%を一瞬で無力化するエースの力に潰された。

勝つぞ勝つぞと自分を鼓舞し、必死に喰らい付いたが現実は残酷だった。

マイちゃんと会って安心したのが良くなかった。

一気に弱い自分が出てしまう。それが止まらない

心が折れそうになっていました。


僕「だからマイちゃん、俺」

マイ「頑張れケイト!あたしにも頑張れ!最後まで!」

僕「‥?」

マイ「ここまで頑張ったんでしょ?まだ締日終わってないよ?頑張ろ。最後まであたしは応援するから」


  運命のラストオーダー。エースとして

締日は通常営業よりもラストオーダーが早い。

どの卓もラストオーダー前にバタついている。

携帯の電卓を叩いて何度も伝票と睨めっこするホスト、担当の煽りでケンカして泣く姫、ヘルプをたくさんつけて全員で煽る卓、それぞれでありました。


マイ「ケイト。ラストオーダー来るよ。あたしは何をいれればいいの?」

僕「‥」

マイ「何にもしないで、もう帰ろっか?」


若干イラつくマイちゃん

もう腹を決めろよ俺!


僕「いや違う!もう決めた。ウジウジしてゴメン。勝てるか勝てないかはわからない。けど勝負したい。ダメ元で言う。知っての通り俺は飾りボトルを入れてもらった事がないんだ。だから飾りを入れて欲しい」


マイ「何の飾りが欲しいの?」


心臓がバクつく。鼓動が聞こえる。

そして勇気を出して言う


僕「俺は、俺は、、リシャールが欲しい」

マイ「リ、リシャール、、、?」

僕「俺はリシャールをマイちゃんに入れて欲しい」

マイ「、、、」


リシャールはこの店でキングオブ飾りボトル。1番高いお酒であり、普通の店では入る事は滅多にないボトルで当時は250万程。


僕「ダメかな‥?」

マイ「あなたって人は」


静かに下を向くマイちゃん。そして


マイ「いいよ。あたしリシャールいくよ」


もうそれ以上の言葉はいりませんでした。

2人共お互いの目を見て頷く。

ありがとうも、感謝してるも、そんな言葉さえ薄っぺらい。

ただただ無言でテーブルの下で手を絡め合う。

少しだけ手が震えてる。それは僕の方。

いや違う、2人とも手が震えてる。


僕「じゃあ、伝票出してくる。まだラストオーダー回収きてないけど」

マイ「わかった。他の卓もあるでしょ?いってらっしゃい」

僕「ありがとう。ヘルプつけるから待ってて」


マイ「行く前に待って。」


スーツの袖を引っ張られる僕。


マイ「あたしはエースとして最後まで責任を持つから、ケイトも責任を持って最後まで頑張って」

僕「わかった。信じてほしい」


  さとみのラストオーダー

さとみの卓に戻ります。

冷酷ヘルプとさとみは何やら話し込んでいました。


冷酷「ケイト君!おかえりなさい!いいところにきてくれた!」

僕「どうしたんですか?」

さとみ「ラストオーダーどうする?って言われてた」

冷酷「そろそろ回収くるので‥」

僕「なるほどですね。ありがとうございます!さとみ、全然着けなくて悪かった。今どんな機嫌?」


冷酷「機嫌は悪くないですが、ラストオーダーにひよってました、この人」

さとみ「ひよってない!うるさいブス!」


僕「今日は本当に来てくれてありがとうな」

さとみをギュッと抱きしめる僕。

さとみ「ヒョッーーー!やめてよ!」


僕「さとみ!ラストオーダーどのくらいいける?」

抱きしめからのクソ煽りで天国から地獄の顔。

表情豊かすぎて笑いそうになりました


さとみ「無理だよおおお!もう今月使っちゃったもん!煽らないでよおおお!」

冷酷「さとみちゃん。締日に来るってそういう事だってさっきから言ってたじゃないですか。ひよってないんでしょ?ねぇねぇひよってないなら何かいきましょうよ。ひよってないって言ってたじゃないですか?嘘ですか?えーそれはちょっと引くなーあはははは」


どうやら僕がこの卓に来るまでに冷酷ヘルプが冷酷に煽り続けてたようでした。

それもそのハズ。僕は裏のホワイトボードに書いておきました。

" A3さとみちゃん いけるとこまで煽れ "と。

冷酷はその指示に忠実に従ってくれていました。


さとみ「だって今日やったら来月来れなくなっちゃう。」

冷酷「じゃあ来なきゃいいじゃないですかw」


僕(それにしても、こいつはヤバい奴すぎる)


冷酷は気にせず進めます。


冷酷「そもそも、来月来れなくなるって言って、本当に来れなくなった人見た事ないです。さとみちゃんは来月も来ますよ。だから今日やったって一緒でしょ?」


感情ゼロ、他人事、正論でしょ感満載の顔でスーッとビールを飲み淡々と喋る冷酷。


さとみ「あんた人なの?本当に?可哀想とかないの?」

冷酷「ケイト君が大事な時に僕は引けません」

さとみ「どういう事?」

冷酷「ケイト君が頑張ってお客さん呼んでるのは皆んな知ってます。今月からは僕と違ってケイト君はナンバー陣です。ナンバー陣のヘルプについて、締日に引けるような事は出来ません」


上手い。話のベクトルを俺に軌道修正した。

絶対本音は感情ゼロだけど、仕事はしてくれる。


僕「さとみ、俺の口から言うべきだった。ゴメンな。もしかしたらだけど、ナンバー上位に入れるかもしれない。いやNo. 1いけるかもしれないんだ。頼む、さとみの精一杯で後押ししてくれ。お願いだ」


冷酷「No. 1?えっ?えっ?嘘でしょ?」

僕「絶対言わないでください。ちょっと他の卓で動きそうなので」耳打ちする僕。


冷酷「うんうんうんうんうん、わかった。絶対に言わないよ。もし漏れても僕じゃないからね。」

僕「ありがとう」


さとみ「え、そんな凄い事おきるの?怖い」

僕「さとみは昼職だし、その中でも頑張ってくれてる事は知ってる。でも最後振り絞ってくれ。頼むよ。」

さとみ「でもぉ‥」

僕「来月は無理しなくてもいい。本当だよ。」


さとみ「‥わかった。」

僕「ありがとう。じゃあさとみ、オリシャン2本もらうよ?」

さとみ「‥いくらになる?」

僕「30万くらいかな。いける?」

さとみ「‥わかったぁぁ」


押しに弱いさとみ。

冷酷に1時間以上煽られ、担当にダメ押しを喰らいKO。


冷酷「さとみちゃん色々言ってごめんなさい。私、ホスト人生をかけてオリシャン飲ませていただきます。本当ありがとう。ケイト君ささっ!」


僕「さとみ、本当にありがとうな。待っててくれ」

さとみ「けいとぉぉぉぉ。好きぃぃぃ。」

僕「ありがとう」

さとみ「ありがとうじゃねぇよ!ったくよ!早く行ってこいよ!」

僕「行ってくる!俺も好きだよ、さとみ!」

去り際さとみのおでこにチューする僕。


さとみ「フォッッフェーーーーイ!!ちょっとぉぉおおお!フォッッフェーーーーイやめてよけいとおおおおおお!!!」


冷酷「ケイト君はもう行きましたよ」


  最後に負けた

もう1卓のラストオーダーの回収も終わりキャッシャーへ。これで全卓の伝票回収が終わりました。


ここから先は、オールコールでも100万以上のオーダーがあれば、それだけはシャンパンコールをするという店のルールがありました。

締日とは言え、これが連チャンで続く月もあれば全くない月もあります。


僕はマイちゃんの卓へ戻ります。

マイちゃんは少し酔ってる?あの後、ハイペースで飲んだようです。ゴリラヘルプが舎弟のようにマイちゃんのピッチに合わせていました。


そして突然、店内の照明がガンっと落ちました。

店内は大盛り上がり。

どこの卓で高額がおりたんだ!!と言わんばかりの大歓声。指笛や拍手で店内のテンションは今日イチ




祈る僕。

セツナが来たらダメだ。絶対に。これで100万コールされたらリシャールが入ってもかなりヤバい。どっちみちかなりの僅差なんだ。本当にやめてくれ

絶対にやめろ。




代表「本日も当店締日にご来店いただきまして、誠にありがとうございます!!!

さぁ今月はとにかく熱い熱い熱すぎる!!!

見せてくれたぜこの男!!


その男の名は

なんと

なんと

なんと






僕(俺にこい俺にこい俺にこい。そしてこのまま終わっちまえ!!!)





代表「セツナさんのテーブルに全員集合全員集合!!!!

獲物の名はなんとなんとなんとなんと!!!!!!!!!!

リシャール1発いただきましたあああああ!!!!!!!!!!!!!!」



バチくそに盛り上がる店内。

セツナは狂喜乱舞。エースも発狂

No. 1を確固たるものにすべく最後のラストオーダーでかましてきた。


目眩がするような感覚。

まさかのリシャール。

もう、この時点でセツナとの売上差は、500万差。

完全に詰んだ。


No. 1を舐めてた。


リシャールのお出ましに店内のボルテージは更に上がる。


セツナ「俺にはリシャールが似合う。これこそ本物のが持つべき飾りだ!俺は今月もNo. 1!間違いない!姫あんがとなあ!!!!愛してるぜえええ!!!!!」


セツナのリシャールオールコールは大盛り上がり。

あちこちから歓声が響き渡っています。

アンチを実力でねじ伏せる男セツナ。あっぱれである。


僕は愕然としながら最後尾でオールコールに参加。

もう、俺がリシャール入れても負けは確定。

結局勝てなかった。

結局、最後の最後で勝てなかった。

俺はダメな奴だ。


溢れてくる涙を誤魔化しながら、感情とは真逆の笑顔で泣きながらのシャンパンコール。


涙が止まらない。悔しい、悔しい、悔しい、、、



  負け戦

大歓声のリシャールオールコールが終わり、店内はセツナ一色。

涙を流してる僕なんて誰も見てません。

リシャールを片手に記念撮影をしてるセツナ。

セツナエースも感極まって泣いています。

それくらい当時のリシャールは憧れの特別な飾りボトル。


僕はマイちゃんの卓へ戻ります。

マイ「ケイト。なんで泣いてるの?」

僕「負けた、、負けたんだよ。負けた、、せっかくリシャールいれてくれるのに、、負けた、本当っ、、ごめん、、」

マイ「一生懸命やって負けたなら仕方ない。けど、あたし諦めてないから!!!!」

僕「‥」


記念撮影が終わりナンバー発表かと思いきや、またもや照明がガンっと落ちます。


そう、俺のリシャール。

マイちゃんが決めてくれたリシャールのオールコールです。


代表「今宵の締日は本当に熱い!!!

お前ら全員よく聞け!!

なんとなんとなんとなんとなんと!!!!

ルーキーのケイトさんのテーブルよりなんとー!!!!!!」


湧き上がる店内。


代表「こちらもかましてくれたぜ!!!

リシャール1発いーーただきましたーーー!!!

ケイトさんの卓に全員集合全員集合!!!!」


キャスト達が大騒ぎしても。

シャンコがクソほど盛り上がっても。

マイちゃんに悪いとしか思えず、ずっと下を向いていました。

マイちゃんにはセツナとの売上差は言ってない。

だからマイちゃんは諦めないとか言えるんだ。

250万差で負けたんだよ。

本当ホストとして未熟だ。申し訳ない。


キャスト達には、まさか入店して数ヶ月の奴がリシャールなんてと言わんばかりに驚きと感動とで揉みくちゃにされました。


冷酷「ケイト君!ケイト君!凄いよ!!凄すぎるよ!!!やったじゃん!!!おめでとう!!!」


僕「ああ、ああ。」

冷酷に声をかけられてふと我に帰る。


そしてマイちゃんを見ると


マイ「ケイト、リシャールだよ」

ニコッと微笑むマイちゃん。


俺はなんてどうしようもないホストなんだ。

せっかくリシャール入れてくれたのに、こんなザマで。

マイちゃんだって今日まで辛かったに決まってる。

あの日初回で来て「No. 1にしてあげる」って言ってくれて、締日でリシャールを入れてくれた。

これはどう考えても本気だったじゃないか。その本気を、セツナに負けたからって台無しにしていいのかよ。一気にくる自己嫌悪。


これじゃあダメだ。

素直に今はリシャールを喜べ俺!感謝を伝えろ!



ケイト・マイク「姫!本当にありがとうございます。ごめんなさい取り乱して。あの、本当に俺がホストを始めてまだ間もないのに、こんなリシャール入れてくれて、、。本当に夢みたいです。姫からこれからも応援してもらえるようなホストを目指します。本当にありがとう!!」


拙いマイクを、うんうんとニコニコしながら聞いてるマイちゃん。


また涙が出そうになりました。


マイ「伝わってる。伝わってるよ色々。ありがとうケイト」


店内はW杯の渋谷のような盛り上がりを見せてオールコールが終了しました。

皆んなが僕とマイちゃんに拍手をしてくれました。

他のお客さんも皆んな総立ちで拍手を送ってくれました。とても幸せな気分でした。


ですが、ここで

セツナ「ケイト!良かったな!おめでとう初リシャール!!!」皮肉たっぷりに握手をセツナに求められました。

(くっそ、、情けねえ、、)


どう考えても煽り。追撃を仕掛けてきてる。

俺には勝てないと言わんばかりの自信に満ち溢れた表情。

けどホストは結果が全てだ。

潔く負けを認めよう。


僕「セツナさん凄かったです、ほんとにびっ

陽介「お前ら全員戻ってこい!!祭りは終わらねぇぞ!!!!!」



  ぶちかます

代表「なんと!!なんと!!!!なーーーんとなんとなんとなんとなんとなんとなんとなんと!!

これで終わらないのが今月の締日!!!!!!

やっっっっっっってくれたぜ!!!!!!!」


全員「!?」

セツナ「はぁっっ!?なんだよ?」



再び照明が落ちる。



代表「スーパールーキー、ケイトのテーブルはまだまだ締日が終わらない!!!!!!

全員耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ!!!

陽介ぇ!!!!代われ!!!!お前に任せたぞ!!!」


僕「なっっ‥!」


陽介さんがマイクを持つ。



陽介「こちらのスーパーエースそしてスーパールーキー!!!!リシャールに続いてやってくれた獲物の名は!!!!」




・・・・・・・・

・・・・・・・・




静まり返る店内。



陽介「ぶちかますぞ!!!!ケイトォォォォォォ!!!!!!」


マイ「いけぇぇぇぇ!!ぶっっちかませぇぇぇ!!!」



陽介「スーパーエースよりー!!リシャール2発目いーーーーただきましたーー!!!!」


店内「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


ケイト「こ、これは」


次回へ続く。

どうなる締日



●Twitter

@Keito2018317


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